始まりと悪夢
そこが夢である、と気付くのにさして時間は要しなかった。
明晰夢というやつだろうか、意識はハッキリしている。
目の前には見慣れた自室。
目の前には見慣れた、しかしボロボロな自分の冬用服を着せられた、同様に焼けた跡だらけのマネキン。
「......っ」
思わず息を飲む。
視界には、開かれた扉の手前に佇む、フード付のローブで全身を隠した中肉中背の男。
そして、扉の奥はひたすらに暗かった。
今にも襲いかかられそうな恐怖を――もとい、スリルを――ひしひしと感じながら、これは夢だと自分を落ち着ける。そう、これは夢だ。恐れる必要はない。そうは思いつつも腹の下あたりに感じるぞわぞわする恐怖は拭いきれなかった。
えもいわれぬ不気味さを男に抱きつつも、僕は男に尋ねた。
「......お前は誰だ?」
男は僕の言葉を無視した。しかし男が口元をにやつかせたことは微かに見てとることができた。その笑みは気味が悪いものであったが、どこか無邪気な喜ばしさを残していた。
「なんなんだこの夢は......」
その問いは自問自答のように空間に消えていった。
やがて、男は部屋に背を向け、暗闇に身を溶かした。
気付けば恐怖なくなっており、自然に考えることができるように――つまり、平生を保てるようになっていた。夢の中だからか感情がうまくいかなかった......のだろうか。しかし意識はハッキリしていたから感情だけをコントロールできないのはどうにも不可思議に思えた。
まぁ明晰夢なんて初めてだし、もう少し色々としてようか。と、僕が意気込んだその瞬間、足元が抜けたような浮遊感と共に視界が極彩色に染まった。
しだいに目の前が暗くなり、僕は目を覚ました。