雲と水と……。
昔、昔、といっても人間は生まれていましたし、文明も築いていたころですからそこまで昔でもないかもしれません。今と違うのはどこ行っても森や湖など大自然がいっぱいあったことでしょうか。もっとも人間が自分の住むところを作るために、自然を破壊したりしたこともありますが、たくましいもので人間がその場から離れると、大概は元通り、木々が生い茂る場所に戻りました。
そんな世界ですから自然も当然今より生き生きとしており、火や水、大地や風なども自由に動き回っていました。特に水は、生物にとってはなくてはならないものであり、時には雨として、時には川として、そして太陽の熱で干上ることによって蒸気として、いろんなところを旅していました。
ある日の事。とある目に見えない湯気となった水が、ぷかぷか浮かんで雲に会いに行きました。雲も水からできていると話がありますが、人間にいろんな種類の人間がいるように、水にもいろんな種類の水があるのです。もちろん、雲も同じように。
そして水が雲に話しかけました。
「いやー雲さんよ。あんたはいいな。常にのんびり空を浮かんでいればいいんだから。俺なんか今回の旅は暑い所ら寒い所からまでいろいろかけなきゃいけなくて大変だったんだぜ。すっかり疲れちまったよ」
そんな水の言葉に雲はゆっくりとした口調で返事しました。
「まあ~君は本当に雨になって地上に降りて~そして川になっていろんなところを旅するもんね~。確かに僕より~よく動いていると思うよ~。でも~ゆっくりいろんなものを見ている僕の方が~この世界の知識はあると思うな~」
のんびりしながらもどこか水に対抗意識を持つ雲。そんな言葉をかけられて水は黙っていられません。
「なんだとぉ!?じゃあ、勝負しようじゃねえか!どっちがこの世界についてよくわかっているか!」
「いいよぉ~どうせ僕の勝ちだろうしぃ~」
目に見えない水蒸気となっている水と、誰も気にしない雲。その二つの存在が勝負を始めたことに気づくものはおらず、静かに戦いの火ぶたが切って落とされました。
「それで~何で勝負するのぉ~。鳥の種類をどっちが多く知っているかとかぁ~?」
「あんた、自分に有利な勝負選ぼうとするな!だったら魚の種類がどっちが多く知っているかにするぞ!」
「そりゃちょっとずるいよぉ~。僕魚なんてほとんど知らないもん~」
「俺だって鳥なんてほとんど知らねえよ!」
そんな話し合いがしばらく続き、お互い少しでも有利な勝負を挑もうとしましたが、なかなか勝負方法は決まりません。そして水が再び雨として地上に戻る前日。ようやく勝負方法が決まりました。
「よし、じゃあこの世界の平地にどれだけの数が木が生えているか数えること、で勝負だな!神様に直接聞くことで判定する。もっとも今はよそへ出かけているから帰ってきてからになるが……。より、正しい数に近い方が勝利だ!それでいいな!」
「いいよぉ~。高い所とか、海の底とかの植物は含めないっていうのも忘れないでね~」
どうやら地球であまり動かず、姿を変えることもめったにない木の数を数えることにしたみたいです
「期間はどれくらいにする?」
「一年後でいいんじゃないの~?」
雲はてきとうに答えます。それに対して馬鹿にするかのように川が反論します。
「それじゃ短いだろ!仮にも世界を回るんだからな!最低十年、いや世界も色々変化するしそれに対応できての知恵だしな……。百年だ!それぐらいたてばちょうど神様も帰ってくるだろう」
「いいよぉ~どっちにしたって僕の勝ちだろうしぃ~」
そして、勝負は始まりました。まず、地上に降り立った水は協力者を募りました。不思議なことに雲に対抗意識を持っている水は意外と多く、負かせてやりたいという気持のもと団結しました。海を集合場所にして、水は各地に分散し、木の数を数えはじめました。
雲もまた、雷雲から、入道雲までいろいろな雲に助けを借りました。そして世界に散らばり、木の数を数えはじめました。もっとも川と違い、移動範囲は多くとも雲は動きが遅いので集合はせず、伝達しながら木の数を数えました。
色々な場所に水は流れ、色々な場所に雲は浮かびます。
そして五年後、この勝負をはじめた水と雲は中間報告として再び会いました。
「近くで火山が噴火して木がだいぶなくなっちまったらしい。それも数に含めるか?」
「あくまで十年後の木の数を答えると言うことだからね~。含めると思うよ~」
もちろんお互い、数は覚えていますが、それを口に出すことはありません。相手に情報を教えてしまうようなものだからです。
「あと、どういうわけだか、数年前までは森だった場所が砂だらけの場所に変わっちまったんだが、何かあるのか?」
「わからないけど~。木はそんなところには生えないから行く必要はないよね~」
そして二人は別れました。火山が噴火したところはいかなくていいだろうと、水も雲もその場所を通ることはなくなってしまいました。水と雲。もはやこの二つの勝負に参加してない存在はほとんどいなかったのです。
それから十年たち、二十年たち、五十年たち……。
約束の百年がたちました。
「へへへ。絶対俺の方が正しい数字っていう自信があるぜ」
「いやあ~僕の方が絶対性格だよぉ~」
そうして二人は空よりももっと高い所にいる神様の元へ話を聞きに行きました。ちょうど少し前に戻ってきてい見たいです。
ところが神様は二人に出会ったとたんに大目玉でした。
「愚か者どもめが!!お前らがくだらない勝負をしたせいで、太陽を隠すものもなく、水で冷やされることもない大地が干上ってしまったではないか!一体どれほどの生物が犠牲になっていると思ったのじゃ!」
なんと二人は勝負に夢中になるあまり、自分たちの本分を忘れてしまっていたのです。今までは、どれだけ荒廃しても雲が適度に隠し、水が大地に潤いを与えることですぐに元通りとなっていたのですが、あまりにも白熱した勝負をしてしまったため、放っておかれた大地は砂漠となり、普通の生物や植物が住めない状態になってしまったのです。
二人は驚き、神様に泣きながら謝りました。元通りにするから許してくださいと。しかし、神様は許しません。
「もう、今頃元に戻すことはできん。お前たちに失望した生き物は、独自に変化し、砂と高熱という環境がむしろ彼らにとっての楽園となってしまった。もちろん他の大半の生物は苦しんでいるがな。 水と雲はなくてはならないものだからすべて罰するわけにいかぬ、事の発端はお前たち二人だからお前たち二人に罰を与える。お前たちは砂漠以外は動いてはいけない。そして、砂漠を苦しみながらも生きなきゃいけない生物を見かけたらお前たちが助けよ。数千、数万の生き物を助けたとき、お前たちは許されるだろう」
そして神は二つの存在を彼らを砂漠に閉じ込めてしまいました。二人は自分たちがした罪を重く受け止めました。また、木々も自分たちに責任があると、感じて、彼らを助けることにしました。風に頼み、彼らの元へ自分たちの種や木を運んでもらい、苦しむ生き物たちを助けました。
そして、雲は定期的に水を砂漠に落し、水は植物の種をばらまいてしばらくその場にいました。しかし、太陽の熱がはげしいためすぐ空に浮かびますが、すぐさままた別の場所におちて……というのを繰り返すのです。
聞いたことがありませんか?砂漠を渡る旅人が今にも息絶えてしまいそうになった時、オアシスを見つけて、水と自然に囲まれて命を救われ、そして後で同じ場所に行ってもオアシスは影も形もなかったという話を。
それは、遠い昔に、この世界に砂漠というものを作ってしまった、雲と水の罪滅ぼしの証なのでしょうね
色々お世話になっている方に、
雲、水、木々という言葉をいただき、童話を作ってみました。
久々に書きましたが意外と楽しかったです。
一応童話祭にあわせて書いてみました。(エントリーとかはしませんけど)