5.悪意ある食卓と見える嘘①
ジェフ・ラザフォード→年配の男。傲慢。
リサ・ラザフォード→ジェフの妻。
メーガン→ジェフの秘書。ジェフの不倫相手。
イブ・ラザフォード→ジェフの娘。
ハリー・ラザフォード→イブの夫。娘婿。
アレックス・ブライト→アレク、端正な顔立ちに完璧なエスコートを見せる色男。
席が整えられ、ジェフ家族と秘書のテーブルにブリジットとアレクが加わった。
ジェフは先ほどの出来事を思い出し、苛立たしげに呟いた。
「せっかくの白ワインがケチがついたようにいまいちになってしまった。あの若者め…確かあの顔の平凡顔の系統はウーズリー家に違いない。あとで調べて罰を与えなくてわ…」
リサは話を断ち切るように、メニュー表を開いた。
「ワインに味の違いがあるのね。そういえばこちらのお店は希少で高級な赤ワインを取り扱っていると評判らしいわ」
「なになに…」
ジェフはメニュー表を覗き込み店員を呼び出した。「では、この赤を3本」
ブリジットの位置からは何を頼んだかはしらないがメニューの一番上を指差しているのはわかった。
お高そうだ。
値段を知ったら飲めないかも。ワイン初心者がいきなり高級ワインか。今後のハードル上がりすぎだわ。
初めてのワインが高級品。ブリジットは嬉しいような、怖いような気分だった。
ワインを頼まれた店員もびっくりしている。
一度に三本出るランクではないのかもしれない。
料理が運ばれてきた。
全員トマトソースのパスタだった。上にはたっぷりと削られたチーズがかかっている。
「ここは生パスタが最高なんだ。モチモチとした食感に具材が絡んで人気な店だ」
アレクはレストランの良さを説明した。
リサはパルメザンの塊を削り、順に回した。
「こちら、パルメザンチーズも絶品だそうですの。ぜひたっぷりかけてくださいね」
自分で更に追いチーズができるようだ。
ジェフはたっぷりチーズかかかったパスタの上からさらにパルメザンをかけてチーズが香りたつ。
「もっとおいしくなるぞ」
ブリジットはすでにパルメザンがかかっているのでたさなかった。娘のイブも塊をけずりたっぷりと追いチーズをしていた。食事の好みは家族全員あっている。
赤ワインも運ばれてきた。
今回は店員ではなく、自分たちでワインを注ぐことになった。
その際、ジェフのグラスが汚れていたので「おいっ」とリサに怒鳴りリサは慌てたようにナプキンでグラスを拭いていた。
拭いたグラスはジェフでなくリサ自身が使うみたいだ。元々あったリサのグラスはジェフに提供されていた。
やだな。自分のこと何もしないくせに態度だけはでかいおっさんって。わたしは思いやりのある人と結婚したいわ。
ブリジットは呆れた目でジェフを見た。
ブリジットの視線に気づいたのかリサは恥ずかしそうに下を向いた。
赤ワインのボトルは三本。
娘家族の前に一本。
ジェフ夫妻と秘書の前に一本。
私たちの前に一本。
人家族一本の計算のようだ。
グラスワインが行き渡り、各々がワインをグラスに入れた。
「では、改めて乾杯」
ジェフがグラスを掲げ、短く乾杯の挨拶をすると、そのまま一気に飲み干した。
「うまい、この赤はうまい」
ジェフはフォークでパスタを巻き、口に運ぶ。
続けてワインを一口。
「たまらん。最高の組み合わせだ」
「わたしにはワインのいいわるいはわからないわ」
リサがワインをほんの一口程度口に含み困惑げに答える。
ジェフがグラスに赤ワインを注ぐ。
「お前は味の良さがわからないからな。うまいな、メーガン」
ジェフはバカにしたようにリサを鼻で笑いながらグビリとワインを飲みメーガンに顔を向ける。
「ええ、ほんと。至高の味ですわ」
「ついつい飲み進めてしまう味だ。全く素晴らしい」
ジェフは上機嫌にワインを飲みつつフ娘婿の皿を見た。
「ハリー、お前は相変わらず食が細いな」
「そ、そんなことは——」
「もっと食え。お前みたいな若造はひょろいやつはここぞのときに役に立たん」
ハリーの手が止まり、愛想笑いを返す。
ジェフはフォークでパスタを巻き娘のイブに言葉をかけた。
「イブは食い過ぎだ。肉付きが良すぎる。イブとハリーを足して二つで割れたらちょうどよかったな」
ジェフはイブとハリーをバカにする。
「いや待てよ。うちの家系にハリーのようなひ弱な血が入ったら大変だ」
ハリーの表情がわずかに固まる。
秘書のメーガンが酔っ払ったようにジェフにしなだれかかる。
「でもジェフ様の血が入ってるからジェフ様のような勇敢な子が生まれますよ」
「はは、確かにそうだな。女でもメーガンのように気の利いた女性ならなお良い」
リサの手が止まる。
ジェフは気づかず続ける。
「メーガンは仕事もできるし気も利くし男を選ぶセンスがいいからな」
「いえ、そんな……」
言いながらメーガンはジェフのグラスにワインを注いだ。
リサは微笑んでいるが、その笑顔は固い。
ブリジットの胸がざわりとした。
冷え切った空気を変えるようにアレクが口を挟む。
「そういえばジェフ殿は最近すばらしい芸術品を手に入れたとか」
「大したことない。ただあまりの高さに誰も手が出せなかっただけだ」
「素晴らしい品だからジェフ様の手元に集まったのかもしれませんね」
アレクが巧みに本音とジェフの機嫌を上げることを口にする。
ジェフもまんざらでもないのか、いやらしく笑う。
――30分後、ジェフが完璧に酔いが回り気分良さそうに笑っている。
「あなた飲み過ぎよ」
「パパの自慢話ばかり。他の話が聞きたいわ」
イブがうんざりしたように言う。
「……なら、ハリー。お前はどうだ。何か話はあるのか?」
ジェフが鼻で笑う。
ハリーは一瞬ためらい、それから口を開いた。
「…飲み過ぎではないかと」
「なんだと?」
ジェフがゆっくり顔を上げる。
「これぐらいわしは余裕だ。お前みたいな青二歳とは違って‥」
ジェフがハリーをバカにして、ハリーに近づことしたが急に呼吸が荒くなった。
そして額に汗が浮かびはじめた。
「どうしました?」
リサが異変に気付き身を乗り出す。
ジェフは喉を押さえた。
「……苦し……」
椅子が倒れジェフの体が床に崩れ落ちた。
店内が悲鳴が上がる。
「あなた!?」リサが叫んだ。
イブが声にならない悲鳴をあげた。
メーガンが駆け寄る。テーブルに当たり、グラスが床に転がり、赤い液体が広がった。
誰かが言った。
「ワイン…ワインに毒が入っているに違いない」
ざわめきが広がる。
ブリジットはいきなりの展開に体を固まらせ椅子から立ち上がることさえできず硬直した。




