誘拐、そして逃亡。
またまた始めた新連載。
更新遅いですが、頑張りますので…!!
「何処にもいないぞ!」
「そんなことある筈がない! ここに来たのは確かなんだから!」
「何処に消えたんだ?」
男達の怒声とも喜声とも取れる声が聞こえ、少女は咄嗟に溢れ出る涙を拭い、冷えきった白く細い繊細な手で、赤くなった耳を塞ぐ。
ちっぽけな少女が逃げ切れる訳がない。
これはゲームだともいうように恐怖は少女に刻一刻と近付いていた。
此処は、滅多に人が来ない……昔、神隠しが頻繁におこっていた、という山の中。
村に、人に嫌われ、ただでさえ手入れのなされていない草木がすっかり日の光を遮って常に薄暗く、湿った風を纏う山。
……それなのに、今は夕暮れ。
足元さえ十分に見えない上に、肌を滑る風は凍えるほどに冷たかった。
――家に、帰りたい。
そう思った瞬間、今まで我慢してきた涙がボロッと溢れた。
「……帰りたいよぉ」
ポツリと漏れた本音は嗚咽を我慢出来なくて。
少女の嗚咽が静かな山中に木霊する。
「……見ーつけた」
ガサガサと草を掻き分けて現れた男に更に涙が小さな悲鳴と共に溢れた。
「ひぃっ!!」
駄目だと解っているのに、こんなことをすれば余計に相手を喜ばせるだけだと理解している、のに。
涙も、震えも、口が動くことさえ、自分ではもうどうしようも無くて。
「いやっ! 嫌なの! 家にかえして!」
そんなことを人拐い(こいつら)が聞いてくれるわけ、ないのに。
男はニヤニヤしながら少女を舐め回すように見る。
その視線は、貪欲と狂気に溢れていた。
「あいつらが来る前に、俺が頂いちまおう。はぁ……こんな上玉見たことねぇ。美味そうだな……」
(大人数で凌辱されるなんて考えたくもないけど、こいつの玩具になるなんて真平御免よ!!)
男が舌舐めずりして少女に手を伸ばすのと、少女が後ろの崖っぷちから身体を滑らせるのはほぼ同時だった。
「……っ、いやぁーー!!!」
男はただ黙って少女が奈落の底へと堕ちていくのを見ていることしかできなかった。
* * *
「……い、痛い」
(――ここは、何処?)
先程の場所から随分と落ちたらしい。
鈍い痛みを持つ首を持ち上げて辺りを見渡せば先程よりも暗く、大木の根元に自分が居ること位しか分からなかった。
ジメジメとした、湿地に居るようなひんやりとした風が気味が悪い。
鳥肌が立った。
(早くここから出なくては……)
――奴等が来てしまう。
だが、そうは思うものの足が上手く言うことを聞かず、何とももどかしい。
「誰か! 誰かいませんか!」
そう叫んでから気付く。
ここは人が滅多に来なくて、今の自分が追われているということに。
(今の声を聞いて、奴等が来てしまったら……)
偶然とはいえ怪我をしてまで逃げた意味がない。
しかも、これで捕まってしまったらもう逃げることは出来ない。
こんな身体では逃げる所か抵抗することすら無理だろう。
今更、何としてでも逃げ切って故郷に帰ろうなんて気分にはならなかった。
ただ、奴等だけには捕まりたくない、捕まりモノとして扱われるくらいなら死んだ方がましだ。
痛みを堪えて手を伸ばす。
(……少しでも、少しだけでも遠くへ行くことが出来るならば……彼奴等を撒けるかもしれない)
良くも悪くもここは真っ暗で何も見えないのだから。
ガサッ
音のほうを見て彼女は笑う。
なんて私は神に嫌われているのだろうと。
一体、何処まで堕ちればいいのだろうと。
茂みの中からやって来た獣の光る眼が少女の恐怖を煽る。
涙が浮かんだ。
どのみち死ぬ運命だったのだ。
そう諦めた、筈だったのに。
伸ばした手は力なく落ち、疲労と眠気がここに来て一片に彼女に襲い掛かる。
(……こんなところで死んでしまうのかしら)
もっと綺麗な場所で食べてくれたら嬉しいのだけれど。
母様、父様ごめんなさい――。
微かな意識の中で愛しい人の顔が浮かんでは消えていく。
閉じた瞳に浮かぶ涙を黒獣が舐めたことなんて、彼女は知るよしもなく。
ただ、深い眠りに飲まれていった。
3.1 修正致しました。