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嘘つきは裏世界で口操王の夢を見るか  作者: 眠ることを犠牲にした葱
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6/6

翌日

悪夢。一言で表せるならばそういうものだろうか。夢オチともいう。


何にせよ、目覚めてから学校までの道は決して気分がいいとは言えなかった。


その日のクラスはやはり、いつも通り。三鷹さんは一人本を読んでいる。まだ一年の秋ということもあり、まだ暑さがほのかに主張する教室は大小のグループで騒がしい。


ワイシャツの袖口をまくった男子三人がにこやかに談笑しつつこちらに来た。


「ショウ、今日カラオケ行かね?」

「今日、俺のとこの妹がいないからさ、あ、あとミナトの親もいないっていうから」

「ほんとはオレ部活があるんだがな......」


発言順にジョン、ナカ、ミナト、僕の中学からの友人たちだ。


今日は塾とかなかったよな......。


「いいよ、行くか」


ちょうど予鈴が鳴り、次の授業に備えてみんな自分の席に戻っていった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あ~~あ~~っ、はってしない~~~~!!!」

「あはははははははは、あははは!!」

「ジョンは相変わらず音痴だな~~」

「ナカも人の事は言えないだろ......

あ、僕ちょっとドリンクバーに」


コップを持って部屋からでてドリンクバーでジュースをブレンドする。


......と、後ろに人の気配が。並んでいるらしい。早く注ぎ終えなければ。


並々とジュースの入ったコップを持って横を通りすぎようとすると、その病的に細くやたら背の高い男の口から不意に言葉が紡がれた。


「......お前、オキガミショウマか?」


......と。


はて、僕はこの電柱男のことを知らない。こんなに細長い人は先輩くらいしか知り合いにはいない。伸長が二メートル近い人がそうバンバン出てきていいのはスポーツ漫画だけだ。そんなにインパクトのある人だったら覚えているはず。だから、どこかですれ違ったというのは無さそうだ。


よって、この人は明らかに僕の知り合いではない。


そしてこの人、どうやら僕を探している様子だ。第一、僕に会ってその質問をするのはおかしい。


僕の一切知らないこの人が僕の事をなにやら探っている。実に寒気を覚える話である。


僕はスリルとサスペンスは好きだが、これは普通に怖いだけだった。不気味なものほど怖いものはない。


こんな得体の知れない状況で「はい」と答えるほど僕はアホではない。しかし、嘘をつくのに違和感のないこの堕落した生活にこうも生かされる日が来るとは......。


「......いえ、違いますけど......」


平然とそう答え、真実味を帯びさせるため、男の目を見つめる。


「......ではオキガミショウマという名を知っているか」


「さぁ......」


わかりません、と 付け加えその場から立ち去ろうとした。


......しかしそれは出来なかった。


この男の瞳から、そこを見つめる僕の姿が消えることはなかった。


僕は今この男から意図的に目をはずすことが出来ない。なにも、この人が奇妙な行動をしたわけではない。強いて言えば彼は僕から眼を離さなかっただけなのだが。


まるで僕の瞳が、体が意思をもって頑として動かない、と主張しているようだ。ワイヤーかなにかで動けないように縛られている。


ガラス戸から射す夕日の光も無視して、僕の視界は暗くなり、僕自身も沼に沈んでいくようだ。


誰かに支配されているようなこの感覚はなんだ?


普通ではない。異常だ。おかしい、危険だ。潜在意識が訴える。冷や汗が背中を幾筋も伝った。


これ以上はヤバい、動こうにも体の自由がない。まずい、動かなければ......!


「あ、おい、ショウ!オレのオレンジも取ってきてくれー」

「......お、おう!!」


ミナトの声で、僕の意識は深いところから呼び起こされた。糸が切れたように僕の体は自由を取り戻した。さっきまでの感覚はどこへやら、意識もすっかり覚醒している。



「じ、じゃあ僕これで......」


さっと男の脇を抜けてとにかく急いで部屋に入った。ドアを閉めるときに振り返ってドリンクバーを見たが、そこにはすでに男はいなかった。幻影や蜃気楼よろしく、消えていた。ドリンクを取りに来たわけではなかったらしい。いや、端から普通の人ではないとは思っていたが、ではなんのために......。


このご時世、男子高校生に不審者が固執する理由も見当たらない。


気味の悪さを感じつつ、僕はそれを振り払うようにミナトに話しかけた。


「はは、知らない人に他人と間違われたみたいだ」

「そりゃあ災難だったな......で、オレのオレンジは?」

「......あっ」


ガッツリ忘れてた......。


「じゃあ代わりにこれでいい?」

「お、サンキュー」


僕は手に持つ濁った黄色のジュースをミナトに渡した。ミナトはなんのためらいもなく飲み、顔色を悪くした。


「......おいこれなんのジュースだ」

「ジンジャーエールとカルビスとブラックコーヒーと青汁」

「なぜ味の種類を統一しない!?」


ジョンとナカはいつものようにバカ笑いをした。僕もさっきの事を忘れて笑った。それはきっと、頭に残る嫌な感覚を忘れたい、という無意識の欲求だったのだろう。




アナログで書き溜めしてたら一話がとんでもなく長くなったので分割します。


区切りが悪いかも知れませんがその分早く投稿するのでご容赦を。

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