第3話。恋のパフェと、100年の味噌汁。
第3話:恋のパフェと、100年前の味噌汁
拓海が内定を獲得し、ついに訪れた隣人の女子大生・サクラとの初デート。
場所は、商店街にあるレトロでお洒落な喫茶店だ。
緊張でガチガチの拓海の前に、なぜかウェイターの制服を着た時次郎がドヤ顔で現れる。
「お待たせしました、特製パフェだよ拓海。サクラちゃんとの距離を縮める『恋の特効薬(マヨネーズ隠し味)』入りさ!」
「余計なもの入れるな! っていうか何でバイトしてんだよ!」
冷や汗をかく拓海をよそに、
サクラは
「時さん、制服似合ってますね!」
とクスクス笑っている。
デートは順調に進むかに思われたが、
サクラが
「実は私、来月から海外留学を考えていて……」
と切り出した瞬間、拓海の頭は真っ白になった。
(留学……? じゃあ、もう会えなくなるのか……?)
ショックで言葉を失う拓海。
その時、背後から時次郎の激しい腹の虫の音が響く。
ギルルルルルッ!!
「あ、ヤバ……パフェのつまみ食いじゃ足りな……」
――ピシィィィン。
最悪のタイミングで時間が止まった。
サクラは寂しげな表情のままフリーズしている。
「おい時さん! 頼むから今すぐ解除してくれ!」
「無理だよ、僕の胃袋は今、完全なる宇宙だ……。でも拓海、チャンスじゃない? 止まった時間の中で、彼女に本音を言っちゃいなよ」
時次郎はカチコチに固まりながら、ウインクをしてみせる。
拓海はフリーズしたサクラの顔を見つめた。
いつも笑顔の彼女が、今はどこか不安そうな表情をしている。
「……ずるいよな、時さん。時間が止まってないと、本音も言えないなんて」
拓海は厨房へ走り、店特製のオムライス(大盛り)を分捕ってくると、時次郎の口へスプーンで力いっぱい押し込んだ。
「お前のせいで、俺はもう立ち止まらないって決めたんだ!」
ケチャップライスが胃に落ちた瞬間、世界が動き出す。
拓海はサクラの目を真っ直ぐに見つめ、力強く言った。
「留学、応援するよ! サクラさんがどこに行っても、俺たちの時間は繋がってるから。……だから、帰ってきたら、また一緒にパフェ食べよう!」
サクラは一瞬驚いた顔をしたが、やがて今日一番の満面の笑みを浮かべた。
「うん! 約束ね、拓海くん!」
後ろでオムライスをモグモグ食べながら、
「青春だねぇ」
と涙を拭う時次郎。
拓海のツッコミが喫茶店に響き渡った。
「店のもん、勝手に食ってんじゃねーーーー!支払い、誰がすんだよ…」
ある夜、拓海は実家の物置で、曾祖父・拓蔵の古い日記を見つける。
そこには、大正時代の時計職人だった拓蔵と、時次郎の出会いが記されていた。
100年前、時次郎は未来からやってきた「迷子の調律師」だった。
能力の代償でいつも飢え死にしかけていた時次郎を、拓蔵は「おかしな奴だ」と笑いながら、毎日温かい白米と味噌汁でお腹いっぱいに満たしてくれたという。
日記の最後のページには、こう書かれていた。
『時次郎が時計に眠る日が来た。奴は、俺の血を引く未来の子孫が、人生のネジを巻けずに立ち止まった時、再び現れると言う。友よ、未来の俺の家族を、どうか笑わせてやってくれ』
ベランダで日記を読み終えた拓海の横に、時次郎がそっと座った。
いつになく真面目な顔をしている。
「拓蔵はさ、本当に不器用な男でね。でも、彼が作ってくれたご飯は、今のどんな高級料理よりも美味しかったんだ」
「……だから、俺が就活で病んでた時、あんなドタバタ乱入してきたわけ?」
「ま、そういうこと。約束だからね。でもさ、拓海」
時次郎は星空を見上げながら、ポツリと言った。
「僕は拓蔵の代わりに君を助けに来たつもりだったけど、違ったな。僕の錆びついた時間を、もう一度動かしてくれたのは、君のご飯と、君の全力のツッコミだよ。感謝してる、相棒」
拓海は少し照れくさそうに鼻をこすり、時次郎の肩を小突いた。
「何しんみりしてんだよ。ほら、お礼に今日は俺が味噌汁作ってやるよ」
「えっ、マジ!? じゃあマヨネーズ多めで!」
「味噌汁にマヨネーズ入れるな!!」
100年の時を超えた絆が、温かい湯気とともに夜空に溶けていった。




