戦場を舞う女神と報われる献身
馬車の窓の外を流れる夜景を眺めながら、リヴィアはふと遠い目をした。
「カイル、あなたは不思議に思わない? 私がどうして、あんなにひどい振られ方をしてもなお、彼に執着し続けているのか」
リヴィアは、かつて森で迷い、不安と寒さに震えていた幼い日の自分を語った。
助けてくれたギルバート。その瞬間に受け取った愛を、一生かけて彼に返そうと決めたこと。
「その優しさを、何倍にもして返したい。彼の人生から、不安や迷いをすべて取り除いてあげたい。……それが彼にとって、いつしか耐え難い重荷になっていたとも知らずにね」
カイルは静かに、しかし力強く答えた。
「リヴィア様の愛は、報われるべきものです。いつか、その重さをそのまま受け止める者が現れるでしょう」
馬車が前線の砦に到着したその瞬間、夜の静寂は魔物の咆哮によって切り裂かれた。
リヴィアの瞳からは先ほどまでの憂いは消え、冷徹なまでの知性が宿る。
「カイル、四秒後に左後方、三十度の角度から影の狼が跳ぶわ。三センチだけ上体を沈めて」
「了解」
「そのまま……今よ!」
カイルは、肉眼では捉えられない暗闇の空白へと、一寸の迷いもなく剣を突き出した。
魔物の喉笛を、彼の剣先が寸分狂わず貫く。
リヴィアの重すぎる愛が、戦場においては一人の負傷者も出さない完璧な無傷の勝利を紡ぎ出していく。
戦場から帰還し、公爵邸の私室に戻ると、リヴィアはカイルのために滋養スープを用意していた。
筋肉の疲労や体温から算出した、最適解としての食事だ。
「一滴も残さず飲みなさい。明日もまた、あなたの完璧な盾であり続けるために、しっかり私に管理されなさいね」
「御心のままに。あなたの配慮が、私の唯一の糧ですから」
リヴィアは満足そうに微笑みながら、カイルの襟元の乱れを直そうと手を伸ばした。
だが、その手首をカイルが優しく包み込む。
「リヴィア様。これ以上、私に尽くさないでください。あなたのお心遣いだけで、私は十分に満たされています」
カイルは彼女の手を自分の胸元へ引き寄せた。
「あなたがただ穏やかに微笑んでくださることこそが、私にとって何よりの報酬なのですから」
リヴィアは、自分の過剰なまでの配慮が、彼にとっては言葉にできないほどの宝物として受け取られていることを知り、胸の奥が熱くなるのを感じた。
完璧な主人と、その影に徹する騎士。
二人の呼吸を合わせる心地よい旋律が、静かな邸宅の中に響いていた。




