非日常 勇者がこちらに降ってくる直前
オレは勇者だ。魔王を倒し、世界の平和を取り戻すのが役目。ヒーラーのアンジェラや、シーフのリーリエ、モンクのマリヴィエと仲間にも恵まれ、さぁ、決戦といったところで出会った魔王はこう言い放った。
「勇者よ、我のモノとなれ!」
女性である魔王は挑発的な服に身を包み、オレに愛を語る。
「我は勇者をずっと見てきた。生まれたばかりの勇者が我を滅ぼすと預言されてから。初めはまだ小娘であった我は死にたくないが故に勇者を殺そうと企んでいた。今考えるとなんと愚かなことをしようと思っていたのだろうか。そして我は勇者、お前に会った。安らかな寝顔に刃物を当てたが、その途端お前は目を開け、我に微笑んだ。それから我は勇者の虜となった。」
恍惚とした表情の魔王は少々寂しそうにも見えた。
「勇者に滅ぼして貰えるなら本望、しかし話も、デートも、体を繋げることも我はした事がない。ここに閉じ込められて、生まれて20年。魔王としての仕事は覚えたが色恋事はそこらの村娘の方が経験豊富。死ぬのならば、一度だけでいい、我のモノとなり、体を繋げて欲しい。」
「…」
覚悟を決めた彼女の表情は、どこか少女のようで、その要求をのんでしまいたいと思ったが
「黙れ、魔王!騙されるなよ、勇者、あの女は同情を煽り油断させ、こちらを屠るつもりに違いない!」
「そうだよ!それに勇者が体を繋げるのは私だけでいいんだもん!」
「それは聞き捨てならないわね。勇者はあたしと結婚するって約束したもの。ね?勇者。」
仲間からの茶々がうるさくて、答えが出せない。
「…だめ、か。仕方が無いか。ここに来るまでずっと悪だと思ってきた魔王に好きだと言われても信じられるはずがないな。さあ、勇者よ、我にその聖剣を突き刺すといい。」
1歩、彼女が近づいた瞬間、まばゆい光が彼女の足元に現れる。
「!?なんだ、これは!?」
困惑している彼女を抱きしめると足元の感覚がなくなり、仲間の声が聞こえた気がした。