華やかさに欠ける日常風景
秋の終わりは近づいているというのに、その日はなんだか暑かった。今日の最後の授業が終了し、教室内は喧騒にあふれ、僕らもまたその喧騒に紛れていた。
「今日さ、数学のテストあったじゃん?オレあれ酷かったんだよね。
……何点だったと思う?」
「僕は別にミナトの点数は気にならないんだけど」
「気になってくれよ」
ミナトは笑いながらそう言って、僕も一応当てに行くことにした。たしか今日のテストの平均点は50前半だったから……
「……30くらい?」
「ハイ残念正解は15だ。ショウもまだまだオレの事を知らんな?」
ニヤリと笑い言い放った。はて、なんでこいつは得意そうなんだろうか。
「15とか……どうやったら獲れるんだよ。直前に頭が海綿状にでもなったの?」
「どうしてオレの頭がここまでの罵倒をされているのか知りたいな。
でもほら、これ平均から35点しか差がないだろ?これ凄くね?」
髪をかき上げ、さらに言い放つ。だからなんでこいつは得意そうなんだろうか。こいつはもしかしたらバカなんだろうか。
「凄い要素と言えばミナトのバカさ具合だけだね」
「よくそこまで非情なことを言えるよなお前」
「非情じゃなくて正直と言ってほしいね」
「お前が正直とか地球が三回滅んでも無い」
失礼な、なんだか随分な言い草じゃないか。
「まぁ80オーバーにはわからんだろうな、15点の気持ちなんて」
わかってたまるか。第一、そんな気持ちは「勉強しときゃあよかった」位なものだろうに。
……ん?いやまて。なぜにこいつは僕の点数を知っている?誰にも言ってないはずなのに。
「ミナトお前、誰から僕の点数を?」
「当然、俺もお前もよく知っているあの人物だよ」
……ナカか。僕がいくら秘密にしてもあいつの情報網からは逃れきれないということなのか。
……と、そんな話をしているうちに、いつの間にか部室に着いていた。
「あ、じゃあ僕こっちだから」
「はーいよ、じゃな」
「じゃあ」
僕が文芸部に入部したことには、たった一つの理由しかない。
恥ずかしながらそれは、同じクラスの三鷹叶多という女子である。約5か月前の僕は、彼女が消極的なのを見て、大事な部活動選択を片思いの女子と話すためだけに、それだけのためにしたのだった。
だが僕がこの選択で得たものは三鷹との対話ではなかった。
それどころか、彼女は実際、部活にすら来なかったのだ。つまるところ彼女は、学校の決まりだから部活に籍を置いたのだ。
そして夢破れた僕はもとよりやることもない部活動で、なんとなくここへきて、手持無沙汰に雑談するのだ。
さて、その雑談の相手とは————。