報告書26-到着はすべての始まり
翌朝、三人で宿をチェックアウトした。
特別な出来事は何もなかった。
眠れたか眠れなかったかと聞かれたら、眠れなかったが無の境地にたどり着いたかもしれないというぐらいだろうか。
朝起きて、淡々と当たり前のように三人分の荷をまとめ、三人で朝食を取り、三人並んで宿を出た。
アイゼンマルクの北門前へ向かうとすでに乗合馬車が待っていた。
木製の大きな車体に、簡素な屋根。
人も荷もまとめて運ぶ、街道用の馬車だ。
「グラーフェンブルク経由になります。3人分で?」
商業ギルドの職員に3人分の料金を払い、行程のざっくりとした説明を聞きながら、俺達は馬車へ乗り込んだ。
横並びの長椅子が二列ある馬車だ。
進行方向に対して横を向いて座るタイプの馬車で大体15人ぐらいは座れるサイズだろうか。
そこに先客が数人いたが、まだ余裕はある。
「ここでいいか」
俺はそう言って、中央の席に腰を下ろす。
座った場所は特に深く考えたわけではないが、なんとなく真ん中のほうが揺れが少ないかもしれないと思ったぐらいだ。
椅子に腰を下ろして座り具合を確かめると、すぐに左右へ気配が来た。
エミーナが、何も言わず俺の右側へ。
リーネが、少し遅れて左側へ座った。
「……」
エミーナは背負い袋を足元に置き、数回座り直すと俺との間に隙間ができない位置に落ち着いた。
反対側ではリーネが膝の上に手を揃えてお行儀よく座っていた。馬車の揺れに合わせて体がこちらに傾くたび、ちらりと見上げてきて、何か安心したように目を細めていた。
馬車が動き出し、車輪が石畳を離れると街道へ出たのが分かった。
揺れはそれなりに強いが、不快ではない程度だ。
体感で1時間半ぐらいで設けられる休憩のたびに一度降り、体を伸ばして再び出発する。
その時も誰かが何かを言う事なく、同じ配置に戻る。
「そういえばずっと同じですね」
リーネがクスクスと小さく笑いながら言う。
「楽ですから」
それに対してエミーナが淡々と答えるのので俺も「そうだな」と乗っかっておいた。何度も言うが馬車にのって移動しているときの話題なんてこんなもんなのだ。
お昼が近づくと、簡単な休憩を兼ねて馬車が大きな広場に止まる。
乗合馬車に同行して移動している商人たちがここぞとばかりに商品を広げ、あっという間に簡易露店が数件並んだ。
中には本格的に火を炊いて旅人向けの軽食を売っている店もある。
「せっかくだし何か食べておくか」
俺はそう言って、温かい食事を売っている露店を見てみるとどうやら蒸したパンのようなものと、干し肉を温めて細かくほぐしたモノを売っているようだった。
今すぐに食べられなくても、あとで食べられるといえばこういうチョイスになるんだなと、関心しながらも無意識に「3人分ください」と注文をする。
そう言ってから、一瞬だけなにかが思考に引っかかったが、訂正するほどの違和感ではなかった。
蒸しパンと細かく割いた干し肉を盛り付けた皿を抱えてエミーナとリーネが座っているところへと向かい、水袋とともにエミーナへ渡すと、エミーナは自分の分を取ってリーネへと渡す。
「……お兄ちゃんそれで足りますか? 私の少し食べますか?」
リーネが遠慮がちに聞いてくるが問題はない。
「昼はこれくらいでいい」
エミーナも何も言わない。
だが干し肉を取り分けるとき、エミーナはリーネの分が少なくならないよう、さりげなく調整しているのが見えた。
なんとなく、女の子同士がこうやって気遣いをしてくれているのは嬉しいなと思いながら、蒸しパンにかじりついた。
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その後、馬車に揺られること3日目。
途中、夜になる前に小さな村や町に到着するたびに、馬車の周りで野営をする人や、町へと散っていく人がいる中、俺達は毎回宿に泊まっていた。
「屋根があるところで眠れる時に眠ったほうがいい」
そういう持論を展開しつつ特に旅費に困っているわけではないので、わざわざ眠りにくい馬車や地面で寝るよりもいいだろうと思い、毎回宿に泊まったのだった。
そして乗合馬車は北側の大きな街道が交差する中継点のグラーフェンブルクへと到着した。
石造りの建物が並び、街道が何本も集まっている。
「……大きい」
リーネが息を漏らす。
「ここは乗り換えの街です」
エミーナが簡潔に説明する。
「人は多いですが、長居する場所ではありません」
俺達は乗合馬車を降り次の便を確認する。
待ち時間はそれなりにあるが、問題はない。
人の流れに紛れながら、三人で移動する。
ここまでもそうだが、いつの間にかリーネが少し遅れがちになるので逸れないように俺が声をかけ、エイミーが手を引っ張る役だ。
「こっちだ」
「あ、はい」
そして俺達三人は歩調をあわせて歩くのだった。
後で気づいたのだが、俺はこの頃にはすでに宿を取るときも最近は迷いが無くなっていた。
「3人お願いします」
「3部屋でよろしいですか?」
「1部屋でいいで……いいよな?」
「2人部屋でもいいですよ」
何故か引っかかったので、一瞬言葉を留めてエミーナに聞いてみるが、問題なさそうだしリーネも嬉しそうにニコニコしている。
結果、この日もそのまま一部屋3人そろって泊まることになった。
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翌朝、再び乗合馬車へ乗る。
今度は12台の馬車がハンブレクス行きらしい。
プロイセニア王国で二番目に大きな都市らしいので、向かう馬車の数が多いのも頷ける。
俺は各馬車の幌を覗き込み、3人並んで座れる馬車を探して乗り込んだ。
今度はここから7日間の旅となる。
腰は痛いが、体力の心配はなく、定期的に休憩もあるし、夜は町か村に泊まる安心安全な旅程となる。
この辺までくると、お昼や夜の食事でも、宿を手配するときも、荷物の担当、必要なものを確認する担当、買い物、交渉担当、食事をして、寝るまでの流れまでもが引っかかることなくスムーズに回せるようになっていた。
誰がどこに座るか。
誰がどれぐらいの防寒が必要で、食べるときはどれぐらいの分量で、
誰がどこに眠るか。
細かいところも含めて迷う場面がほとんどなくなっていた。
「流石にこれだけ一緒にいると、色々と楽だな」
俺ががぽつりと言うと、エミーナが「そうですね」と反応して、リーネはニコニコと笑みを浮かべる。
この二人は最近ますます姉妹じみてきた。
髪色も違えば種族も違うのに、リーネがべったりだし、エミーナもしょっちゅう気にかけているのがわかるのだった。
そしてついに俺の旅の目的地である街が……城壁が遠くに見えてきた。
「あれが……」
「あれがハンブレクスです」
王国第二の都市。
これからの職場だ。
本来なら、ここで一区切りだ。
だが、俺はなぜかすっかり忘れていることがあった。
その事にまだ誰も気づいていなかったのだった。
文字数的にこの辺で一区切りなのですが、
書きたいのでもう少しだけ続きます!イチャラブしたいんですよ!!




