お題その1 貨幣について
お金こわい
物語を書くうえで、貨幣を描写する機会は多々あると思います。
ですが、実際に書いてみると、この貨幣というものの存在がなかなか曲者である事に気付きます。
貨幣の形態は、その物語を描くうえで、その存在の重要性に応じて変わっていきます。
貨幣が物語上大した意味を持たないような場合は、例えばゲームのような全国統一通貨にしてしまうとか
それっぽい単位と数だけ適当に書くとか。
そもそも貨幣なんて描写しないという方法がとれます。
しかし多少でも貨幣に意味合いを持たせようとすると、頭痛の種が飛躍的に増加します。
まずその貨幣の材質、重量、発行元、価値、価値の根拠、この辺りをどうしようかというような事は真っ先に浮かんでくるところだと思います。
では次にこれらの項目について気にしながら、お話を作るうえでどういう面倒事が発生するか考えてみます。
「紙幣を使いたい場合」
メインの通貨が紙幣であるとした場合、携帯性への配慮は楽になりますが、価値の根拠の設定に苦労しそうです。
まず紙幣が発行されているということは、銀行かそれに類する機関があるという事になり。
その時点で描写しなくてはいけない範囲が大きく増える可能性があります。
また、紙幣を扱う場合、価値の根拠を決める制度として、本位貨幣と管理通貨制がまず思い浮かびます。
管理通貨制に関しては、国の力を楯に貨幣の価値を決めるという、現実世界では20世紀になって広がってきた制度ですので
中世ファンタジーに適用させようとすると、相当な想像力が必要になるかと思います。もちろんミジンコであるぼくには不可能な芸当です。
本位貨幣は銀行などが金や銀などの貴金属類の価値を担保として、その貴金属類の引換券である紙幣を発行する方式です。
紙幣の発行元である銀行などが大量に貴金属類の現物を確保し「いつでも銀行で1グラムの金と交換できます券」などを発行します。
するとその「いつでも銀行で1グラムの金と交換できます券」は、1グラムの金と同じ価値を持ち始めることになり、これがお金として通用するようになります。
銀行の整備と価値基準貴金属の存在の整備、少し面倒ですが、これで紙幣が流通していることに違和感が無くなりますね。
この方式の欠点は、経済規模が大きくなると担保となる貴金属類の現物が不足し、紙幣を発行しにくくなるというというところですが
その辺まで考えてお話を作るような人は間違いなく剛の者だと思いますのでミジンコは気にしない事にします。
紙幣の流通量に応じて、製紙技術や印刷技術、偽造防止などといった点に気を配らなくてはいけませんが、とりあえず何とかなりそうです。
むしろ未熟な通貨制度の穴を突いて経済無双する話とかやっても面白いかもしれませんね、誰か書いてくださいお願いします。
ですが、紙も布も貴重なんて時代設定だったりするとやはり紙幣は使いづらいですね。
「硬貨を使いたい場合」
それでは次に硬貨を主な通貨として使用する場合を考えてみます。
現代のように、素材の価値を貨幣の価値基準としない方法を採ると、先ほどの紙幣の時と同じ問題が発生してしまいますので
ここでは硬貨に使用されている金属そのものの価値を通貨の価値基準とする、本位貨幣であるという前提で考えてみます。
実際は、時代により貴金属の含有量がまちまちで、それにちなんだ対策などもされてきたようです。
ですがそこまで考えると間違いなく、賢い狼さんと子供まで作った行商人さん並みの話を書く事になってしまいそうですので考えないことにします。
あ、でもそういった通貨制度の穴を巧みに利用して無双する経済サスペンスアクションとかあったら面白いかもしれませんね、誰か書いてくださいおねがいします。
硬貨を取り扱う場合、気を配らなければならない主な問題は、その携帯性だと思います。
紙幣に比べ非常に重量があり、特にファンタジー通貨素材御三家とも言える金銀銅は鉄よりも重い金属です。
鉄に比べ、銅は1.1倍(青銅もほぼ同じ)、銀は1.3倍の重量があります。
特に金は圧倒的に重く、鉄の約2.5倍の重量があります。
こいつは昔の人も相当持ち運びに苦労したはずだ、そう思って歴史上の金貨の重量を調べてみました。
フローリン金貨(3.5g)、グルデン金貨(3.5g)、デュカット金貨(3.5g)
……あれ、かる……い?
当然紙幣に比べればずっと重いのですが、現在の5円硬貨が3.75gなので、5円玉よりも軽いです。
そして金貨の直径は約20mmですので、直径22mmの5円玉よりもほんの少し小さいということになります。
そこで厚さを調べてみると、フローリン金貨やデュカット金貨は厚さがなんと0.58mmしかない
5円玉の厚さが1.5mmなので、約3分の1の厚さしかないんですね金貨……
さて金貨はすごく薄い5円玉という認識がぼくの中で出来上がりました、5円玉くらいなら100枚くらい持ち歩いても何とかなりそうです。
銀貨は0.6gから1.8gまでと、時代や種類によって重さに大きな差がありますが、重くても金貨の半分程度です。
これも100枚程度携帯するくらいなら何とかなりそうですね。
携帯性が一番の問題だと思っていた金貨銀貨が大したことない重さである事が判明しました。
何万枚も使うような大口な取引は馬車でもなんでも使えばいいのです。
金貨10万枚あっても重量は350kg、荷馬用のロバ1頭で約150kgの荷物を運べるらしいので、ロバが3頭いれば運べます。
荷馬車を使えば1トン程度までは何とか動かせたらしいので、金貨30万枚近くは一気に運べます、楽勝ですね!
そもそも金貨をジャラジャラさせながら運ぶしかない時代の経済規模なんてたかが知れてますし(偏見)
金貨1枚の価値を現在換算で100万円相当とかに設定しておけば庶民はまず使わないし
大抵の取引は数枚から数百枚で済ませられるし、金貨10万枚も運ぶような事態なんて一大イベント扱い以外では発生しないだろうし完璧です、そうしましょう。
金貨1枚は、直径20mm、重量3.5g、通貨価値は100万円相当、銀と銅はそれぞれ100分の1の価値にすればいいよね、わかりやすいし。
良かった、これで通貨の問題は解決しました、案外簡単でしたね。
そんなふうに考えていた時期がぼくにもありました……
3.5gで100万円の価値がある金てなんやねん!
本位貨幣は貨幣に使われている金属がそのまま価値に直結します。
金が3.5gしか使われてないなら、その貨幣は金3.5g分の価値しかないのです。
では中世の金貨はどのくらいの価値があったのか。
ネットでちょこっと検索してみたところ、労働工賃換算で3.5gの金貨が約12万円、1gの銀貨が3000円という記述がありました。
別口で、銅貨は4枚で銀貨1枚分というお話もあったので、それでいくと銅貨は750円相当といったところでしょうか。
この価値の現代換算というのがこれまた厄介な代物なのですが、この場ではとりあえずこの基準で考えてみます。
すると、仮に1億円相当分の取引をするとなると金貨約830枚が必要となり、重量にすると約3kgになります。
あれ、何とかなりそう?
100億円の取引なら金貨83000枚で、重量は300kgです。
馬車に積んで護衛で固めて運ぶ感じでしょうか、特に無理はないように感じますね。
あるとすれば、数える人が大変そう、くらいでしょうか。
昔の金貨の運搬には河川もよく利用されたそうです。
よく沈没していたらしいので、川に沈んでそのままの金貨とかどこかにありそうですね、浪漫ですね。
次に庶民の生活から考えても、銀貨が1枚1gだとすると、1円玉を持って歩いているような感覚になります。
庶民が金貨を何十枚も持ち歩くって状況は考えにくいですよね。それでも軽いものですが。
財布に6万円相当分のお金を入れていたとしても、銀貨20枚でたったの20g
銅貨は補助的に使うような感じでしょうか。
ですがこの銅貨、時代によって価値が大きく変化するうえ、結構重いものらしいです。
そして本位通貨として使えるほど、他の貴金属に比べ価値が無かったらしく、欧州辺りでは一時歴史からその姿を消します。
欧州で再度銅貨が現れるのは16世紀になってから、本位通貨ではなく、銀行券と同じような役割を持って復活するようです。
銅貨はもうこの際好き勝手に予備通貨として作ってしまうか、登場させないなどするしかないかもしれませんね。
さてここまで色々と適当に探したデータを基に適当な考察の真似事っぽい事をしてきましたが。
貨幣の設定は本当に面倒だということが実感できましたね。
これ書き手としても読み手としても、下手に細かい設定されると感覚的に価値が分かりにくくなってどっちも不幸になるだけじゃんと思いますよね。
もう金貨100万円、銀貨1万円、銅貨100円でいいじゃんとなりますよね。
ぼくはなりました。
とは言え、そこまで細かく考えていなくても、話を書いている途中に「そういえばここは……」のような感じで、ふと気になる瞬間というものがあると思います。
そういう時にこういった、他の人はどう考えてるんだろうというものがあれば
そこから自分なりの解釈を求めやすくなるのではないだろうかとも思います。
人の話はあくまで参考です、組み立てるのは自分で、書いている物語は自分の世界です。
実際はこうだったから、こうしなくてはならないという事は無いのです。
そしてぼくは思うんですよ。
こんな事を長々と無い頭捻って、分かりにくい考察書いてまで考える時間があるなら
女の子と行くイチャコラ温泉回を一話突っ込んだほうが、皆が幸せになれるんじゃないだろうかと……