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散文置場。

煙草

作者: 日音風

 未開封の箱を手に取る。

 手になじむセロハンにくるまれた臙脂色したソフトパッケージの煙草の箱。

 くるりと手首をかえし一周させ上部のセロハンをはがし、向かって右側の銀紙をセンターの紙まで破かぬように丁寧にすばやくはぎとりセロハンと銀紙を手の中ににぎったまま左側の封されたままの銀紙の上を伸ばした中指と人差し指とで軽く、とんとんと叩く。

 みつちりと包まれていた開封したての煙草の箱は、あけられた右側の穴からあたまを持ちあげるように顔をだしてくる。

 その一本を指先でつまみ、鼻先でかすかに匂う開けたての葉のかおりを鼻孔いっぱいに吸い込み愉しんでからくちにくわえる。

 くしゃりと手にしていたセロハンと銀紙を握りつぶして屑籠に放り投げ、その手で使い捨てライターをかちりと鳴らし灯した火をくわえた紙に巻かれた煙草の先に。箱を机に置いた手で風もなくとも火を覆い、そっと近づけゆつくりと吸いこむ。

 ライターを机に置いた箱に重ね、利き手でくわえた煙草を指に挟む。

 息をとめるくらいゆつくりと深く吸いこんだ煙りを、ほうと、さらにゆつくりと吐きだして指先でくゆる煙草の先から天へとまつすぐに昇り空に融けゆく紫煙を眺める。

 弛緩したからだに染みこんでゆく愛しい煙り。


 ああ。

 自分は煙草飲みなのだな、としみじみと思う。


 くすぶる火に燃えゆく葉、たゆたう煙り。

 肺におとした煙を細く長く吐きだして灰を受け皿に落とす。

 そうして数回も繰り返すと名残惜しいままにフィルタぎりぎりまで吸い尽くして終える。

 最後の煙りを吐きだしながら灰皿に押し付け火を揉み消す。 たちのぼる紫煙も途切れ、漂っていた煙りは霧散して香りを残して消えていく。




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