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1.汚されたドレスと見える嘘


「ねえ、ブリジット」

 友人エマの声は、いつもより少しだけ硬かった。今日の茶会に呼ばれたので、彼女が家の玄関で迎えた際声をかけられた。

「あなたは私の一番の友達なの。だからこの茶会であなたを私の一番の親友と紹介したいの」

 彼女の言葉に嘘はない。なぜ嘘がないかわかるかって、私は人が嘘をついたとき、その“嘘の部分だけ”が、まるで文字のように浮かび上がって見える。


私の家は血筋だけは古く由緒正しい家柄だ。名門貴族の屋敷だ。なので、スキルが持ちが多く魔法が得意だ。私だけ魔法がユニークスキルで嘘を見抜く能力。

貴族とこの能力は最悪の組み合わせだ。

貴族は嘘ばかり。友人のエマは生粋の貴族ではない、ひいおじいさんからの成り上がりだ。

なので、彼女の会話には嘘が少なく過ごしやすい。

ただたまに嘘をつく。

「いいわよ、こんな変わった私を親友なんていってくれるのはあなただけだもの」

「そんなブリジットは変わってないわ。周りが見る目がおかしいのよ」

その言葉に、文字が浮かぶ。

[変わってない]


変わってると思ってるのね。


 私はカップを静かにソーサーへ戻し嘆息した。

「いいわ、私があなたと友達と紹介したらあなたを見る目が変わってあなたも結婚相手候補が増えるものね」

「わたしそんなつもりじゃないの。あなたの良さがもっと伝えたいの」

文字が浮かぶ。

[そんなつもりじゃない]


打算が少し入ってるか。まあ仕方ないか、私の家は名門だし、エマは商人の家でもある、名門のつながりがあることを風潮したいわよね。

「いいわよ。わたしもあなだが結婚相手増やすために紹介したい思ってないから。ぜひこんなわたしだけどあなたの親友と紹介して」

私はにっこりと笑いすこしだけ嫌味をいってしまった。私はエマのことかなり気に入ってるみたいだ。そして打算があることに少し傷ついているみたいだ。


私が嘘をついても嘘は文字で見えない。

だからたまに自分も誤解する。今行ったことは嘘なのか本当なのか。

エマは少し顔を顰める。

「もう、ブリジットはわかってないんだから」


何がわかっていないんだろう。ちゃんと打算が関与していることはわかっている。

でも、エマはわかっていないという。どういうこと。


玄関で話し込んでいたせいか、庭園にいた令嬢がエマを呼びに来た。

「エマ、なにしてるの。早くみんな待ってるわよ」

「リリー、わかった、すぐ行く」


エマが庭園に向かおうと背中を向けた瞬間、気づいてしまった。指差して恐る恐る聞く。

「それ……どうしたの」


 淡い色のドレス。その背中に、べったりと濃い染みが広がっている。長い金髪で隠れている箇所もあるが、ひどいしみだ。慌ててメイドが鏡を持ってきてシミを確認した。

「分からない。さっきまで何ともなかったのに……」

今にも泣きそうな顔。それもそうだ、ドレスの汚れはドレスの汚れさえも落とせないほど家が困窮してる、もしくは私は鈍感の馬鹿ですと言っているようなもので失笑もののミスだ。

今回はまだ誰も気づいてない。急いで着替えをお色直ししたふうにすれば防げる。

ブリジットは着替えてくるようにエマに促そうとした。

「大丈夫、エマ。すぐに——」

「……その人よ」

リリーの声が、遮った。

「え?」

「さっき一番近くにいたのは、彼女ですわ。彼女しか考えられないわ」

その言葉に、文字が浮かぶ。

[彼女しか考えられない]

(嘘……)

「違うわ。ブリジットはそんなことしない」

エマの声だ。

嘘でない。信じてくれている。

「ですが、事実は事実ですもの」リリーはやわらかく微笑む。

「…私ではない」

「では着替えを手伝った侍女ではなくて?」リリーがつまらなそうに嘆息する。

「そ、そんな……!」

声を上げたのは、鏡を持ってきてくれたエマのお気に入りの侍女だ。

確か最近エマのボランティアと慈悲により孤児院から雇った侍女だ。

この話は美談として最近噂になっていた。

侍女が声を震わせながら叫ぶ。

「私は何もしておりません!」

声が浮かぶ。

[何も]

嘘。


「そういえば、このいえは毛色の違う使用人を雇い始めたとききました。嫌だわ、毛色の違う使用人は手が早いものね」

リリーがつぶやく。


その言葉は嘘ではない。



「……本当に、何もしてないの?」

侍女に問いかける。

「……っ、私は……」侍女の視線が揺れる。

「……ごめんなさい」

「着替えのとき、少しだけ……ドレスに触れてしまって……でも汚してはいないです」


嘘でない。真実だ。


「違う」

私は確信を持ってはっきりと言う。

「この人じゃない」

「何を言ってらっしゃるのですか。毛色の違うものは信用ならないわ。エマ、友人としてアドバイスよ。どちらにしても縁がなかったとして辞めていただいたら」

リリーが不愉快そうな声でエマに視線をむける。

声が浮かぶ。

[友人として]

嘘だ。


「アドバイスは一理ある。でも、あなたが決めることではない。リリー様、あなたも私と同じ由緒正しい家柄でたしか血筋至上主義のはず。そんなあなたがエマと仲良くしているなんて不自然だわ。あなたが犯人なんじゃないかしら」

エマが不安そうにブリジットを見る。


一瞬。ほんの一瞬、彼女の顔に喜色がうかんだあと

無の表情となった。

「……何のことでしょう?私はエマの素晴らしい行いに感動して友達になったのですよ。エマ、私達は友達ですわよね」

その言葉に、いくつもの文字が浮かぶ。

[エマの素晴らしい行い][感動][友達]

嘘である。

一歩、踏み出す。

「エマの行いがあなたの勘にさわったのですね」

視線をエマのドレスへむける。

(この汚れ……)

ずっと引っかかっていた。

「このよごれはただの汚れじゃない」

ゆっくりと言う。

「“押し付けた”形。明確な悪意」

空気が変わる。

「あなたの手」

白い手袋をしている。

「その手袋を、外していただけますか」

空気が、ぴんと張り詰める。

リリーは一瞬だけ私を見たあと、ふっと笑った。

「……どうして?」

余裕のある声。

言葉が浮かぶ。

[どうして]


「理由が分からないなら、なおさら外せるはずです」

一歩、近づく。

「手袋を外すことに、問題はないでしょう?」

沈黙。

視線がぶつかる。

数秒。

「……くだらない」

また一歩踏み込む。

「外せないなら」


「こちらで失礼します」

一歩、さらに踏み込む。


 距離が、ほとんどなくなる。私はその手首を掴んだ。

「なっ……!」そのまま、手袋を引く。

するり、と外れる。 露わになった指先。 ——赤い染み。はっきりと。

リリーは、小さく息を吐いた。


「……本当に、嫌な方。善意ごっこが癇に障っただけですわ」

負けを認めた顔だった。

沈黙のあと。

ぽつりと、呟く。

「……興醒めです。私は帰らしていただきます。私、ブリジットさまとは親友になれそうですわ」

そう言い残し、リリーはエマを一切見ずブリジットを満足そうに視界にとらえて去っていった。

事件は、終わった。

急いでエマは着替えてことなきを得た。


帰り際。他の令嬢がみんな去ったあとエマがぎゅっと私の手を掴む。

「……ブリジット」

その声は、少し震えていた。

「私、ブリジットにわかってないっていったのは、打算だけでブリジットに親友って言ったんじゃない。打算もあるけど私、ブリジットのことがすっごくすっごく好きってことが伝わってないとおもったことよ。」

「それは…」

エマが嘆息する。

「でも、私並みにすきなブリジットのファンの人に私すごく嫌われたみたい」

私は、少しだけ笑った。


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