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俺はJKの子持ちだったのか!  作者: シマアザラシ
第1章『実りあるもの』
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とある優雅な休日(7)

 音無由衣は義孝との買い物の後――閑静な住宅街を上機嫌で歩いていた。落ち着いた雰囲気でおしゃれな場所だ。


「ふふっ……」


 先ほどまでのデート思い出して自然と笑みがこぼれる。

 男と街を歩いたのは初めてだった……最初はどうなることかと思ったが、その時間は久しぶりに羽を伸ばせた気がした。


 絆と遊ぶのは決して嫌いではない。むしろ好きだ。しかし、絆と遊ぶ時とは別の楽しさがあの時間にはあった。


(ふふっ、今年は海にでも行こうかしら。でも、絆も一緒ならプールのが安全かな……)


 そんなことを考えながら義孝に買ってもらった水着をぎゅっと抱きしめる。プレゼントをもらったのは随分久しぶりだった……だからこそ、その分嬉しさは大きい。


(絆にも自慢しちゃおうかな……)


 にやけが止まらない。傍から見たら苦笑が漏れるほどの喜びっぷりだ。普段実年齢よりも上に見られがちの由衣だが今は歳相応に見えるだろう。


 そして上機嫌のまま、目的地の場所に着いた。


 それは1軒の高級マンションだ。

 そのマンションは40階建てのタワーマンションで、一階には大きな庭と高級スーパーまで完備している。


(相変わらず、すごい場所よね……私みたいな庶民にまさか縁があるなんてね)

 

 由衣は入り口で『家主』から教えられていた暗唱番号を打ち込み、20人は入れそうな巨大なエレベーターに乗り込む。

 そして目的地である28階の廊下に着き、目当ての角部屋にたどり着く。そしてチャイムを押そうとすると――。


『まいちゃんんんんんん! にんじんきらいいいいいいいいい!』


 空いている窓から愛娘の声が聞こえた。

 その声を聞くと心があったかくなった。由衣にとって娘の絆はなによりも大切だ。

 それは育てると決めた2年前からかわらないし、これからも変わる気はしなかった。


「くすっ、絆ったらわがまま言ってるのね。叱らなくちゃ」


 由衣はチャイムを鳴らす。

 ピーポーンという音が響き、やがて……。


 ガチャ。


「お~きたきた、絆が駄々こねてるんだ! 助けてくれ!」


 扉から出てきたのは会社の同僚……の予定の三沢麻衣だった。


「麻衣さん……なんていう恰好してるんですか……」


 三沢の恰好はオレンジのキャミソールに赤の下着という格好だ。

 いくら自分の家とはいえ、外からやって来た人間を向かえる恰好ではない。


 由衣は三沢とは面接で会った時に意気投合し、友達と言える関係になっていた。見た目は正反対のふたりだが、心の芯の部分では近いものがあったと、互いに考えていた。


 さらには三沢は見た目からはそうは見えないが子供が大好きで絆を溺愛していた。放っておくとなんでも買い与えようとして……それに関しては由衣としては非常に困っているのだが……。


「いいだろ。別にあたしの家なんだし。それよりもあいつニンジン食べねぇんだよ」


「そうですね。好き嫌いはいけませんね。でもそれよりも先にお邪魔させて頂きますね」


 由衣はため息をしながら、家に入った。

 これ以上ほかの人が通る可能性がある廊下で三沢を立たせておくわけにはいかない。

 普通に痴女だ。


「お、おい。押すなっていうの」


「いいから、入ってくださいよ。ただでさえ目立つファッションセンスなんですから」


 三沢の背中を押して、リビングまで連れて行く。


(ほんとすごい部屋だわ……天井にはシャンデリアまであるし)


 20畳ほどの部屋リビングで壁の一辺に大きな窓があり、都会の風景を一望できる。

 これこそが勝者の住む家だと思わせる作りだ。


 だが、備え付け以外の家具、テレビや机などの品は質素なもので、部屋の豪華さに釣り合っていない。


「……こんな漫画に出てくるような部屋なのにテレビが家よりも小型なのはどうなのよ」


「んだよ。見れればいいだろ? あたしは成金だから、金の使い方がわからないんだよ」


 三沢はつまらなげに言い切る。そう、三沢は『偶然』大金を得てこの物件に住むことになった、と、由衣は聞かされていた。三沢はもともと貧乏性で『使えれば何でもいい』という感性だ。なので金の使い方がわからなかった。


「前から言ってるけど、絆もお前もここに住めよ。部屋なら腐るほどあるんだし」


「いいえ。住まわしてもらう理由がないです」


「かたいなぁ~重く考えることなんてねぇのに」


 三沢の普通の人なら魅力的な提案を由衣はあっさり断った。絆を引き取ると決めた時から、できる限り他人から資金援助は受けないと心に決めていたのだ。

 これはプライドの問題だ……しかし由衣はそれを重視したいと考えていた。

 自分の力で絆という『大切な存在を守る』。それが全てだ。

 

 だからこそ当時持っていたものを捨てた。『学校を辞め』。『家族とも縁を切った』。それがきっかけで『友達も失った』。


 残ったのは絆と言う『大切な存在』だけだ。


「まんまぁ~~~~!!」


 リビングに入ると、絆がオムライスを食べていた。どうやら、三沢が作ってくれたもののようで、オムライスの表面にはウサギが書かれていた。


「絆、にんじんも食べなきゃダメでしょ?」


「うぅ、だってにがいもん……」


 絆は由衣に足に抱きついて目を潤ませる。そんな娘に由衣は頭をなでながら優しくほほ笑む。


「それなら大丈夫よ。麻衣さんのことだから甘く煮てくれてるはずだから」


「おうよ。ニンジンは甘くグラッセにしたからな。もうケーキと変わらない甘さだぜ」


「ほんと……?」


「うん、だから頑張って食べてみましょう?」


「うん……」


 絆はてくてくとテーブルに戻ると、再びスプーン手にしてニンジンをすくう……そして――ぱくっ。


 その瞬間苦々しい顔をしていた絆の顔が笑顔になっていく。どうやら想像していた味と違って驚いているようだ。


「おいしいいいいい! あまいいい!!」


「がははは、そうだろ! あたしの自信作だからな!」


 絆は先ほどまでくずっていたのに、今はオムライスを夢中で食べ進める。

 そんな微笑ましい姿を見ると心が穏やかになるのを感じた。


「麻衣さん、ありがとうございます。絆の面倒を見て頂いて……」


「いいって、いいって。あたしも楽しいからな。毎週遊ばせてほしいぐらいだぜ。そんなことより由衣……施しは受けない主義じゃなかったのか?」


 三沢は由衣を見ながらニヤリと笑う。やがて視線は由衣が持つ、義孝からもらったプレゼントに向ける。


 内心でため息を吐く由衣。今日はとても楽しかったが、何から何まで三沢に誘導されていたと思うと納得いかなかった。


「これは特別です……それより、麻衣さん……あそこに店長がいるって知っていたんですか?」


 由衣は昨日の夜、三沢に家に招待されて絆と共に泊まった。そして今朝三沢が「たまにはひとりで息抜きでもしてこいや」っと言い、例の喫茶店のサービス券を渡して由衣を追い出したのだった。

 由衣も麻衣が好意で言ってくれていたのはわかったので、素直に喫茶店に向かったのだが……。


「店長と『たまたま』会った時にすべてを察したわ」


「ああ、テンチョー、休み時間ずっと風俗のサイト見てたからな。最後には予約状況まで確認してたし。でも、お前らが鉢合わせになるのは賭けだった」


(あの人……仕事場で何をしてるんですか……今度説教しましょう)


「なにをむっとしてやがる。楽しかったんだろ? お前いつもの100倍機嫌よさそうだしよ。あはははっ、お前とテンチョーは気が合うと思ってたんだよ。なんせテンチョーはあたしと仲がいい男だからなっ」


「……」


 無言で抗議するが、三沢はそれを豪快に笑って流す。

 由衣は仲が良くなった数日で三沢の行動原理は単純だと理解していた。なので、今回の件は由衣と義孝のことを思ってのことだと思っていた。


(はぁ、確かに今日は気分がいいし……それに店長と会えたから……今日は……)


 由衣はにやける自分の表情を抑えながら、麻衣と向き合う。


「ねぇ、近いうちにプールにでも行きませんか……?」


「ああん? 別にいいけど、なんでいきなりプールなんだ……」


「プールに行きたい気分だからです……」


 首をかしげる三沢に対して、由衣は頬を赤らめてちょっと恥ずかしそうにそう答えた。


それぞれの趣味


『音無由衣』


絆と遊ぶこと。ウインドウショッピング。



長くなりましたが『デート編』は今回で終わりです。

次回は新章で『お姉ちゃん』がメイン予定で、今までで一番長い章になる……予定です……そして、少し重い話になるかもならないかもです……。

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