十七の巻『ギルドマスターはエルフを連れて』
十七の巻『ギルドマスターはエルフを連れて』
最近は鳴りを潜めていた狗賀と狐賀の対立が復活しそうになったが、両一族の長である雷丸が簡単に納めてしまった。
「よし、なら三人で参加だ」
異論は認めないと即決で決定。
緋桜と清も雷丸の決定ならと引き下がり、三人で参加することとあいなった。
「それでは美少女受付嬢がいなくなってしまいますね。私が代わりに引き受けましょう」
「いいのか?」
人気受付嬢の二人が揃って不在となるとカウンターが寂しくなるのも事実だが、大富豪のお嬢様が受付業務などやらせても良いものか。
「もちろんです。雷丸が緋桜さんたちのことを美少女、美少女と褒め称えて少し羨ましかったのです」
「亜雪様!?」
冒険者ギルドにとってスポンサーである亜雪の存在は生命線そのもの、もし手違いで不快な想いでもさせようものならと心配になるのだが、当のお嬢様はとてもやりたかったらしい。
「私では受付嬢は務まりませんか」
主任受付嬢である緋桜に確認を取る。
「いえ、滅相もありません」
「ありがとう」
亜雪お嬢様も雷丸同様に十分に冒険者ギルドを楽しんでいた。
「亜雪お嬢様、そろそろお帰りのお時間ですが」
話しがひと段落した所で執事服を纏った三〇代の男性が会議室にやってきた。見計らったようなタイミングでの登場。彼は戸隠峰亜雪の専属執事で鮫裏、雷丸たちも亜雪の送迎で何度か対面していた。
雷丸は一目見た時から一般人とはかけ離れた何かを持っているような印象をこの鮫裏執事から受けていた。
「もうそんな時間なのか」
会議が予定よりも大幅に延長し、亜雪も熱中していて迎えの時間さえも忘れていた。
「あら私としたことが」
「亜雪、アンケートのまとめサンキューな」
「どういたしまして、それでは明日は私が受付嬢を務めますのでよろしくお願いします」
受付嬢のことを念を押して、優雅にお辞儀をすると鮫裏を斜め後ろに伴い会議室をあとにしていった。
「只者じゃない執事」
「部屋の近くに来るまで気配が感じられなかった」
清と緋桜も雷丸が感じたように鮫裏という執事には相当すごい人物ととらえていた。
「さすが戸隠峰、執事も手練れってか、忍じゃないのよな」
「いえ、あの人からは忍独特の自然に溶け込むような気配はありませんでした、おそらく近代的修練をつんでいるのでしょう」
「ん~敵役で裏山異世界に参加してもらえないかな」
「なぜ敵役?」
「とくに理由はないけど、冒険者っぽくないから」
雷丸らしい判断基準であった。
翌日、受付嬢の制服に身を包んだ笑顔の亜雪に送り出された雷丸たちは、月光熊討伐隊に参加するため裏山異世界におもむいた。本部を出て少し進むと、集合地点である大きな岩が一つある広場には、すでに三十人近くの冒険者たちが集まっていた。
現在の冒険者たちの中でトップレベルの者たちだろう。みな異世界に憧れを抱いている雷丸の同類が多いはず。そんな所にエルフスタイルの清が現れたことでざわめきがおきた。
「今日から試験的におこなわれる別種族スタイルだ、テストも兼ねて俺たちも月光熊討伐に参加させてくれ」
どよめきが歓声に変わる。
「エルフきたーーー」
歓声の種類もいろいろで、雄叫びをあげる男がいれば。
「異世界でエルフ、感動で涙が垂れ流れる」
幻ではなく本気で泣く男。
「男って落ちは無いよな!!」
期待を裏切られた時のための防衛本能を働かす男などなど――
「正真正銘、女」
生まれてはじめて男と疑われた清は、とくとご覧あれとクルリのその場で一回転、結わいた髪が踊り女性特有の細い体のラインを見せつける。
「お、おお~~~!!」
喋って動くリアルエルフ娘、冒険者に混じって雷丸も歓声をあげていた。
「あの、もしかしてあなたは受付の」
エルフのキヨナの派手さに隠れていたが、目ざとくも緋桜の存在に気がついた数人が緋桜に話しかけてきた。
「はい、雷丸様、いえ、ギルドマスターの意向で参加することになりました」
「話が分かるギルマスだ!!」
「顔は知らないけど、ナイスギルマス!」
冒険者ギルド狼弧開設時、ギルドマスターとして挨拶をした雷丸のことは誰も覚えていなかった。
「男には興味ありませんよね、わかってますよそんなこと」
「まあまま、雷丸様、拗ねないでください」
いじけだした雷丸を緋桜が慰いると、騒いでいた男の一人が一歩前へ出てきた。
「受付嬢さん」
「は、はい」
「ご安心ください、あなたの護衛はキッチリと俺が勤めてみせます!」
「護衛!?」
「何言ってるんだ、彼女を守るのはボクの役目ですよ」
「えっと、あの……」
緋桜そっちのけで誰が護衛を務めるか言い合いをはじめる冒険者たち。
「やはり受付嬢は冒険者のアイドルなんだな」
「あの雷丸様、変な感心をしてないでなんとかして下さい」
緋桜自身が護衛として参加しているのに護衛をつけるとはおかしな方向に話が流れていく。
アンケートに書かれていた通り、異性を求めていた男どもは多かったようだ。
「ちょっと待ってもらえるか」
誰が一番護衛に向いているかのステータス比べまでに発展していた言い合いに待ったがかけられた。
「俺はカーンズ、募集をかけたパーティーのリーダーをしている」
不機嫌な表情の男たちがカーンズの後に続き騒ぐ冒険者たちをかき分けて騒ぎの中心へとやってきた。彼らは周囲と違いまったく浮かれてはいなかった。