序章 ~別れ、出逢い~
ここは地球。七十億人以上の人間たちが文明を育む地。そんな星のちっぽけな国にある小さな町から物語は始まる。
「なぜあいつをそばに置いた!守りきれない癖に!」
誰かが後ろで叫んでいる。
「自分の孤独さを埋めるだけに彼女をおいておいたんだろう!」
もう、どうでもいい。取り返しのつかないことなんだ。
「聞いているのか?返事ぐらいしろ!」
もう…いいんだよ…俺は疲れた
彼の視界がブラックアウトした
*
「ふぁ~。よく寝た。」
時計の短い針は11を指している。
「ん?時計壊れたか?」
と、スマホで確認してみる。男性なのに青を基調とした楽譜がメインの背景である。
「ああああああああああ!」
彼はマッハで洗面所に向かった。
「今日はthanのライブだ!」
アインはそういって黙々と準備を始めている。誰かさんとは大違いだ。ちなみに、彼女が起きたのは午前5時である。おばあちゃんの生活である。
*
ライブが始まった。
「キャー!泉くぅーん!」
なんなんだこの黄色い歓声は。彼、ダイキはあまりこういう経験がない。男友達と来ているのだが、今は少し別行動だ。友達は1人で飯を食べに行ってしまった。俺は対して腹が減っていなかったので歩音を探すことにした。
それこそ、豆粒ほどの大きさだった。そんな遠いところで誘拐事件が起きようとしている。観客は誰も気づいていない。
だが、ダイキは見逃さなかった。人の塊から抜け出すと、すぐさまそちらへ向かった。
犯人はこちらに気づいてギョッとした。これでも足は速い方だ。追いつくのは容易いだろう。
犯人はダイキに捕まれる刹那に体を反らして静止した。俺は見事にそれに引っかかった。
犯人とダイキは向かい合う形になり、出方を探っている。相手は2人、片方はアインを担いでいて、ナイフを持っている。下手に刺激したらアインが危ない。近くには開いている窓がある。
それしかない。
そう考え、犯人を窓の近くに誘導した。そして渾身の猫騙し。今までで一番良い音が鳴り響く。犯人は思わずアインを離した。アインが窓から落ちていく。
そしてダイキは飛び降りた。
あのままでは間違いなくアインは死んでいた。限りなく可能性が低くてもこちらの方が助かる可能性は高い。俺がクッションになればその確率はさらに上昇するだろう。
「だ、ダイキ?」
「ごめんな、約束守れなかった。」
「私たち、死んじゃうの?」
「アインが助かる可能性は高いだろう。俺は分からないけどな。」
不安にさせないように、いつものトーンで話そうとするが上手くできない。
「そ、そんなのやだよ。」
「もし、転生できるとしたらまた逢おう。」
俺は何を言っているんだ?町の灯りが感じられる高さにきて頭がおかしくなっちまったのか?
「う、うん…」
あぁ、まだまだやりたいことがあったなぁ…短い人生だった。
「じゃ、またな!」
まるで、明日また会うかのように言う。
そこで俺の視界はブラックアウトした。
*
ここはカフェL'AJITTOだ。ここでちょっと甘めのコーヒーを飲むことが俺の日課になっている。
その時、ドアが開いた。
「マスター!いつもの!」
「あ、アイン!?」
「誰…?どうして私の名前を知っているの…?」
あぁ、やっぱりそういう反応か…まぁ仕方ないよな。
ここは異世界なんだし。