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屋台でものを買って喰らうなぞ贅沢なのじゃ!

お越しいただき多謝であります。


本日更新二回目です(2/2)。


「ああ。クードンが居るときは店の前に若い衆が門衛みたいな感じで立ってるんだ。立ってないときは居ない。家もあるはずだけどそれはどこにあるか知らないな」

 ラーリから立地などを聞き取りながら歩く。わらわたちの孤児院は城市の南側の住宅街区にあるのじゃが、そこから東門の通りの方へ進む。が、栄えておる門前の繁華街に入る前に道を折れ寂れた外壁通りへとまわる、うむ、道案内のラーリがいて良かったのじゃ。外壁通りは倉庫と未開発の閑地が多く門から離れておると倉庫も格安のものだけになり閑散としておるのじゃ。繁華街で顔を売るべき地回りの根城としては決してよい位置ではないのう。所詮は新興勢力なのじゃな。


 しかし店なのか、というわらわの疑問に関しては何か商っておるわけでなく一階が店舗用になっておる建物を使っておるというだけのことらしいのじゃ。

 ラーリは一階にしか入ったことはないが三階建てなのじゃそうな。ちなみに三階や四階の建物もよく見かけるのじゃが地震大国の記憶を持つわらわ的には少し怖いのじゃ。ここいらの地盤の安定を神に祈っておくのじゃ。えーと、この場合は大地の女神と大地の怒りを体現する地震の女神、それと大地の女神と火の神の間の子である火山の神の三柱でよいかのう。突然早口でパパッと祭文を唱え始めたわらわをラーリが胡散臭そうな目で見ておるが気にしないのじゃ。

 あ、技巧神の眷属に建築の神が御座おわすのじゃが構造に不安の残る建築物の維持管理は建築神の領域かどうかも判らぬゆえおいておくのじゃ。

 三千香には神仏に祈念する習慣がなかったゆえ、神に祈るのは神殿付きの孤児院育ちであるアーネのそれであるのじゃ。わらわはやはりアーネでもある、それを少しうれしく感じるのじゃ。


「しかし暇じゃな。おらぬのが判るのはよいのじゃが」

「何がしかしかわかんねーけどそうだな。夕方には絶対一度帰ってくるはずだけどよ」

 地回りどもの根城が見えるところまで来たものの歩哨役のチンピラがおらぬのでボスはお留守なのじゃ。

 聞いておった通り店のような表構えなのじゃ。案外冒険者を上がった当初は本当に商売でもしようと思っておったのかも知れん。そう思うと少し哀れなものなのじゃ。


 建物自体は店舗っぽい一階部分は石組み、二三階は木組みなのじゃ。森に隣接しておるこの街では木造が安く石材は運送費込みで高いゆえ一階が石組みであるのはお店らしい見栄なのじゃ。

 無論、孤児院は総木造なのじゃ。神殿と礼拝所は石で男性聖職者たちが暮らしておった司祭館も半分だけ石だったのじゃ。

 と、建築物に関して考えておっても仕方がないのじゃ。


「ここは人通りが少ないのじゃ。七つを過ぎて暗くなってきたならば兎も角、このままでは目立ちそうなのじゃ」

「そうだな」

 ラーリは身を隠せる場所を探してキョロキョロし出すが別段張り込みが必要なわけでもないのじゃ。張り込みにはあんパンと牛乳も欲しいところではあるしのう。

「一旦東門の方にでも行って間を空けて戻ってくるのじゃ。夕方に根城に戻るのは手下どもから一日の報告を受けるためであろう。そこで孤児院から三人組が戻っておらぬことを知るであろうが先ずは待つはずなのじゃ」

「ああわかった。大物ぶってるから帰ってきてその場であわてて出かけたりはしないよな」

「まさにその通りなのじゃ」

 と決まればさっさと行くのじゃ。


「通りでクードンや手下を見つけたら教えてくれるよう頼むのじゃ」

「おう任せとけ」

「あまり不自然にキョロキョロすると目立つゆえ気をつけるのじゃ」

「わ、わかってるよ。そう言った斥候としての働きも冒険者には必要だしさ」

 信徒さんたちとの繋がりが切れて仕事先を紹介してもらえないから、という後ろ向きな理由ではなく本当に冒険者になりたいのじゃな。命がけの仕事ゆえお勧めはできぬのじゃがのう。


 わらわたちがやって来た東門の通りは人や荷駄の流れが多く、混雑しておる。クードンの根城あたりの閑散具合とは比べものにもならぬのじゃ。

 東門を抜けた街道はこの国の王都まで続いており、その途上にダンジョンを抱えた城市ローケンキョーもあるのじゃ。ラーリがそこへ行って冒険者見習いになると言っておったところなのじゃ。ラーリはそこに思いを馳せておるのか門の方を見ておるが、わらわは旅人や仕事終わりの労働者相手の食べ物の屋台にしか目が行かぬのじゃ。


 と、重要なことに気づいてわらわは意識を収納空間へ集める。うむうむ、チンピラ(3)を解体したとき魔漿石と血肉の類ばかりに気を取られたものじゃが気づかぬうちに幾ばくかの小銭も手に入っておったのじゃ。

 大した枚数ではないのじゃがそれをしけておるなぞと貶めることはないのじゃ。わらわも、おそらくラーリも文無しなのじゃからな。


 わらわはうきうきとしていくつかある屋台を見回す。場所がよいゆえ極端に安いところはないようなのじゃ。この世界の食事事情については孤児院を基準にするわけにも行かぬゆえよくわかっておらぬのじゃ。であれば悩む必然もないゆえ単純に手近な屋台を選んだのじゃ。

 その屋台で商われておるのは固そうな平焼きのパンの上にハーブと塩漬け肉が載っただけのものじゃ。オープンサンドと言い張れなくもないのじゃが言い張りたくはないのじゃ。


 商っておるおっさんに声をかけ、かけようとする前におっさんの方から威勢よく話しかけられたのじゃ。

「おう、嬢ちゃん! 金は持ってんのかい」

 失礼な店主なのじゃ。まあお金があるのはチンピラ(3)による臨時収入のおかげなのじゃし、わらわも見るからに貧しそうな服装をしておるのじゃ。故無き疑義とは言えぬゆえ甘んじて受け入れるしかないのじゃが。

「こんな工夫のない食い物をあがなう程度は持っておるのじゃ。心配するではない」

「お、おう。それはよかったって、おいこれは香草を一緒にすることで塩辛い肉が食いやすくなったって評判なんだぞ」

 凄んでおるようじゃが顔は笑っておる。小汚いおっさんの笑顔に価値はないのじゃが、此処で買うとするのじゃ。

「ほう。では食うてみるのじゃ。で、幾らなのじゃ」

「ひとつ銅貨六枚だぜ。どうだ?」

「なら二つあがなうゆえ十枚にならぬかの」

「うーん、肉を足してやるから十二枚のままだ」

「商売上手じゃな! ほれ」

 上着の隠しに手を入れ収納空間の出納機能を思考操作し十二枚の銅貨を展開して、隠しから取り出したように見せかけながら屋台に置く。

「おう、確かに!」

 屋台のおっさんは塩漬け肉の載ったパンを二つ渡してくれる。確かに肉が多く載っておるのじゃ。

「感謝するのじゃ。其方に天秤と信用の神の加護があるよう」

「お、おう」

 商業の神への祈りを踏まえた挨拶をしてなにか唖然としたようなおっさんを後目にラーリの方へ戻る。


「にくにくにく~ 久しぶりの動物性タンパク質~♪」

 作詞作曲わらわの肉の歌なのじゃ。鼻歌を歌いつつ戻るとラーリが険しい目をしておった。

「腹拵えなのじゃ。このまま夕餉のケータ入りの粥は食べ逃すゆえ、食べておかぬと持たぬのじゃ」

 そう言って片方をラーリに渡す。一瞬の躊躇いの後自分の腹の空き具合を考えて納得したのか素直に受け取ったのじゃ。

 孤児院の厨の食器棚に『夕餉までには戻れぬと思う。先に食べて。ごめんなさい』と言う書き置きをした木札を入れておいたゆえ夕餉の準備をしておるはずの今頃には気づかれておるはずなのじゃ。それで他の子らがわらわたちを待って遅くまでご飯を食べられない、という事態は避けられておるはずなのじゃ。

 これも説明したら安心したようなのじゃ。


「あがなうのに使ったのはあの三人の地回りどもが持っておった小銭なのじゃ。彼奴らに思うところはあってもお金に罪はないゆえ問題ないのじゃ」

「なんか、問題が違う気がするんだが」

 懸念は払っておいた方がおいしく食事ができるのじゃ。肉に気持ちが行っておるが我慢我慢なのじゃ。

「後で残りの小銭はラーリに渡すゆえ、自分らだけ食べるのが気になるのじゃったら小さい子らの為に腹持ちのいい食べ物でもあがなうとよいのじゃ」

「いいのか?」

「よいに決まっておるのじゃ」

 ない胸を張ってそう応え、さあ肉なのじゃ。行儀悪く道端に座って通る人々を見上げながら食べるとするのじゃ。


 ふむ、塩っ辛いが確かに肉なのじゃ。豚肉じゃな。牛や豚の畜獣がこの世界にもおることは知っておるのじゃ。

 塩漬けの肉は保存食であるゆえ扱いやすい反面、当たり前なのじゃが塩っ辛い。これをスープに入れればこの塩気だけで味付けは充分といったところなのじゃが屋台で火を使うには道具の他資格もいるはずじゃし、スープを作るためには水も運搬せねばならぬのじゃから難しいのじゃろう。かと言ってそのまま切っただけでは塩っ辛いのじゃ。


 そう、あのおっさんの言っておったハーブはなかなか良い仕事をしておるのじゃ。ちょっとした苦みとちょっと青臭いのじゃが爽やかな香味で塩気がある程度相殺されて食べやすいのじゃ。塩分過多なのは変わらないゆえこればっかりでは健康に悪そうではあるのじゃが。

 うんうんと納得しながら食べる。食べる。途中からは一心不乱にただ食べる。思っていたより更に餓えていたようであっという間に食べてしまったのじゃ。

 無論皿代わりの固い平焼きパンも腹を空かせた孤児の前には食ってしまう以外の選択肢なぞ無く、肉の塩気で美味しく齧って食べ尽くしたのじゃ。


「なぜなのじゃ。なぜ肉は食べるとなくなってしまうのじゃ」

「何わけのわからないこと言ってんだ。けど俺、肉をこんなに食ったの初めてかも知んない」

「わらわもなのじゃ。はー、美味しかったのじゃ」

 ラーリは肉を堪能したって顔をしておるのじゃ。多分わらわもなのじゃ。

「ただ、しょっぱいゆえ水が欲しくなるのじゃ」

「でも水売りから買うのはもったいないよな。俺はそもそも金持ってねーけど」

「確かにそうなのじゃ」

 ここら辺の経済観念は孤児らしいものが染み着いておるのじゃ。あ、そうなのじゃ。


「ほれ、さっき言っておった小銭なのじゃ。ついでにこれも渡しておくのじゃ」

 忘れぬうちに、と多分財布に使っておったであろう皮袋を収納空間から取り出し続けてその皮袋の中に小銭をまとめて展開する、そのとき目についた短剣を一振り一緒に取り出して渡す。鍛冶製品は高いのじゃ。ゆえに本気で冒険者見習いになる気でおるのなら役に立つはずなのじゃ。

「い、いいのか? 銀貨もあるじゃん」

 声を出すラーリの口を手で塞ぐ。わらわたちのような貧しい服装をしておる子どもがお金を持っておるのは多少危険なのじゃ。ラーリもすぐそれに気づいたようでごめんと言ったのじゃ。そのまま小声で話を続ける。

「わらわたちは銅貨の一二枚でも喜ぶところなのじゃが彼奴らはチンピラと雖も大人なのじゃから小銀貨ぐらい持っておっても当たり前なのじゃ」

「そ、そうなのか」

「冒険者見習いになるとか言うのであれば必要そうなものの値段ぐらい見ておくのじゃ。その短剣も新品であがなえば最低でも小銀貨で三枚はかかるのじゃ」

 えっと驚きの表情で短剣を見つめた後、緊張した面持ちで小銭の入った皮袋をついていた紐で首から下げて服の内側に入れ短剣をハーフパンツの腰に挟む。わらわは貫頭衣のような単純なワンピースの上に七分袖くらいの前開き式のトップスを着ておるゆえポケットの類が数カ所あるのじゃがラーリの方は簡素なチュニックっぽい上着とハーフパンツで継ぎ当てはあってもポケットがないのじゃ。いや、ポケット以前にもう秋が深まってきておるゆえ見ていて寒そうなのじゃ。


「それでな、ラーリ。報告に来た体で入り込んでクードンとやらを外におびき出せるかえ? 三人が戻ってきておらぬのは判っておるであろうゆえ三人から伝言を頼まれてすぐ来て欲しいと言っておる、なぞと言えばよいと思うのじゃが」

「うん、ああ、できると思う。任せてくれ」

「頼むのじゃ。しかし無理は必要ないゆえ危ないと感じたら即飛び出してくればよいのじゃ。追いかけて出てくればそれでもよいゆえ」

 言うても詮無きことは置いておいて、とりあえず座ったまま作戦会議なのじゃ。

「おう、でももうちょい信頼してくれてもいいんじゃないか」

「無理をする必要がないだけなのじゃ。クードンには問いただしたいことがあるゆえ捕らえることができるよう建物から引きずり出したいのじゃが、出て来方なぞどうでもよいのじゃ」

 危険を冒す意味はないと釘を刺しておくのじゃ。


「訊きたいこと?」

「うむ、背後に地上げをやらせておる黒幕がおるはずなのじゃ。ラーリはそこらを多少でよいから聞いたことがないかの」

 わらわがそう訊くとラーリは真剣な表情をした後すぐにニヤリと笑った。アーネの記憶によると真面目さは足りぬが記憶力は良かったはずなのじゃ。


「ゲック、あの三人組の頭だけど、そのゲックがフォルデン商会って名前を出したことがあったぞ」

「ほう」

 期待してみておるとすぐに名を出したのじゃ。アーネの記憶にはない商会の名ゆえ尋問しても正答が判らず苦労したことじゃろう。まあその商会がアタリであった場合なのじゃが。

「フォルデン商会にも急かされているからとか漏らした後慌てて他にいくつかの商会の名前を挙げて自分らはいろんなところと関係があるとかの自慢を始めたんだ。なんか誤魔化そうとしてるのは判ったから憶えてるんだ」

「それはアタリっぽいのじゃ。その商会についてはなんぞ判っておるのかえ」


 なんと場所まで確かめておったのじゃ。有能なのじゃ。ちなみに他に名を出しておった商会は見つからないのでおそらく架空のものが半分、中央広場に店を構えておるような名門商会と言う、彼奴らとは関わりなさそうなものの名が半分だったそうなのじゃ。

 名門商会の方は一つなら判断を保留するところなのじゃが、幾つもであれば知ってる名前を並べただけであるのじゃろう。


 この話で一番の驚きポイントはそんなことまで疑って調べておるのにクードンら自体に関しては信用しきっておったラーリなのじゃ。わらわには理解できぬ心理状態なのじゃが、騙されておる時というのはそう言うものなのじゃろう。 

 深く考えるのは止めておくのじゃ。


 もう日没の七つの鐘が近い。門前の喧噪も収まりつつあるのじゃ。門から続く大通りは八つの鐘までは松明や灯明で明るいはず、うむ孤児院でそんな時間に出歩くことが許されるはずもないゆえ伝聞なのじゃ、ではあるのじゃが無論クードンらの根城のあたりは暗いはずなのじゃ。

 と言うことでそろそろ行くとするのじゃ。

 東門を離れる前にもう片づけをはじめておった屋台のおっさんに美味しかった旨と感謝を伝えると「うまくてあたりめぇだ!」などと言って手を振ってくれたのじゃ。


 腹がくちくなって気分良く歩いておると七つの鐘が聞こえてくる。その鐘の音の残響が消えてしまう前に到着なのじゃ。鼻歌交じりのニコニコ気分を引っ込めてラーリと視線を交わす。

「見張りが出てる。ちゃんと帰ってきてるようだぜ」

 建物の中の明かりが通りに漏れ、陰影を作っておるのじゃ。背中を出入り口からの明かりで照らされた歩哨二人の影法師も通りに伸び揺らめいておる。


 さて、とっとと片づけるとするのじゃ。



読んでいただきありがとうございます。

第一章も終わりが見えて来ました。

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