皮の話なのじゃ
こんにちは。
今日もよろしくお願いします。
「まあ、魔金の剣は世に何振りかあるとは言いますがそのうちの一本はこの国の国王陛下の佩剣ですよ。王家に代々伝わる重宝となる様な品の話をしても意味はありません」
「そうだな、皮の話だ。雑に言えばより強い魔物の皮がより強い。俺たちの外套は亜飛竜の皮で、いざと言うとき魔法への防御力を強化するための魔法陣が入っていて魔漿石を留め金の部分に仕込んである」
そう言うて外套の留め金の部分の内側を見せてくれるのじゃ。
「なかなかに大した外套なのじゃな。その亜飛竜は自分等で狩ったのかえ?」
「ああ、そうだぜ。今からいく店で皮は持ち込みで作って貰ったんだ」
ワイバーンを狩ったと軽く言うジーダルにオルン等は尊敬の目を向けておるのじゃ。
ジープラント王国と西方域とを隔てるヤーガトウム山脈に亜飛竜は生息しておるのじゃ。亜飛竜は竜に似た姿を持つ空を飛ぶ魔物なのじゃが分類上は竜族ではなくあくまで魔物なのじゃ。
知性を持つ本物の竜族に言わせれば人族と猿ほども違う、とのことらしいのじゃが逆に返せば人と猿程度にしか違わぬと言うことなのじゃ。その為、亜竜族と言う分類をする場合もあるようじゃの。この手の分類は系統だった学問になっておらぬゆえ相当に曖昧なのじゃ。
陸路による西方域との交易が盛んに行われておった頃は交易路の安全確保のための亜飛竜討伐も盛んであったそうなのじゃが、今では交易路も廃れてしまい討伐されぬ為、亜飛竜は数を増やしておるのじゃ。
無論、これらは冒険者協会の資料室にあった資料の情報なのじゃ。
交易路維持のための討伐依頼はないものの、数を間引くための討伐依頼が高位の冒険者に出されることもあるとも書いてあったゆえジーダル等はそれで狩ったのかも知れんの。
「強いのは勿論だけど、飛ぶのが面倒なのよ」
「行動半径は広いですが所詮魔物ですので接敵は問題ないのです。ですが当たり前ですけど逃げるんですよ、空を飛んで」
ジーダル等三人は亜飛竜討伐の面倒さを語るのじゃ。
「ああ、昔山越えの陸路があった頃に討伐してた爺さんの話を先に聞いとくべきだったな。昔はでっけえ鳥罠みたいな罠や翼を絡めるための錘の付いた鎖を準備してたらしいぞ」
「準備不足で力押しだったのじゃな」
「まあそうだな。B級になりたての時分に南部の支部へ応援に行けと言われてなにも考えず行ったんだよな。でもまあ亜飛竜の皮が手に入って悪くねえ仕事だったさ」
そう言ってジーダルはガシガシと頭をかいたのじゃ。
「って、また話が変わってるな。すまん。えーっと、魔物じゃない動物の皮でもある程度効果はあんだが魔物の皮の方がいい。加工出来る職人が少ない分お高くなるがな」
「長く使える高級品はわらわや双子等には悩み所じゃの」
「ん? 四腕熊の皮でも魔法を使う小鬼や豚鬼を相手にするとき全然違うぞ」
わらわは的を外したジーダルに肩をすくめたのじゃ。
「そう言う話ではないのじゃ。わらわはまだまだ背が伸びるのじゃ。双子等もの」
「うん、今年一年でめっちゃ伸びたー。皮鎧が合わなくなって継ぎ接ぎだよっ!」
「背丈だけじゃなくてぼんきゅっぼーんになるよ!」
「母さんの背は今の私より高かったから私もまだ後少し伸びるかも」
モリエもじゃったのじゃ。しかし鎧が合わなくなるのは問題じゃの。
「ああ、そう言うことか」
「成長期も大変ねえ」
双子等の着ておった革の簡易鎧は身体に合わなくなった元々の革鎧をバラして頑丈な布を足してパーツを縫い合わせたものであるそうなのじゃ。
「外套は裾を折り返して縫えば翻る格好良さが減るだけでどうにかなるでしょう。鎧の方は職人に相談してみることですね」
それは最も重要な点ではないかの。まあわらわは鎧は保留ゆえよいのじゃ。胸甲なぞの部分鎧はあっても良さそうではあるのじゃがの。
「しかし、鎧が合わなくなるほど伸びるようでは街着も問題じゃの」
「街着はいいやー」
「これは兄ちゃんの上着を奪ったー」
ぼんきゅっぼんになるなぞと言いながら色気がないことなのじゃ。モリエがそれにため息を付くのじゃ。
「明日、仕立屋さんに連れて行ってもらえるのに誘ったけど二人は槍の練習してるって」
「修練に熱心なのはよいことなのじゃが、春には十五なのじゃよな」
前世の記憶ではまだまだ子どもの年齢なのじゃが、ここでは十五の成人と同時に結婚するものも多いのじゃ。まあ冒険者はどちらかと言えば晩婚の傾向が強いようなのじゃがの。
「んー、服は嫌いじゃないけど買い物は面倒ー」
「んー、おんなのかいものはながいっ」
女の買い物は長いというどこかで聞いたのであろう言葉をそのまま口に出しておるマーセの主張に男性陣どもが首肯しておるのじゃ。
此奴らはもてそうにないのじゃ。わらわだけでなくモリエとセイジェさんもジト目で見ておることに気づいて男性陣どもは目を逸らしたのじゃ。
双子等の街着に関しては鎧のためにサイズを測るであろうゆえそれをメモしておいて注文してやろうかの。そんなことを考えるうちにジーダルたちの馴染みの店に到着なのじゃ。
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