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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第二章『集団戦への参加は、調査です。仕事です。本当です』
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十四の巻『会議とくれば円卓』

第二章へ突入です。

   十四の巻『会議とくれば円卓』



「第一回、冒険者ギルド『狼弧(ろうこ)』幹部会議をはじめる」


 ギルド本部二階奥の部屋、先日の高級車窃盗事件対策室であった場所、そこに雷丸(らいまる)が丸いテーブル、円卓を持ち込み幹部たちを招集したのだ。目的は述べたとおりの幹部会議。呼ばれた面々は自分が担当した仕事の報告書を持参していた。


「あの雷丸様、まだ空席がありますが」


 席についているのはギルドマスターの雷丸。副ギルドマスターの亜雪(あゆき)。御側役筆頭兼、受付嬢主任にもいつの間にかなっていた緋桜(ひざくら)弧乃衛(このえ)忍軍隊長兼裏山異世界管理の(きよ)。そして、武具防具オプション販売とホールスタッフの代表の忍が一人ずつ計六人しかいない、用意された席は十三、まだ半分も埋まっていなかった。


「円卓だから十三席置いた、それ以上の理由は無いから気にするな、幹部は全員揃ってる」


 両肘をつき顔の前で手を組みながら、いつもよりもすこしだけ低い声で答える。どうやらこれが幹部会議における雷丸理想の渋いギルドマスターのポーズらしい。


 好きなモノには形にこだわる。


「こだわりを否定する気はないけど、和室に円卓は似合わないと思います」


 高価な物に囲まれて育ったお嬢様の亜雪は、どうして畳の上にわざわざ絨毯をひき円卓と椅子を持ち込んだのか理解できずに困惑していた。


「俺だって畳だけでもはずそうとしたんだが」

「どうかしましたか」


 予定外だったと苦い顔をした雷丸は緋桜を見る。


「畳の下はすでに武器庫に改造されていたんだ」


 会議を開く数時間前、円卓の部屋を作ろうと意気揚々で畳を持ち上げた雷丸が目撃したものは、ぎっしりと並べられた忍具の数々だった。


「武具を隠す衣はもちろん、身を隠す防具に、相手を押しつぶす武器と一石三鳥分もの働きをする畳を我ら忍が利用しないわけがないです」


 緋桜の力のこもった畳の使用法解説に、清を含む忍たちがうんうんと首を縦にふる。


「畳とはそんなにエキサイティングな代物でしたっけ?」

「亜雪もここの畳を一枚剥がしてみればいやでも納得するぞ」

「……そ、そうですか、でもそれは次の機会にお願いします」


 亜雪が社交辞令的流しで話題を終了の方向へともっていった。形にこだわる雷丸があきらめたほどの代物だ、自分の中にある和のイメージを壊したくなかったのかもしれない。


「あらためて幹部会議をはじめる。この会議はギルド狼弧のより良い発展を目指すことを前提とした物だ、お金関係からいこうか」

「私、緋桜から報告させてもらいます」


 ギルド『狼弧』の金庫番、帳簿を一手に管理している緋桜が手をあげた。


「先日の亜雪様から頂いた案件で高額の報酬をいただきましたが、それ以外、裏山の整備や当ギルド本部の修繕費や改築費などが掛かり利益はほぼありません」


 車両窃盗事件の依頼料は、一歩間違えば戸隠峰が大損害を被っていたかもしれないことを、未然に防いだと感謝され、庭付き一戸建てが買えるほどの金額が貰えたが、ギルドを開くにあたっての準備資金で出た赤字が多く、合計すればほぼプラスマイナス0っといった感じになっていた。


「あと少しで赤字になるところでした」

「赤字はイメージが悪い、ギリギリ黒字だったと言ってくれ」


 渋めのポーズを取っても中身は雷丸のままであった。


「次は裏山異世界」

「清が報告。事件、事故は皆無。ただ素行の悪い者たち多数」


 いつも通り淡々とした口調で報告。

 レベルが上がり調子に乗った連中が他の冒険者たちに因縁をつけ喧嘩になりかけたことが数件報告されていた。

 現状では忍たちが騒ぎが大きくなる前に抑えている。


「予想はしていた、それは忍を増やす必要があるか?」

「所詮は素人、問題無い」


 クールで小柄な少女は、静かな口調の中にも絶対の自信が込められている。


「わかった異世界はそのまま任せる、他に何かあるか」

「裏山は無い、でも受付で愚痴を聞く」

「愚痴?」

「クエストにも慣れてきた者たちが、いろいろと要望を受付に言ってくるんです」


 同じく受付でよく愚痴られる緋桜が言葉の足りない清の説明を補足する。この何気ないフォローがいつの間にか受付嬢主任と言われる要因の一つかもしれない。


「俺的にはかなり理想に近いフィールドなんだけどな、まだ不足があるか、アンケートでもしてみようかな」

「雷丸様ならそうおっしゃると思い、すでに意見書を幾人かに書いて頂きました」

「さすが緋桜、気が利いてるぜ」

「ただ、私にはわからない用語が多く、意見書のまとめは亜雪様にお願いしました」


 亜雪が持っている報告書だけがやたらと分厚い束になっていることには雷丸も気がついていたがアンケートだとはわからなかった。厚さから見てアンケートは五十枚以上はありそうだ。


「このアンケート結果をどうするかは今後のギルド運営にかかわりますので、各部署の報告を聞いてから伝えたいと思います」

「そうだな、結果を聞いたら盛り上がってそれどころじゃなくなるかもな」


 間違いなくそうなると確信を持つ緋桜たち。今以上に異世界冒険が楽しくなるような案が出された場合、間違いなく雷丸は暴走する。


 残りの報告をせかす雷丸を緋桜が宥めながら会議は進んでいく、幸いほかの担当もさしたる問題はなく報告は簡単に終了した。


「それでは雷丸のお待ちかね、アンケートの結果発表に移ります」

「待ってました!」


 雷丸が拍手で歓迎して、亜雪がアンケート用紙の束を二つに分けた。


「良い方と悪い方、どっちからお聞きになりますか」


 二つに分けたのは内容の違いだった。雷丸は少しだけ悩んで。


「じゃ良い方から頼む」

「それでは、好意的な意見から『本当の冒険だった、面白かった』『まさにファンタジー楽しかった』『オラわくわくした』『異世界のクオリティに感動した』『夢をありがとう』など、言葉の違いはありますが、ほとんどが異世界の完成度の高さに心揺さぶられたようです」

「『夢をありがとう』って書いてあるアンケートどれだ、名前が書いてあったら一緒に冒険しないかって誘うから!」


 褒め言葉の覧列に予想通り雷丸のテンションはマックスになった。


「平安時代にはすでに編み出されていたと言われる幻術、千年以上もの歴史の中で幻術をここまで娯楽に用いたのは雷丸様がはじめてでしょう」

「本来は、敵かく乱用」


 若手代表としてそれぞれ忍部隊の隊長を任された二人の少女が自分たちの主に少し冷めた視線を送っていた。

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