外伝『アーリーデイズ』(13)
俺と美奈は意気揚々とソープ店に乗り込んだ。やりたいことはシンプル。
童貞を捨てる――ではなく、ソープさんに言いたいことを言う。それだけだ。
なので、正直そこまで大ごとにするつもりなんてない。所詮俺たちは子供だ。力のない子供、それは理解している。
でも……できる限りのことをしよう……そう決意してここにきた。
「…………」
「…………」
「で? クソガキ共、何のつもりだ? あああん?」
しかし、現実とは無常なものだ。俺と美奈は普通に6畳ほどの殺風景な事務所に連れていかれて、普通に怒られていた。
まあ、冷静に考えれば店の前であれだけ騒ぎ立てれば当たり前だ。むしろ警察に捕まらなかっただけだまだマシだろう……。
というかあの登場シーンはただの馬鹿だ。
「はぁぁぁ、だから俺は嫌だったんだ。美奈がどうしてもって言うからやったけどよ」
「あああ!! いきなり裏切ったねぇ。そういうこと言っちゃうんだ……ふんだ、義孝君だってノリノリだったじゃん。なにが『おっぱいを出せ』よ。馬鹿じゃないの? ばーか、ばーか」
「はっ! てめぇ言うじゃねぇか。お前も3Pとかくちばしちゃてたじゃねぇか。お前の方がノリノリだった! ばーか、ばーか」
「ふんっ! そんなの演技だもん! そんなのもわからないから童貞なんだよ? ばーか、ばーか!」
「あああ!!! お前言っていい事と悪いことがあるだろっ!!! ばーか、ばーか! これだから――」
「クソガキどもいい加減にしやがれ!!! なに夫婦漫才を繰り広げてるんじゃボケがあああああ!」
そんな俺らのやりとりを見て感情を爆発させるキャッチマン。俺がいうのも大変恐縮なんだけど、気持ちはわかる。
俺だったら2、3発どつき回してる。
それをしないキャッチマンは寛大だと思う……というか、キャッチマンはやっぱり面倒見いいよな。
追い返すどころか、事務所でお茶まで出してくれてるし。
「ふ、夫婦なんて気が早すぎるんじゃないかな?」
おい、お前はさっきまでの怒りを忘れて喜んでるんじゃねぇ。俺まで照れるじゃねぇか。
「はぁぁ、おいガキ。こないだ会った時にも聞いてたが、本当に彼女居たんだな。それもこんなべっぴんの嬢ちゃんがな……世の中間違ってやがるぜ」
彼女じゃないんだけどな……一夏関係だし……そう考えると寂しいな……おっと、今はそんなことを考えてる場合じゃないな。
「それでお前らの要求はカヤと話すことか? はっ、ガキ、お前も本当にしつこい男だな」
「えっ? しつこいってなんですか?」
「あっ、待てキャッチマンーー」
俺がキャッチマンの言葉を泊めようとした時、キャッチマンはその瞬間ニヤリと笑う。
……わざとか。はぁ、美奈には知られたくなかったんだけど……。
「ああ、このクソガキはカヤの事情を聞いたら派手に騒ぎ始めてよ。くくく、お陰であの焼肉屋には二度といけねぇよ」
「ふーん、そうなんだぁ。騒いだってどのぐらいのレベルですか?」
「あー、カヤは酔いつぶれてまともに喋れなかったのに、詰め寄って『アヤメのことを考えろ』とか叫んでな。クックク、本当に馬鹿な奴だよなわれ」
「くすっ義孝くん、アヤメちゃんのこと大好きですから」
おい、なんでお前らはそんなに楽しそうなんだよ。
てっきり、騒ぎまくったことを怒られるか呆れらると思ったんだけど……。
「はぁ……まあいいや。それでソープさんはどこにいるんだ? さすがに今はまともに話せる状況だろ……?」
「…………」
俺がそう話を振ると美奈とキャッチマンの顔から笑顔が消え、場の空気が冷たく張り付くのを感じた。
キャッチマンは渋い顔をして、静かに頭を下げた。
この人は……ソープさんのことになるとプライドも建前も全部かなぐり捨てられる……。
「カヤはここにはいない」
「えっ? どこにいるんですか……?」
「その件だが……俺に任せてもらえねぇか? 俺が必ずカヤを説得する。だから、お前らはアヤメのことを頼む……都合のいいことを言ってるのはわかってる……でも、わいは……あの親子にできることをしたいんじゃ」
キャッチマンは俺たちに頭を下げ続ける……歳が1回り以上離れている俺たちに……。
俺は……その姿を見て情けなさは少しも感じない……『何か』を必死に守ろうとしているように思えた……。




