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序章『記憶の断片』
凹凸のない無機質な部屋。
白とも灰ともつかない空間に、漂うのは濃密な死の匂い。
生者は――ふたり。
けれど、そう遠からずどちらか"ひとり"になる。
それはもはや、避けようのない必然だった。
「×××にとって、恐怖とは何だ」
「………」
恐怖。
その感情を最後に抱いたのは、一体いつのことだったろうか。
そもそも、そんな感情が自分の中に存在していたのかすら、今となっては定かではない。
×××にとって恐怖とは、ある種の概念に過ぎなかった。
生き延びるために便宜上定義された、古びた反応様式の名残。
危険に晒された生物が、本能的に示す自然な情動。
心拍数の増加。
痙攣。
硬直。
発汗。
それは多くの動物に見られる、極めて普遍的な反応らしい。
だが、それらはあくまで外から観測できる対外的な反応に過ぎない。
内側に秘めたる“本物の恐怖”とは、きっとそんな単純なものではないはずだ。
ならば――。
記憶も、自我も、存在の輪郭さえ曖昧な私が、今この胸の奥に抱く違和感は何なのか。
死への怯えか。
それとも、もっと深く、もっと根源的な――言葉にできない“ナニカ”なのか。
その問いに、私は答えられなかった。
ゆっくりと銃口を向け、指先を引き金にかける。
その瞬間、誰かが静かに呟いた。
「合格――」
ばんっ。
ぱんっぱんっ。
記憶はここで途切れている。
20XX.04.30




