クッキーも完成なのじゃ
こんにちは。連休ももう終わりです。寒いですが明日からも頑張りましょう。
今日もよろしくお願いします。
「あのね、ミチカちゃん。ミチカちゃん自身は隠そうとしていることは分かるんだけど隠せてないわ」
「ななななんなのじゃ」
失敗したのじゃ。いやまだ慌てるには少し早いのじゃ。
「その鞄が収納鞄なんだってことはよく見ていると分かっちゃうわよ。ミチカちゃん使いすぎだわ」
ほう、収納鞄というものがあるのじゃな。微妙に誤解してくれておるようなのじゃ。とりあえずその誤解に乗っかっておくのじゃ。
「そ、そんなに使っておるかの」
「ミチカのカバンは何でも出てくる不思議なカバンー」
サーデがそう歌いながらくるくる回るのじゃ。回転軸が安定しておってなかなかの上手なのじゃ。
しかし双子等に未来からきた猫型ロボットのように思われておったとは不覚なのじゃ。素直に反省するのじゃ。
「収納鞄は今では作れる人がいないと言われる貴重品だから隠そうとするのは正しいんだけど、もう少し気をつけないと駄目ね」
「父の馬車と積み荷と一緒に奪われる前になんとかこれだけは持ち出したのじゃ。それがフォ・ヒセンを全力で逃げ出した理由なのじゃ。交易品も多少は入っておったのじゃがそれは二束三文で売っぱらって旅費にしたのじゃ」
よしっ、設定上のストーリィ補完なのじゃ。
「ゆえになのじゃ、出来得れば秘密にしておいて欲しいのじゃ」
「勿論よ、だからミチカちゃんの方も気をつけて」
いつの間にかマーセも一緒にくるくると回っておった双子等もぴたっと止まって大丈夫、のハンドサインなのじゃ。三半規管丈夫じゃのう。
一人チュロスを黙々と揚げておるモリエも当然ー、と返してくれおるのじゃ。皆、ありがたいのじゃ。
「ホントに見てたら何でも出してきてるからね!」
「気、気をつけるのじゃ」
迂闊であったのじゃ。忠告をありがたく受け取って本当に気をつけるのじゃ。隠すべき内容は少し違うのじゃがの。
まあ、それは兎も角気を取り直してクッキーなのじゃ。
「この型抜き作業は楽しいゆえちゃんとモリエとも交代するのじゃぞ」
「あーい」
「わかったわ」
見ている前で広げた生地からポンポンと型を抜くのじゃ。このままでもよいのじゃが、と木の串を持って卵形に模様を書いたり猫形に顔を書いたりするのじゃ。
「別に模様は必要ではないのじゃが、書いた方が楽しいであろう。売り物にするならまた別なのじゃがの」
型と串を渡すと喜々として型を抜いては模様をつけ始めたのじゃ。
わらわは型抜きクッキーの生地より卵の量を少し増やしたちょっとだけゆるめの生地に刻んだ干しぶどうを混ぜ、匙二つで形を取ると言う作業を始めたのじゃ。クッキングシートがあらぬゆえ天板に薄く油を敷いてその上なのじゃ。これは型抜きクッキーも同じなのじゃが、多少の不安事項なのじゃ。
型抜きと交代で手伝ってくれる体制になったゆえ干しぶどう以外のドライフルーツでも同様に作るのじゃ。
わらわは前世でクッキーを焼くときにはオーブンに入れる前に一度冷蔵庫に入れておったのじゃ。混ぜたバターを固めた方がキレイに焼ける気がすると言うのがその理由なのじゃ。
このコツは父さま発信ではなく母さま方式なのじゃ。
「外気で少しばかり冷やすのじゃ。鳥なぞにかっさらわれぬようにな」
と頼んで少し忘れかけていた卵白の出番なのじゃ。
卵白を混ぜたクッキー生地を天板の上に手のひら程度に丸く広げて焼くのじゃ。円周に焦げ目がついた程度で取り出すとまだ柔らかいのじゃ。
そのまだ柔らかい生地を太めの串にくるくるっと巻き付けてまたオーブンに戻すのじゃ。作業は生地が熱いゆえ<念動>を駆使するのじゃ。
巻いた端を下に、そして途中で回転させてと手を掛けつつ完全に焼き上げるのじゃ。
串を抜くと、いわゆるシガークッキーなのじゃ。シガレットクッキーと言う場合もあるのじゃがシガー、葉巻形のクッキーが正解なのじゃ。シガレットは紙巻、つまり普通のタバコゆえ大分細く巻かねばその名は当たらないのじゃ。ココアシガレットは無論正しい名前なのじゃ。はあ、ココアが欲しいのう。
それは兎も角なのじゃ、クッキータイプの菓子はきっとあるのじゃがシガークッキーであれば食感も変わるし違うものと認められるに違いないのじゃ。
そういう意図の実験作じゃの。
もう生地を冷やすのは充分ゆえクッキーも焼きまくるとするのじゃ。
「持ち帰りを袋に詰めるのはあら熱が取れてからの方がよいのじゃが、食べる分には構わぬじゃろう」
「あのね、ミチカちゃん。袋に入れたお菓子をお土産で出すときは最初から出しておくのよ。鞄から取り出すんじゃなくて」
「な、なるほどなのじゃ」
大抵その場の思いつきで出してったからの。為になる助言なのじゃ。
チュロスが通常のハニーチュロス、西方茶のチュロス、緑茶のチュロスの三種。
型抜きクッキーがプレーン、西方茶、緑茶、チーズの四種。
他に干しぶどうクッキーとドライフルーツクッキー、シガークッキー。
合計十種類なのじゃ。よくもまあ作ったものなのじゃ。しかしドライフルーツはもう少し種類を増やしたいし、ナッツ類のクッキーもよいものゆえまだまだ足りぬのじゃ。
サクリ。うむ、つまみ食いしたのじゃが上出来なのじゃ。サクサク。茶はもう少し茶の風味が強くても良かったかの。
「茶の味のお菓子の問題は同じ味の茶では楽しみが減ずると言うことなのじゃ。一緒に出すのは焙じ茶にでもするかの」
「お、美味しい!」
「チュロスはどっしりして食べ応えがあるけど、くっきーはサクサクとしてていくらでも食べられる気がする。やばい」
「こういうお菓子はあるだろうと言ってたけど私は食べたことないわね。私はこの干しぶどうのくっきーが気に入ったわ」
つまみ食いをした皆が絶賛なのじゃ。
「後でと思っておったのじゃが、セイジェさん、モリエ等、わらわのそれぞれ持って行く分を先に袋に入れるかの。出しておっては食い尽くされる危険があるのじゃ」
「その通りね」
「間違いない」
頷き合うのじゃ。
「サーデ、マーセ、好きな奴はどれ? 少し多めに取り分けて貰おう」
「あー、チーズ! チーズのくっきーが好き」
「あたしはこの丸まった奴ー。えー、しがーくっきー? これもくっきーなの?」
「それは食感が面白いわよね」
かしましく袋詰めを行って、それでも充分の数が残ったのじゃ。まあ熊さん等の分を残したいのじゃがジーダルがおるからどうかの。
陶製の鍋があったゆえそれで緑茶を焙じて焙じ茶にするのじゃ。
ちなみに緑茶は厨房になかったゆえ手出しなのじゃが、確かにいろんなものを持ち運んでおることになるのじゃ。その瞬間瞬間はちゃんと誤魔化しておる気持ちであったのじゃが、深く考えてなさ過ぎじゃったのじゃ。
「また変わったことをしているわね」
「緑茶をこうして焙じるとじゃの、香ばしくてまた別の味わいがある茶になるのじゃ」
「甘くないの?」
「甘い菓子類を食べながら喫すものゆえ茶の方は甘くなくてよいのじゃ」
「なるほどー」
「ほら、くっきーのお皿持って。そのお茶のお盆は私が持つから、ミチカは手ぶらで」
時間は大分かかったのじゃが、食堂に戻って食後のお茶の時間なのじゃ。
お読みいただきありがとうございました。