外伝『アーリーデイズ』(16)
ソープさんを見失って俺は負け犬の様に事務所に向かって、とぼとぼと歩いていく。
くそっ……あそこで説得できれば明日にでもアヤメに会わせてやることができたのに……やっぱりキャッチマンに頼るしかねぇか……。
はぁ、俺がしてやれることは何だろうか……可哀そうだよな……まだ小さいのに親とはすれ違い……1人ぼっちで……。
「いや、1人じゃねぇか……美奈もいるし俺もいるし……なんとか」
そう考えるとまだゲームオーバーじゃない。まあ、変な機転がきく美奈はともかく凡人の俺が何の役に立つかは知らんけど……。
というか……問題は美奈にもあるか……あいつ確実に何か隠してるよな……はぁ、俺あいつのこと何も知らないんだよな……。
わかるのはいい奴でノリがよくて可愛くて、おっぱいが大きいことぐらいだ……どこに住んでいたのか? 親は何をしてるのか? とか肝心なことは何もわからん。
聞いてもはぐらかされるし……それにやっぱあの薬は気になるよな……。
「はぁ……何が何だか……」
俺は深くため息を吐きながら美奈が待っている事務所の扉を開けた。
すると――。
「それええええ! だああああああいぶ!!! もう、遅いぞ!」
美奈がいきなり俺に抱きついてきた――。
むにゅうううううううううう。
「!?!?!?!?!?!??!?!?!?!?!??!?!?」
頭が真っ白になる――。
いきなり美少女が抱きついてきたんだからな。
もう訳がわからない……ぎゅーっとされている感触とか、香水をつけてるのかふわっと甘い香りとか……そして何より……気になるのが……!
「ほーら、義孝君の好きなおっぱいだよ、ほらほら~~~」
そう俺は今おっぱいと戯れている。
な、なんということだ。これまでの人生でここまでおっぱいとの距離が近かったことがあっただろうか……いや! ない!
「うううん、あれ? くんくん……うーん、くんくん」
「なっ……! お前は犬か何かか!!」
そして当の本人は俺の服に鼻を付けて、チワワのようにくんくんと匂いを嗅いでくる。
……こ、こいつは何をしてるんだ? なにこれ何のプレー?
俺はここで我に返る……はっ、俺はソープでなんていうプレーをしてるんだ!
「…………」
遠巻きに俺たちの様子をキャッチマンと目が合う。
やばい……殺される……俺がキャッチマンの立場なら12回殺す。試練を乗り越えた数だけ殺す……。
「坊主、今から部屋を開けてやってもいいぞ……部屋にはシャワーも湯船もあるしな」
はああああ!!!! 真顔で何で変に理解を示してるの!? 怒れよ!!! この数分でキャッチマンの人生に何があった……。
「くんくん……汗の匂いだぁ。くすっ、私に早く会いたくて走ってきた? ふーん……これが義孝君の汗かぁ……ふーん、くんくん。えへへ……嫌いじゃないかも。もっと嗅いでおこう……くんくん」
お前はお前で何を夢中になってるんだよ!
くっ、こいつらは頭の中がお花畑だ。俺がしっかりしないと……ここで場の空気に流されない俺マジでイケメンじゃねぇ?
くっ、こいつはいきなりどうしたんだ? 普段ドエロいことは度々言うけど、こういう風に行動に移すのは初めてだし! 欲求不満か!?
い、いいや、話を進めよう。
「あ、ああ、そうだ。さっきソープさんに会ったぞ?」
「ああん、まだ義孝君の匂い……えっ? そ、そうなの?」
「はっ!? 坊主! それは本当か!?」
俺は美奈を引きはがしながら、さっきあったことを美奈とキャッチマンに説明した。
それを聞くと、キャッチマンは苦い顔をしなが頭をかく。
「かああ、相変わらず面倒な女だな! たくっ……お前ら予定通りカヤのことは俺に任せろ……何とかする」
キャッチマンは力強く頷く……今は言う通りにするしかなさそうだな。それに……これは勘だけど信頼できる気がする……。
「だな……」
俺はふと事務所の時計を見る。
俺たちが家を出て1時間は経過している……来る前は熟睡していたとはいえ、アヤメをあまり1人にするわけにはいかない……。
俺と美奈は急いで帰ることにした……
はぁ……まだおっぱいの感触が残ってる……心臓に悪い……。




