夕焼け色のイラスト
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どうしても決まらない。
色を付けるのが仕事なのに、あたしの染まるべき色が、全く決まらない。
あたしの彼は、イラストレーター。
いつも仕事場で、真剣な眼差しを向けてくれる。
……、なのに、あたしの周りには、いつも他の女……!
しかも彼は、時々あたしには目もくれずにそいつらにちょっかいを出すことがある。
心の底から不愉快だ。
……、そうか、だからあたし、こんなに赤いのか……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
彼が仕事にやって来た。
あたしはこの、アトリエの扉が開く瞬間が大好きだ。
それまでは、他の女達と一緒くたに、自分の色を少しも出すこと無く、薄暗くて狭いこの、檻のような空間でおとなしくしているしかなかったあたしが、彼と手と手を取り合うことで、あたしの色を存分に出すことが出来るのだ。
だからこそ、他の女が鬱陶しくて堪らない。
この世に女なんて、あたしだけでいいのに……!
邪魔だよ!
彼のイラストは、夕焼けがバックなことが多い。
あたしの大好きな【赤】。
この人は、赤の使い方がとても上手い。
いつもいつも、見ごたえのある様々な【赤】を見せてくれる。
そうか、だからあたし、この人が大好きなんだ……。
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檻を解放して、彼があたし達に日の光を与えてくれる。
嗚呼、まるでウイグル獄長の気まぐれでしか日の光を拝めない【監獄要塞カサンドラ】みたいだ……。
でもだからこそ、彼と会えるのがとても嬉しい。
狂っていると言われようがなんだろうが、それがあたしの気持ちなのだからしかたがない。
あたし達に向かって、彼が手を差し延べてくれる。
《さあ、お願い、あたしと手を繋いで!
この女達の中からあたしを選んで!》
いつもいつも空振りに終わるこの想い。
彼がいつも最初にちょっかいを出すのは、黒い女だ。
こんな女、埋めてしまいたい、沈めてしまいたい、燃やしてしまいたい。
彼の前から消していまいたい。
でも、それをやってしまうと、彼が仕事を出来なくなることも、あたしにそれを実行する能力が無いことも、あたしはちゃんと知っている。
悔しいが、放ってしまうより他に無い。
精神衛生上これほど宜しく無い状況も無いだろうが、これまた悔しいことに、次第に慣れてしまって来た自分がそこに居たりする。
それがまた、今までとは別な苛々を与えてくれる。
……、そうか、だからあたし、こんなに純粋な赤なんだ……。
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イラストは、8割方完成している。
あとは、彼のトレードマークとも言うべき夕焼け色にバックを染めるだけ。
いよいよやって来るあたしの出番。
《あーん、長かったよ、待ちわびたよ。
さあ早くあたしの手を取って!
今あたし、こんなに鮮やかに赤くなってるよ!》
彼があたしに向かって、手を伸ばす。
あたしも必死にそれに答える。
そして二人の手が、今がっちりと……、繋がった。
イラストは、見る見るうちに、夕焼け色に染まっていく。あたしは彼と共に、喜びに身を躍らせながら、骨身を削って夕焼け色に染めていく。
そう、まさに【骨身を削って】。
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「今までお疲れ様。
君には世話になったね。
今日までほんとにありがとう」
仕事を終えたあたしに彼が労いの言葉を掛けてくれる。
そして彼はあたしをいつもの檻ではなく……、
燃えるゴミ用の屑篭へと、捨てた。
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あたしの名前は、赤峰夕香。
イラストレーター見習いだ。
赤い色の使い方がとても上手い、金村勇作という先生の家に住み込みで修行させてもらっている。
先生の絵を見て一目惚れし、迷惑を承知で弟子にしてくれと頼み込むつもりで、そう、【うんと言うまで帰らんぞ!】位の覚悟で挑んだのに、拍子抜けするぐらいあっさり許してくれた。
それも、住み込みで。
初めて先生のアトリエを訪ねたとき、あたしが初対面な、間違い無く初対面だった筈の先生に対して抱いていた、なにか大分前から恋愛感情を抱いていたかのような既視感、微妙にデジャビューな感覚は間違いでは無いことに確信をもった。
あたしはついこの前までここで使われてた【赤鉛筆】だったんだ。
そして、あたしが一目惚れした絵。
あれは……、
あたしが彼とやった最後の仕事、彼と描いた最後の作品だったんだ。
三年後、あたしは彼と同じ時間を歩むこととなった。
END
主が特別な感情を持って扱って来た物品には、それに応じた感情が宿ると言います(^O^)
そして、その感情は、物品としての役割を終えたとき、同じ感情を持っている人間に乗り移り、成就されるとも言われていますo(^-^)o
このお話は、それがベースとなっています
\(^ー^)/
ではでは(^o^)/