外伝『アーリーデイズ』(14)
「そんなの関係ないです」
美奈はそんなキャッチマンを冷めた目で見る……。
その表情は無表情で、ぱっと見た感じ冷静そうだが……語気は荒い……それで美奈がかなり怒っていることが伝わってきた……。
「美奈……ちょっと落ち着け」
「ごめん……義孝君、私にも許せること、絶対に死んでも許せないことがあるの。例えば義孝君以外の男性に裸を見られることとか……」
お前……怒ってるんだよな……? おいチラチラとこっちを見るんじゃねぇ。俺の反応を伺うな……。
「とにかく、キャッチマンさん」
「ああ……なんじゃ」
「今すぐにカヤさんに伝えてください。『アヤメちゃんは、あなたが何者でも、風俗嬢でも、天地がひっくり返っても……あなたと暮らすことを望んでいる……』と……」
美奈はまるで自分のことの様に真剣な表情でキャッチマンに訴えかける。やはり美奈は……アヤメに相当入れ込んでいる……それが真剣な表情から伝わってくる。
美奈の過去に関係するか……それとも性格上アヤメのことを見捨てられないのか……どちらにせよ、俺には美奈の言動がとても綺麗なものに思えた……。
普段の言動がトチ狂ってるから余計に……。
「わかった。責任をもって伝える……ふっ、クソガキ、いい女を捕まえたじゃねぇか」
別に俺の女じゃないんだが……。
「まあ、いい女だとは思う……」
「わっ!! 義孝君が褒めて――」
俺は……美奈がまた俺のことを悪戯っぽくからかうかと思った……しかし、美奈の表情が突然固まった。
その顔に俺は不安を覚える。
「ん? どうかしたのか……?」
俺が語り掛けると、美奈はすぐに笑顔に戻った。その笑顔に俺はわずかな違和感を持つ……何か無理して笑っているような……。
「くすっ、義孝君、義孝君、私の喉乾いちゃった。これでオレンジジュースを買ってきてくれたまえ~~。あっ、おつりで好きな物を買うがよい~」
美奈は財布から万札を取り出し、俺に差し出しながらそんなことを言う。
……えっ? 何で俺今パシられそうになってんの?
「はっ、冗談じゃねぇ。俺は何者にも縛られない人間だ。そんなパシリに従うなどありえない」
「なんだ嬢ちゃん。喉乾いてんのか? 事務所にジュースならあるぞ」
「いいえ! 私は義孝君が屈辱の果てに買いに行ってくれたオレンジジュースが飲みたいんです!」
どんな性癖だよ!
「それだとわいが買ってきても意味はなさそうだな。はぁ、ガキ。買ってこい」
現役社畜社員が上司の命令に心を売った瞬間を目撃した気がした……。
哀れだ……哀れだキャッチマン。
お生憎様俺はそんな社畜精神を持ち合わせていない。これからもそんな精神になる予定もない。俺は反抗の心を大切に生きていくんだ
「はっ、お断りだ。買いたきゃ自分で――」
「あー、そういう態度取っちゃうんだぁ~ふーん。あっ、思い出したんだけど義孝君、昨日洗濯物を干してた時、私のブラジャーで――」
「どんなオレンジジュースがいいんだ? 果汁百パーセントか? それとも人口甘味料マックスのやつか?」
「ガキ……お前……」
いや、違うんだ。別にやましいことはしていない。ただ……洗濯物を干しててブラジャーが目について……えっと、こいつの大きくて……その、近い未来におっぱいを揉む予行練習をしただけだ。
「くすっ、よろしくね」
「くそ、違う俺は社畜精神に身を落としたわけじゃない。おっぱいに魂を売っただけだ……」
(はぁ……ここから歩いて5分ぐらいのところにコンビニがあったな……そこ行くか。でも……)
そう思い俺は事務所から出ていった。その時――美奈の様子がほんの少し変なのが頭の隅で引っかかっていた……。
◇◇◇
義孝が事務所を出て30秒が過ぎた頃――。
(い、行ったかな……)
ドサッ……。
美奈はその場に膝をつき、倒れた。
「おい、嬢ちゃん! どうした!」
義孝に知られたくなくて無理やり我慢していたが、義孝がこの場に居なくなったことにより、気が抜けてしまった。
呼吸が苦しく心臓が痛い……それがいつも『発作』であることは容易に想像できた。
「さ、騒がないでください……はぁはぁ、義孝君に気が付かれる……」
「お前……どこか悪いのか……?」
「な、なんでもありません……薬を飲めば治ります……み、水を下さい」
「あ、ああ! わかった! 待ってろ! おい、佐々木! 水だ! 水をくれ!」
キャッチマンさんは同僚の名前を叫びながら事務所を飛び出していった。
(も、もう……頼むから声のボリュームを落としてよ……義孝君には『絶対』に知られたくないのに……くっ……大丈夫、今回のはそんなに強くない……気がする)
美奈はそんなことを頭では考えつつ、襲い来る発作を必死に耐えた……。
すみません……また設定でやらかしてました
音無由比は金髪ハーフのBカップです。巨乳ではありません……(登場シーンにそういう記載がありました……修正済みです)




