重すぎる愛は、やがて国を救う奇跡となる
「愛が重いんだよ、リヴィア」
目の前で長年思い続けていたギルバートが、そう吐き捨てるように言った。
リヴィアの視界は音を立てて真っ白に染まった。
幼い日から今日まで、呼吸をするように彼へと注いできた献身。
彼の好みを完璧に把握した服。
体調を案じた思いのこもった手紙。
行く手を照らそうと尽くしたあらゆる配慮。
それらすべてが、彼にとってはただの重荷に過ぎなかったのか。
十数年の歳月を積み上げた一途な情熱は、残酷な形容詞ひとつによって、無価値な瓦礫へと変えられてしまった。
食事が手付かずのまま下げられる日々が続き、リヴィアの頬は痛々しいほどに削げ、かつての輝きは失われていた。
公爵令嬢としての矜持さえ失いかけた彼女の前に、長年仕えるメイドは一枚の手鏡を突きつける。
「リヴィア様、鏡をご覧なさい。その死人のような顔のどこに、ギルバート様を繋ぎ止める魅力があるとお思いですか」
容赦なく髪を解き、鏡の中の無様な姿を直視させるメイドの言葉。
それは死に体だったリヴィアの芯に、どす黒く燃える火を灯した。
彼に拒絶されないために、二度と重いなどと言えないほどの完璧な女性に生まれ変わる。
絶望は一瞬にして、盲目的な決意へとすり替わった。
リヴィアは鏡を握りしめたまま、ガタリと椅子を蹴って立ち上がった。呆然とするメイドを尻目に、彼女はクローゼットから最も動きやすいドレスを引っ張り出し、髪を乱暴に一つに束ねる。
「悲しんでいる暇など、一秒もありませんわ。ギルバート様に重いと言われた私のこの情熱、行き場を失って腐らせるくらいなら、まずはこの屋敷の埃を絶滅させるエネルギーに転換して差し上げます!」
彼女は叫ぶなり、バケツと雑巾を掴んで廊下へ飛び出した。かつての死人のような姿はどこにもない。床を鏡面に磨き上げ、図書室の全蔵書を分類し直し、数ヶ月分の領地収支報告書を数分で精査していく。
「重すぎる愛が罪だと言うのなら、重すぎるほどの完璧さで彼を後悔させてやりましょう。見ていなさい、ギルバート様。あなたは今日、世界で一番惜しい女性を捨てたのですから!」
狂気にも似たバイタリティで突き進むリヴィアの背中を見送り、メイドは呆気にとられた後に深い溜息を漏らした。それは、後に世界を救うこととなる聖女の、あまりにも騒がしい再起の瞬間であった。




