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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第一章『異世界に召喚、いや、異世界を召喚した少年』
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十三の巻『雷丸のやり方』

   十三の巻『雷丸のやり方』



『大好きなんだ』告白は告白でも雷丸の好みの告白であった。当然のそことは緋桜も嫌というほどに体験して知っている。


「こんな時に何を言ってるんですか」


 猛烈に期待して損した感が緋桜にのしかかっていた。


「幻術結界を張れないか」

「『虚』のことですか、幻術系は狐賀の方が得意分野ですが、この工場くらいでしたら我々でもいけると思います、ただ……」

「幻術を作り出すイメージだろ、まかせろこの工場はガキの頃に散々妄想の中で作り替えてきたからな、原型もとどめず異世界にできるぜ」


『幻術結界・虚』顕現者のイメージで作りだす幻の完成度が大きく左右される。本来なら熟練した忍でも山一つを覆いつくすイメージなど不可能だが、雷丸の異世界に焦がれる想いの強さが熟練の忍おも上回った結果、不可能を可能へと変えていた。


「わかりました」


 緋桜が御傍衆に指印信号(しいんしんごう)、指の形で仲間とコミュニケーションや作戦の変更を伝える技術で、幻術結界を張るように指示をだす。

 指示を受けた御側衆は工場内を取り囲むようにクラッシャービークルの目を盗み配置についていく、緋桜は自身の影から糸を作りだし裏山の時と同じ要領で順番に投げ渡していく、しかし、今度は円の中に敵がいる。

 見つからないように慎重に、時には囮を使い。


『そこかー!』


 引きつけてドロンと姿を消す。


『隠れてねぇで出てこいやー!』


 御側衆の見事な連携で、敵に悟られることなく影の糸は工場を一周して緋桜の元へ戻ってきた。


「準備が整いました」


 核となる水晶がなかったので、緋桜が帯刀していた小刀の刃の面で代用して影を結び付け雷丸に渡す。


「よし」


 気合を入れて雷丸は隠れていた物陰より立ち上がる。


「雷丸様、屈んでください見つかります!」

「すまない緋桜、イメージに必要なんだ。ちょっと叫ぶぞ」

「はい?」


 影の繋がった小刀を握り締めると雷丸は大きく息を吸い込んだ。


「こい、俺の妄想、幻想、夢想、ガキの頃に駆け抜けた異世界よ!!」


 思い出せ、ガキの頃に駆け抜けた異世界を。滾る情熱を夢想に乗せて。


「ら、雷丸様!?」


 冷静沈着の緋桜が、隠れていることもわすれ悲鳴をあげた。それは敵に恐怖したわけではなく自分の主の突飛な行動について行けず思考が限界を超えたためであった。

 亜雪お嬢様は言っていた、緋桜は雷丸が絡まないと優秀であると、しかしそれは、当たり前だが雷丸が絡むと優秀でいられなくなるという意味だ。


『そこか!!』


 叫んだ雷丸と一緒に悲鳴をあげた緋桜も見つかる。

 残った片腕の銃身が雷丸に向けられた。


「こい、異世界ファンタジーここに顕現しやがれッ!!」


 だが、発砲よりも早くに『幻術結界・虚』が発動した。


 コンテナや重機は、地面より伸びた蔦に飲み込まれ、壁は樹木へと姿を変える。照明が灯っていたはずの天井は消え失せ澄みきった青空が広がり、漂う雲の上に白亜の城まで見えた。どう考えても現実とは思えないファンタジーな世界風景。


「木の一本一本の枝の本数が違う、人間の限界を超えた想像力です」


 これをするには森の木々すべてを正確にイメージしたことになる。緋桜は無駄にすごすぎる高位能力に呆れることしかできなかった。


「見たかSF、ここを剣と魔法の異世界ファンタジーに作り替えてやったぞ!! そしてお前を異世界風にモーターゴーレムと命名する」


 バッシっと指さし高らかに宣言。そして――


「全身武装」


 ギルドカードが輝き雷丸が召喚士スタイルへと変身する。


「あの、どうしてそのお姿に」

「ここはもう異世界なんだから冒険者スタイルになるのは当たり前だろ。緋桜も武装しろよ」

「申し訳ありません、ギルドカードを本部においてきてしまいました」


 持ってくる発想自体が緋桜にはなかった。


『どんなトリックだこれは、テメェの仕業か!!』


 体制を立て直したクラッシャービークル改めモーターゴーレムが銃弾を撃ち込んでくる。緋桜はさらに何か演説をしようとしていた雷丸を物陰に引き戻した。


「人の演説は最後まで聞け、マナーの無い奴だ。お前を盗賊と断定、ギルドマスターの権限においてモーターゴーレムの討伐依頼を発行する。もう遠慮はいらない御傍衆(ぼうけんしゃ)たちよ奴を殲滅しろ!」

「御意」


 緋桜以外の御傍衆から息の合った返事が返ってくる。ポンコツになっていた緋桜も長からちゃんとした指示があれば元に戻れる。


『なめるな、こっちは遊びでやってるんじぇねぇんだぞ!』


 ところ構わず銃火器の乱射を始める。その凶弾は網の中で捕まっている作業員や気絶させた警備員の側にも着弾していた。


「捉えた者を工場の外へ、奴は私が相手します」

「緋桜一人で大丈夫か」

「あの程度の相手であれば」

「わかった、任せる」

「承知」


 弾幕が降りそそぐ中に躊躇なく飛びだす緋桜、長い黒髪が軌跡のように彼女の後を追いかける。幻影が作りだした木の枝に飛び乗り、素早く飛び移りながらモーターゴーレムの射線を誘導していく。


『くっそ、なんで小娘一人にもてあそばれなきゃなんねぇだ!』

「何を怒っている、盗賊の分際で!」

『俺は盗賊じゃねぇ!!』


 現代日本ではどのような犯罪を行おうとも盗賊と呼ばれる犯人はなかなか存在しない。緋桜の施工もいつの間にかファンタジー寄りになっていた。


「まあどうでもいい、雷丸様に銃口を向けた時点で許すつもりは無かった」


 利き手である右腕を天に突き上げる。


「雷遁・雷貫通(らいかんつう)


 緋桜の手に雷で構成された電撃の槍が顕現する。

 鎌鼬とは違う明確な迫力、術のことを知らない雷丸であっても緋桜が握る槍がとてつもない威力を内包していることが見て取れた。


 御傍衆の忍たちが雷丸の前に盾になるように立ちふさがる。これは明らかにクラッシャービークルからよりも緋桜の放つ忍術の余波がこないようにとの配慮だった。


「ハァ!!」


 そしてその槍をモーターゴーレムに気合と共に投げつける。槍は稲光の速度で飛び、モーターゴーレムのボディを撃ち貫いた。

 まさに一瞬、投げたと思ったら機体に大穴があいていた。


「な、なんだ魔法でも使ったのか!?」


 外部スピーカーも壊れ、牛ドクロの声は外へは届かなくなっていた。だが、叫んだ疑問はすぐ近くから返ってきた。


「魔法ではない、忍術だ」

「テメェいつの間に」

「死にたくなければじっとしていろ」


 フロントガラスを鎌鼬の手刀で切り裂き、男の胸元を掴み引っ張り出した。

 ほどなくしてボディに大穴をあけられたモーターゴーレムは姿勢を保てずに倒れるが、爆発することはなかった。工場を倒壊させずに済んだと胸を撫で下ろす。異世界に作り替えたといってもそれは幻術であって、本当に爆発していたら工場は壊れていただろう。

 こうして雷丸以下、緋桜率いる御傍衆はケガ人なく、冒険者ギルド『狼弧』初の現代高難易度クエストは完全達成された。


「なぁ緋桜、最後に緋桜が使ったヤツさ」


 雷丸がやり投げのポーズをとって尋ねる。


「雷貫通ですか」

「あれは今度から上級魔法ジャイロサンダーっと呼称するから、詠唱もかっこいいのを考え中だ」

「あの雷丸様、どういう意味ですか?」

「きっと人気が出るぞ、何せ見た目がいいもんな、魔法最高!!」


 それはつまり冒険者ギルドで発表するということだろう。


「ああ、影に生きてこその忍だというのに……」

「そう落ち込むなよ、ギルドを作ったからこうして高額依頼も来たんだぜ」

「それは確かにそうなのですが」


 落ち目にあった忍家業に光明が差しこむ。

 ただ一つ問題があるとすれば、忍の長となった少年雷丸は、忍が活躍する和風活劇よりも……――剣と魔法の異世界ファンタジーの方が大好きだった。

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