扱いには、十分注意が必要です。
どうにか予告通り……?
遅くなってごめんなさい。
(……え、何この状況)
梨緒はもうすでに自分の犯してしまった行為の軽々しさを、先刻までの自分自身を呪った。
先程の雰囲気とは違い、部屋には暗雲が立ち込めたような……そんな居心地の悪さがあった。
その中心にいるのが、長い金色の前髪が影になっていて表情を知ることの出来ない丙と、彼自身が瘴気のようだと思わざるを得ない漆黒の髪を怒りに逆立てている乙であることは言うまでもない。
……言葉のないこの間が一番辛い。
針の筵の上に座らされているかのようなこのいたたまれなさ。
誰も一言も発していないのに、責められているのがはっきりと伝わってくる。
寧ろ、こちらから「ごめんなさい」と言いたくなる……そんな空気。
頼ろうと思って見上げれば、戊はどこか放心状態で揺さぶってもその深い海のような蒼い瞳は焦点が合わず、梨緒の助けにはならないようだった。
延々と流れ出る瘴気のようなどす黒い気が目に見える。
このままだと窒息しそうだ。
「……ごめんなさいっ」
よく分からないが、ここはひとまず謝っておこう! うん、それがいい! そうしよう!
……という訳で謝ってみたものの、雰囲気が良くなるどころか逆に悪くなっているとしか考えられない。
(さ、酸素!! 切に今、酸素が一番欲しい!)
そんなことを考えている梨緒の耳に届いたのは、地を這うように果てしなく低い乙の声だった。
「……無論、何が悪くて謝っているのか……理解しているのであろうな?」
その言葉にビクッと肩を震わせると、ますます彼の発する瘴気が濃くなった……気がする。
「――つまり、梨緒は『男』という生き物を全く理解していない!!」
そう叫んだ乙の隣に立ち、頷く丙。
一体いつまで……と思うぐらい長い説教に心底うんざりしながらも、別に二人が自分のことを嫌いじゃない、ということが伝わって心のどこかで喜んでいる自分がいた。
目を閉じて『男』とは何ぞかを語る乙に、内心(お父さんみたい……)と思ってクスクス笑っていると、片眉を上げてこちらを見返してくるその真紅の瞳に不覚にもときめきを覚えつつ、その感情を拭い去るようにして同じく不信の目を向けてきた丙に、
――ちゅっ。
と、先程の数倍の勢いでキスをしてやった。
そして腰を抜かして自分の頬に手を当てる彼に「……許して?」と上目遣いで見上げれば、もう彼女に敵など存在しないに等しいのであった。
無表情のまま物凄い勢いで頷く彼に頭を撫でて立ち上がると、呆然としている乙に近付き、その愛らしい顔を横に倒し、見上げるようにしてこう言った。
「本当にごめんなさい……乙も、する?」
――かくして、どうにかなった……のか分からない状況に艶やかに微笑む少女と、どこか虚ろな目をした三人の短いようで長かった一日は、幕を閉じたのであった。




