幸せの『青い鳥』
主人公の過去の話がちょくちょく出てきます。
次のところで名前出します。
――知らなくてもよいことだと。
(何で……私の考えてること……)
そのままじっと見ていると、何もなかったように微笑み私の頭を撫でたその手はそっと離れていった。
だけどもその微笑みは何だか酷く傷付いたような悲しげなもので。
――まただ。
自分がこの目の前にいる優しい人をこんな顔にさせてしまった。
胸が締め付けられる感覚と共に思い出すのはあの人のこと。
靄がかかって顔の輪郭さえも朧気にしか覚えていない、あの人。
名前も。
顔も。
言葉も。
声も。
…思い出さえも。
思い出すことのできない、あの人のことが。
* * *
「……大丈夫か? 顔色が……」
はっとして見やれば、どうも長いこと考えに浸っていたらしい。
優しい声に、いつの間にか彼が部屋に戻ってきたことを知る。
深紅の瞳が心配そうに顔を覗き込んでいて。
こんな風に自分を責めれば責める程に周りが辛くなると。
理解しているのに。
止めることができない。
「大丈夫です」そう言った顔はちゃんと笑うことができていただろうか。
心配をこれ以上掛けられないと部屋から出て行ってもらう。
その去っていく背中を見ながら思う。
私はとても非道い女だ。
親切にしてくれた人や私を非道くないと言ってくれる大切な人を。
私を抱き締め、愛を囁いてくれる愛する人を。
私がとても愛した人を。
私が手にした喜びや怒り、哀しみの感情でさえも。
――私は……思い出すことが出来ない。
私はそんな私でもいいとたくさんの愛を与えてくれた両親の顔さえもう忘れてしまった。
唯一残っているのは、「幸せになりなさい」という言葉だけ。
だけれども私にはまるで物語の一頁のようにしか思い出すことができない。
私の思い出はいつも靄がかかった人々が悲しい顔をしていることだけしかない。
まるで誰かの思い出を見ているような……。
これは私の思い出だと否定することさえ出来ない。
――怒りを覚えた。
まるで、お前は関係無いんだとそう言われたみたいで。
――悔しかった。
まるで、私が偽物みたいで。
――悲しかった。
まるで私が生きてる意味が解らなくて。
大好きなあの人達に何一つやってあげられない無力さに歯痒い思いは募るばかり。
嘘でもいいからあの愛する人達に『貴方を愛し続けます。これからもずっと』そんなことを言えたのなら、今私は幸せだったのかな……?
抑えきれない涙が大きい染みをシーツに残していく。
堪えた筈の嗚咽は隠しきれないものとなって。
――怒って欲しかった。
お前は部外者なんかじゃないと。
――言って欲しかった。
お前は偽物なんかじゃないと。
――扱って欲しかった。
ただ一人の人間として。
自分の子として。
――認めて欲しかった。
こんな私でも生きていていいと。
ずっと……愛してくれると。
「……ずっと……ずっと、愛すから……泣くな!!」
突然抱き締められて、その腕の温もりは自分が跳ね退けてきたものだというのに。
麻薬のように私はもうその禁断症状を抑え込むことが出来くて。
――泣いた。
大声をあげて。
前回、黒髪の彼が部屋から出て行った筈なのに…と思っている方へ。
これは追記ですのであしからず。
次の更新早めにやります。
3.1 修正致しました。