次は武器屋なのじゃ
こんにちは。
ちょっと風邪をひきました。インフルではないようなので大人しくして頑張ります。
「見たら死ぬとか言う話は無論嘘だぞ。俺たちは一度出会ってるからな。逃げられちまったが」
「あれは死霊だったと思うわ。妖精の気配ではなかったもの」
「なので凶兆の妖精としての首切り馬が存在するならまた別の話ですね」
ジーダル等は面白いものと戦ったことがあるのじゃのう。
「手強かったのかえ?」
「半幽体で手応えがなかったわ。幽霊程度なら核になってる魔漿石を突き壊せばいいだけの話だけどあれは無理ね」
「ミチカくらいの魔法使いなら焼き尽くせば済む話だと思いますが、そうでないなら魔銀の武器を持っていても苦労する敵だと思いますね」
「ほう……、ん?」
おかしなことに気が付いたのじゃ。
「そこでアーヴィスの話です」
「うむ、聞くのじゃ」
「悪霊殺しのアーヴィスがそう呼ばれたのは『塚人殺し』と言う呪われた剣を携えていたからです」
「呪いなのかえ」
「同じ寝床で六日眠ることが出来ないっつう放浪の呪いを受けてその生涯を旅空で送ったんじゃが、草原小人なんで本人は気にした様子もなく旅から旅の生活を楽しんでおったぞ」
本人を知る爺さんの注釈なのじゃ。
「その『塚人殺し』は幽体を実体化させて切り裂く力を持ち、それを佩くものを悪霊との戦いに駆り立てます。悪霊に再び死の痛みを与えるその力はやはり呪いでしょうね。それが二つ名の理由であり、そこに半幽体のはずの首切り馬の皮がある理由となります」
悪霊を二度殺すための力に悪霊を殺し尽くすために一所に留まることを許さぬ放浪の呪い、どっちが悪霊か解らぬほどの怨念を感じる話なのじゃ。
そしてわらわの感じた疑問も解消されたのじゃ。
「そのアーヴィスが亡くなってもう十年くらいでしょうか。『塚人殺し』は新たな使い手を求めて世間を流れているはずです。呪いの力で使い手がない状態でも一カ所に留まりませんので」
「ふむ。興味深い話じゃの」
「十年になるが年に一度は油をくれて手入れしておったから問題はないぞ」
「そこは心配しておらぬのじゃ」
「素材が貴重すぎてバラして他のものに混ぜることもできんし困ったものじゃったわい。儂には確かめようもないが幽体からの攻撃に耐性があるはずじゃ」
幽体に殴られたらそのときに解ると言ういい加減な話を聞いたのじゃ。
「しかし、首切り馬の素材で頭を守るのは縁起の悪さが極まるゆえやめておくのじゃ」
「確かにそれはそうじゃな」
鉢金は外すのじゃ。ついでにじゃらじゃら付いておる革帯も腰の一本を残して外すのじゃ。格好はいいのじゃが別段短剣を提げたりせぬわらわには太股の帯やら肩から斜め掛けする投擲短剣用の帯やらは要らぬのじゃ。
「帯のうち使うのは一本ゆえ胸甲を留めるのに使った後、残ったものを注文したセスタスに流用できぬかの?」
「ふむ、基本が革紐だということじゃったな。白の奴の腕前なら首切り馬の皮でも何とか使えるじゃろう」
「拳の部分に使うよう頼むのじゃ。もし幽霊やなんぞに遭ったら一発殴ってみるゆえの」
「ぐわっはは。そりゃええわい」
大笑いしおった後、ピレネー犬の人を呼んで指示を出しておるのじゃ。わらわからももう一度頼んでおくのじゃ。
セスタスの預かり証に鎧のことも書き足してこの店での用件は済んだのじゃ。
「世話になったの」
「お騒がせしました」
「私の鎧の修復も忘れないでね」
口々に挨拶して店を出るのじゃ。
店を出るとオルンが大きく息を吐いたのじゃ。皮加工の臭いがきつかったのかの。
「魔法陣入りの鎧なんて初めてだよ」
「そうだねー。その分お値段が今までのものと比べものにならない」
「がんばって稼がないとな」
「おう、頑張れよ」
なるほどなのじゃ。オルン等もやりくりが大変なのじゃな。
お次は武器屋なのじゃ。ここも奥が鍛冶場になっておる職人の店なのじゃ。魔鋼を扱える鍛冶は多くないゆえ顔を繋いでおくのは大切なのじゃそうなのじゃ。
武器専門ではわらわはあまり関係があらぬのじゃ。ただ、皮革工房と違って展示されておる商品は多くあるゆえ見て回る楽しみはあるのじゃ。
オルン等も魔鉄や魔銀と言った魔鋼製品には手が出ぬが上質な鋼の武器を見ておるのじゃ。
「双子等は短槍の予備を自分等で背負うかガントに持っておいて貰うかした方がいいかも知れぬのじゃ」
「えっ、そうなの?」
「どうして? ミチカちゃん」
「<早足>の速度で体重を乗せて突き込めば深く刺さり過ぎることもあり得るのじゃ」
「ああ、それを抜こうとして戦ってる最中に足を止めたり、でかい獲物に引きずられたらやばいな」
一緒に聞いておったガントも思案しておるのじゃ。双子等のお兄ちゃんも大変なのじゃ。
「そっかー」
「うーん」
「予備じゃから軽いものにしておくのもありなのじゃ。使い勝手が変わらぬように同じものを揃えるのもよいがの」
槍を見ておる兄妹はおいておいて見回すとオルンは剣を見ながらジーダルに意見をもらっておるのじゃ。相談役として間違いはなさそうなのじゃ。
モリエは基本が鍛冶屋で弓はないゆえ短剣や鉈を見ておるの。
そうやって見回しておると手持ち無沙汰なベルゾが話しかけてきたのじゃ。
「ガントは自分の師匠から杖の工房は教えられているので別に紹介する必要はないんですが、ミチカは杖を使ったりはしますか?」
「焦点具には興味があるのじゃが、杖にはピンと来ぬのじゃ」
そうですか、と肩をすくめたのじゃ。剣を使うとはいえ武器屋では暇なのじゃの。
仕方ないゆえ高級な剣に刻んである魔法陣についてなぞを尋ねて話につき合ってやるのじゃ。
お読みいただきありがとうございました。
♯前話からこの話にかけて出てたデュラハンについて。
♯転移者が作った冒険者協会の資料に載っているけどこの世界では未確認です。
♯妖精というのはその転移者発信の元ネタ情報ですね。