いざ料理勝負なのじゃ
こんにちは。
何というか盛り上がりもなく100話ですが、よく考えたら登場人物紹介があるので次が真100話ですね。
どちらにせよ長々とお付き合いありがとうございます。
そうやって料理と会話を楽しんでおったのじゃが、わらわ的に驚きの一皿が出てきたのじゃ! や、焼けたチーズの匂いなのじゃ。
蟹の甲羅にチーズが乗っておってグラタンかやっとテンションがあがったのじゃが残念ながら野菜と蟹のほぐし身を茹でたものの上にチーズを乗せて焼いたチーズ焼きなのじゃ。
あがったテンションの持って行き場に困るのじゃがチーズが嬉しいのでまあ良いのじゃ。
ちなみにそんな大きい蟹ではなく手のひらサイズの甲羅が十個ほど皿に載って出てきておるのじゃ。
「その蟹はベルゾの好物ね。私も好きだけど」
「チーズをこの辺りでは見ぬゆえ諦めかけておったのじゃ。仕入先なぞを訊くのは礼儀に反しておるかの」
「聞いたことがありますよ。私もこのチーズとやらが好きなので」
「ほう」
「メルデンカシナ産ですよ。メルデンカシナ王国の産物なので仲の悪い我が国ではあまり食べられないみたいですね」
「勿体ない話なのじゃがそれ以上に、なっちゃおらぬことなのじゃ」
フォークを糸を引くチーズを巻き取って口に運びながらベルゾとそう話すのじゃ。うむ、美味なのじゃ。これは多分山羊の乳のチーズなのじゃ。
「なっていない、とは?」
「この国でより美味しいチーズを作って対抗するのが正しい仲の悪さの有り様なのじゃ」
「なんか壮大な話をしているな」
熊さんが酒瓶を一つ提げて厨房から出てきたのじゃ。
「美味しくいただいてるわよ」
オルン等も口々に感謝しておるのじゃ。双子等はやはりジーダルと同じくローストビーフがお気に入りのようなのじゃ。
「大皿といえ配色なぞを考えた盛りつけで感心したのじゃ。この辺りでは彩りや見映えの良さを考えた皿が出てくることは少ないからの」
「……。ありがとよ。お嬢ちゃんはホントに料理のことがわかるようだな」
「ミチカのことはそう言うもんだと思って気にすんな。それより、その酒はアレだろ」
ジーダルのわらわの扱いは雑すぎる気がするのじゃ。
「まあチーズのことは商業組合長にでも話すことにするのじゃ」
「えっ」
「ん?」
何か驚いた様子の熊さんにわらわの方は小首を傾げるのじゃ。
「ふふっ、商業組合の組合長なんて普通はそんな簡単に話をするとか言う相手じゃないのよ」
「茶を飲んで多少話しただけなのじゃが、確かに忙しそうではあったのじゃ。しかし、組合長は面会依頼も出しておらぬのに向こうから会いに来たような気がするのじゃがな。あとギルマスとは喧嘩友達のようでの、両方とも互いの悪口を言っておったのじゃ」
セイジェさんが理由を教えてくれたのじゃが、いまいち納得まではいかぬのじゃ。ついでに親しみやすいエピソードも添えておいてやるのじゃ。
「あー、ギルマスとも昼食を摂りましたし余りそうは思わないかも知れませんがギルマスも大した地位なのですよ」
「俺たちはギルマスを見たことはあるけど話したことはないなあ」
ベルゾとオルンがそう言うのじゃが、特にオルンの方は単に忙しくて出歩けておらぬからレアキャラと言うだけな気がするのじゃ。
「ギルマスとは今朝執務室で茶を飲んだのじゃが、仕事は積み上がっておったからの。気軽には出歩けぬのじゃろう」
「ギルマスに正規の印章を貢がせるミチカには言うだけ無駄でしたね」
人聞きの悪い言い方なのじゃ。
「ふむ、で、それは蒸留酒かや?」
ジーダルは絡んで来ぬの、と思っておったら熊さんが持っておった酒を給仕のお姉さんが持ってきてくれた新しい杯に注いでおるところだったのじゃ。そしてそれがウイスキーっぽいのじゃ。そう言えば収納空間に高級そうな酒瓶も収納されておるのじゃが中身の確認をしておらぬのじゃ。
「蒸留……? えーっとここ辺りでは『錬金術師の酒』と呼んでるな」
「葡萄酒を蒸留したものであれば菓子の香り付けにも使うゆえ興味あるのじゃが、それは兎も角なのじゃ。このあと買い物ゆえ潰れるではないぞえ、水で割ることをおすすめなのじゃ」
「分かってるよ。オルンにも勧めようかと思ったが、それは今度だな」
「は、はい」
いきなり名前の出たオルンは慌てて返事をしておるが、アルハラは回避されたようで何よりなのじゃ。
「のう、熊さんや」
「おう、なんだいお嬢ちゃん」
熊さんに話しかけたらモリエに脇腹をつつかれたのじゃ。なんなのじゃ。
「ミチカ、ベアルさん」
「おおうっ」
「あー、別に熊でいいぞ。元々冒険者言葉で熊って意味の渾名だからな」
「ほほう、そうなのかや」
ベアーであったのか。驚きなのじゃ。
「では失礼して熊さんや、調理人に城を貸せとは無礼なことと重々承知はしておるのじゃが、ジーダルと飲んでおる間少々厨房を使わせてくれぬであろうかの。石窯はまだ熱いのであろ」
「……。いいだろう、俺も興味あるしな。食材も好きに使ってくれて構わん」
「感謝するのじゃ。食材の対価はジーダルにつけておくのじゃ」
「ミチカは俺からの扱いが悪いとか言うが、絶対にミチカの俺の扱いの方がひどいからな」
「気のせいなのじゃ」
他のものはわらわが料理するというのに興味を示しておるのじゃ。
「久しぶりですので楽しみですね」
「えーっと、ゴンゼイキョルトに着く前日じゃったから十日くらい前かの。久しぶりと言うほどではないのじゃ。それは兎も角なのじゃ、ベルゾよ。わらわと一つ賭をせぬか?」
ぴっと指を立ててベルゾにそう言うたのじゃ。
「賭け、ですか?」
首を傾げるベルゾに説明するのじゃ。
「其方等はの、城市で一番実力のある冒険者なのじゃ。D級への昇級申請が通れば名実共に、と言うことなるのじゃがそれは兎も角なのじゃ。それに見合った扱いが必要となるのじゃ。これが神殿の仕事を依頼できぬ理由なのは分かるの?」
ベルゾが分からなくはないですね、と頷くのを確認して続けるのじゃ。
「しかし優秀な人手であることは間違いないのじゃ。ゆえに修道会の運営に根本から参事してもらうのが解決策なのじゃが、その場合修道会が安定して利益を生むようにならぬ限り無報酬なのじゃ。これでは人に頼めるわけがあらぬのじゃ」
ここで言葉を切るのじゃ。そしてこちらを見るベルゾにニヤリと笑いかけるのじゃ。
「ゆえに、賭けなのじゃ。これからわらわが作る料理で其方を感服せしめることができたならば、じゃ、其方はそれを報酬に修道会の参議となるが良いのじゃ! どうじゃ、この勝負乗ってみぬかや?」
「どうも私に勝ち目がない気がするのですが、乗りましょう」
ベルゾは笑いながらそう応えたのじゃ。
「それに、その勝負であればミチカはつまり私の好みに合うような料理を作ってくれるってことでしょう?」
「そうなるの。楽しみにしてよいのじゃ」
「厨房を借りてまでなにをする気かと思ったら、料理を食べさせてやるから仕事を手伝えって言うためだったのね」
「要約しすぎなのじゃ。料理を介した真剣勝負なのじゃ」
呆れ顔のセイジェさんにそう応えておるとモリエが袖を引いたのじゃ。
「ん、ミチカ。手伝う?」
「うむ、頼むのじゃ」
では早速モリエを連れていざ厨房なのじゃ。
お読みいただきありがとうございました。
少しでも楽しんでいただけたなら幸いですよ。