外伝『アーリーデイズ』(10)
とある高級焼き肉店の個室にて。内装は豪華でメニューも高い、とてもじゃないが高校生がほいほいと来れる店じゃない。
そんな店で俺とキャッチマンは向かい合って肉を焼いて……食べていた。
「おい、ガキっ、そっち焼けてるぞ……あーあ! 肉ばっか食うんじゃねぇ! 野菜も食いやがれ! あっ! これ焼きすぎじゃねぇか!!! 奢ってやるんだから少しは言うこと聞きやがれ!」
「うっせええええ!!! こちとら肉を求めてやまない学生様なんだ! 久方ぶりの高級店、この瞬間高い肉を食わないで何を食うってんだ!」
「馬鹿野郎!! たくっ、これだから若いやつは何もわかってねぇ。若い時の不摂生が糖尿病とか、癌とかに繋がったりするんだよ……ごくごく、かあああ、ビールがうめええ」
若者に小言を口にしながら、自分はビールをジョッキで一気に飲みほすダメ親父がこちらです。
……何で俺は驕りとはいえキャッチマンと焼き肉店に来てるんだろうか……。
素に戻るとマジで意味わからないが……キャッチマンは俺に話があるらしい。それに俺も……アヤメの件は放って置けないしな。
この場に『元凶』もいるし……。
『むにゃむにゃ……まだ飲むんです……』
俺はキャッチマンの隣の席で爆睡しているソープさんに視線を向ける。お酒のせいで頬がほんのり赤く……とにかくエロイ!
……でもはしゃいでばかりいられない。早く話を進めよう。そろそろ帰らないと美奈とアヤメが心配だしな。
「それで話って何……あっ、俺敬語使った方がいい? 年上を敬う意味も込めて」
「かああ、今更ガキが生意気なこと言ってるんじゃねぇよ!
「あ、そうだよな。キャッチマンに敬語とか違和感しかなくて、ジンマシンが出そうだし」
「てめぇ!! やっぱ敬語使って地べたに額付けろやぼけええがあああ!!!」
うん。純粋な怒りと純粋な心で、もう少ない髪の毛が金髪になりそうなリアクションだ。この寿命を削ってそうなリアクションは逸材だよなぁ……普通に面白い。
いつもなら美味しい焼き肉を食べながら、キャッチマンという最高の生きる芸を楽しむところだが……そうもいかない。
そして真面目に話さなければいけないと思っているのはキャッチマンも同じらしい。
「キャッチマンとソープさんはどういう関係なんだ……」
「前から気になっていたんだが、そのあだ名はなんじゃい……いや、クソガキのことを気にしてもしょうがないのう」
その通りだ。俺にも意味なんて分からない。ただの気分だ。
「俺と『カヤ』は会社の『同僚』じゃ……」
カヤ……ソープさんのことか……というか、キャッチマン同僚ということは……ソープさんマジでソープさんだったのか……。高校生には刺激が強い。
「次はお前の事情を聞かせい……お前……アヤメといるのか?」
さて……どうするか……俺がペラペラと喋るのはどうなんだ……?
ここは適当にごまかしてしまおう。
「あー、実は悪の組織に脅されててあんまり喋れることはーー」
「頼む――お前の話を聞かせてくれ」
俺が適当なことで誤魔化そうとすると、キャッチマンは勢いよく頭を下げた……。
「…………」
キャッチマンからしたらガキである俺に頭を下げるなど屈辱だろう……だけど、キャッチからはそんな感情は伝わってこない。
伝わってくるのはガムシャラにもがく強い意志だ……それがどんな感情からくるかはわからないけど……。
(……どうせ、すべての事情はソープさんが知ってるからいいか)
……俺だってわけのわからない状況だし……何よりアヤメのことが何かわかるかもしれない。だって、母親が嘘をついてるからな……はぁ、俺の性格が悪い所為か……アヤメ親子の関係については正直嫌な考えしか思いつかないし。
(俺はアヤメが悲しむ顔なんて見たくない。キャッチマンに事情を聞けばそれをかわせるかもしれない。それなら進むしかない)
美奈のことは恋人とでもしておこう……あいつにはあいつの事情があるっぽいし……はぁ、俺、彼女いるのにソープ行こうとした最低男じゃねぇか……。
俺は美奈のことだけぼかして、キャッチマンに事情を話すことにした。
◇◇◇
「お兄ちゃん……遅いでござる……」
「本当だねぇ……もうっ! 帰ってきたらブラジャー目隠しの軽なんだからっ!」
美奈とアヤメは2人で勉強しながら、義孝の帰りを待っていた。義孝と別れて1時間が過ぎていて、そろそろ帰りが遅いのが気になってくる。
(まあ、義孝君も男の子だからこそこそ隠れてやりたいこともあるんだろうけど……)
「お姉ちゃん! さんすうできた! ねぇ、みてみて!」
「どれどれ――」
その時――。
美奈の世界がぐにゃりと歪む。呼吸が乱れ、心臓が痛くなる。
(ああ……いつものだ。ふふっ、最近は調子良かったのになぁー)
鋭い痛みの中で美奈は心の中で自称的に笑う。いくら『夢のような時間』を過ごしていても現実からは逃げられないのだ……。
「ん? お姉ちゃん? どうしたでござる……?」
「う、……うん、何でもないよ」
そんな『発作』を無理やり押さえつけるように笑顔を作る。
(大丈夫……大丈夫……薬を飲めばすぐに治る……から)
「あ、アヤメちゃん、の、のどかわいてない? オレンジジュース持ってきてあげるね」
「えっ!? 本当! やったああああああ!!」
「ふ、ふふっ、ちょっと待っててね」
美奈は気力を振り絞って立ち上がる。それだけで意識が飛びそうになる……だが、それも我慢する。
今の美奈を動かしてる感情は『このことをアヤメと義孝に知られたくない』という一点だけだ。
「ま、待っててね。すぐに……用意するから」
「うん!!!」
アヤメは笑顔で頷くと、そのまま視線をノートに戻した。
美奈はその隙に自分の鞄から薬のケースを取り出して、速足で台所に向かい、通り過ぎ、洗面所の扉を開き中に入る。
「はぁはぁ……くっ……!」
美奈は乱暴に薬ケースを開くとそこから錠剤をとりだし、口の中に放り込んで、それを水で流し込んだ。
「はぁはぁ……まだ、大丈夫……私は大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、まだこの時間を終わらせない……!」
その場にしゃがみ込み、自分に言い聞かせるように何度も何度も呟く。額には大量の汗が浮かび上がり、身体は小刻みに震えてしまう……。
「負けるもんか……絶対に……負けるもんか……大丈夫……少しすれば薬が効いてくるから……ほんの少し我慢すれば大丈夫。こんなことで……この生活を失いたくない」
美奈はこの生活が好きだ……今まで病気で得られなかった自由を得て、憧れていた『恋』をしているこの生活が……。
今……人生で一番楽しいかもしれない……だからこそ『病気』が原因でこの生活を失いたくない。
これまで病気に数多くのことを奪われてきたからこそ……余計にそう思った。
「義孝君の顔が見たいな……くすっ、恋って不思議だな……」
美奈は無意識に今の自分の心の支えになっている家主の顔を思い浮かべた……。
話が重くなってきたでござる……
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外伝『アーリーデイズ』の設定を一点調整しました
17年前→16年前
理由は作者が算数ができなかったからです。普通に恥ずかしい……すみません……




