外伝『アーリーデイズ』(12)
3人で楽しくお寿司を食べた後、カラオケで疲れたのかアヤメは9時には眠った。
俺はそれを見計らい美奈を近所の公園に呼び出す。正直に言えば美少女を夜の公園に呼び出すなどリア充みたいで無駄に緊張した……。
いや……そんなことを考えてる『状況』じゃないのはわかってるんだけど……自分童貞なんで。
「くすっ、それで用事ってなに? ふふっあーあ、私は人のいない公園でなにされちゃうんだろう?」
「なにもしねぇよ。ちょっと話すだけだ」
「それからアオカンに発展するんですね。わかります」
わかるな!!!
「私他の人に裸見られたら舌噛んで死ぬから」
だから知らねぇよ!
くっ、夜の公園で騒ぐわけにもいかないからツッコミができない……くっ拷問じゃねぇか。こいつはボケたおすし……だいたい美少女がアオカンとか言うなよな……ちょっと興奮するじゃねぇか。
って、それどころじゃなかった。
「はぁ、今回は真面目な話だ」
俺はキャッチマンとソープさんに会った経緯を美奈に話した。
するとーー最初は面白そうに聞いていたが、話にソープさんが登場すると眉間にシワを寄せた。
「えっ? アヤメちゃんのママまだ日本にいるの?」
「ああ……実際国に帰るつもりもないらしい」
「なにそれ……アヤメちゃんに嘘をついたの、ふーん」
美奈は明らかな嫌悪感とともに言葉を吐き出した。
(自分が騙されたから怒っている……って感じじゃなさそうだな。やっぱりアヤメを思ってのことか……)
この1週間一緒に過ごして感じたことだが、美奈はアヤメに好意以上の感情があるような気がしていた……。
まるで自分とアヤメを重ねているような……そんな感じだ。
「それで……どうして嘘なんかついたの?」
「ああ、キャッチマンの話だと……ソープさんはアヤメの母親として自分が相応しくないと考えているらしいんだ」
「…………」
「自分が風俗嬢だから……アヤメと暮らせない。アヤメを風俗嬢の娘として見られるのが耐えられないそうだ……」
「そんなの……」
「お前の言いたいこともわかる。そうだ。そんなことアヤメは望まない」
アヤメは母親に褒められようと勉強を頑張り、こないだなんか俺から料理を学ぼうとしていた。母親が向えに来てくれると信じて……。
そんなアヤメを騙していて、自分は酒浸りになっているんだ。俺だって嫌な気持ちになるけど……。
「あの人は自分が離れることでアヤメが本気で幸せになると信じているそうだ。昼間は必死にアヤメを育ててくれる人を探しているらしい。それこそプライドを全部かなぐり捨てて、縁の切れた実家にも頭を下げて……」
やり方は間違っている……だけどアヤメを想う気持ちは……本物らしい。
「…………そんなの違う……絶対に違う……それじゃあ『私』と同じだ……『家族』はそんなんじゃない……絶対に」
「……美奈?」
美奈は俯きながら呟く……腹の底から出ているような重い声。その声には悲しさ、怒り、……絶望が乗っていた。そのどの感情も重く鋭い――。
まるでその眼差しだけで人を殺せそうだ――。
そして――その瞳の奥底には確固たる意志が宿っている。
「ごめん……義孝君また迷惑かけるかもしれない……」
今度は本当に申し訳なさそうに呟く……。
これから美奈が何をしようとしているかは何となくわかる……『直談判』だよな。……美奈の言う通り、俺が加担しなくても俺に被害が来る可能性はあるな。
もしかしたらこれが問題になって学校を退学になるかもしれない……だけど――そんなのどうでもいい。アヤメの笑顔以上に大切な物じゃない。
俺はあいつを助けたい。それは誰に指図されるでもない俺の意思だ。
はぁ……やっぱり美奈は……俺と同じ『答え』を出した。
「俺は……お前のその顔が気にくわない」
「えっ……よ、義孝君、わ、私の顔好きじゃないの? じ、自分で言うのもなんだけど……そこそこ可愛いと思うんだけど……」
いや、もう『そこそこ』っていうのが嫌味になるぐらいは可愛いと思うが……。
「ど、どうしよう……そ、そうだ。か、髪型。好きな髪形にするよ? スキンヘッドが好きなら今すぐバリカンを買ってくるからっ!」
「おろおろすんな。女性のスキンヘッド好きって、精神に異常をきたしてるだろ……」
「で、でも、気にくわないって……」
「馬鹿そういう意味じゃねぇよ。何を今更申し訳なさそうにしてやがる」
「えっ……?」
「言っとくけどな童貞にとって美少女に迷惑をかけられるのはご褒美だ。それにな……迷惑? はっ、寂しいこと言うなよ……俺らはあの瞬間から共犯者だろ?」
◇◇◇
『うん♪ キミ、私と想い出を作ろうよ。私が楽しめたら夏休みの最後にセックスしてあげる』
◇◇◇
「……そういえばそうだね……」
「俺はまだ……セックスをしてない」
「あはははっ、最高にかっこ悪い……ほんと……信じられないぐらいかっこ悪い」
「ほっとけ。だから童貞なんだよ……何より……俺はアヤメを放っておけない。短い時間だけどあいつは俺の大切な『妹』なんだからな……」
「……俺のじゃないよ……俺たちの妹でしょ?」
美奈はそう言って笑う。
そうだこいつは馬鹿みたいに笑っている方が似合う……さて、いっちょ派手にやりますか……!
◇◇◇
次の日の夜、アヤメが寝静まると俺と美奈は――。
風俗店の前にいた――。
「はっ!? クソガキてめぇ何しにきやがった! それにそこの嬢ちゃんは……!」
「キャッチマン、カヤさん? だっけか? 俺は……彼女を指名するぜ!!!!! おっぱいを出せ!!!」
「同じく! 3PはOKですか!?!?!?!?!? あっ、男性社員と男性客は全員退去させてください! 私は義孝君以外の男性に乳首を見られた瞬間自爆します!!」
俺と美奈は店の前で盛大に指名をした。
ソープさんとお風呂遊び……じゃない『お話』をするために――。




