報告書25-甘くそして苦く
「戻ったぞ」
俺は中の反応をまって扉を開き部屋に入り、外套を外しながら、室内を一瞥すると買い出しは無事終わったような様子だった。
「あれ、もう片付いたのか?」
「ある程度は先に片付けました」
「助かる。あとでやろうと思ってた」
俺はは腰を下ろし、荷を解きながら年のために買い忘れも含め確認をした。
「そっちの買い物は問題なく?」
「はい」
「必要なものは、揃いました」
二人同時だった。
「……息が合ってるな」
俺は軽く笑って言うが、エミーナもリーネも微笑むだけで特に反応はなかった。
「しかし、手分けすると効率がいいな」
「3人もいますからね」
「そうだな。買い出しだけじゃないけど、俺もかなり楽をさせてもらってる」
その言葉にエミーナは少し視線を逸らしたが、リーネは何か思いついたように包みを差し出してきた。
「……お兄ちゃん、これどうぞ」
俺はは深く考えずに受け取ったが、保存食というより菓子の類のようだ。
早速いただいてもいいものかと悩んだが、包みを開けて取り出したものを一口かじる。
「……うまい」
クッキーのような焼き菓子だった。
俺の知っているクッキーに比べると遙かに甘味は少ないが、これはこれでかなり美味しい。
「ありがとう」
「いえ〜」
リーネは少しだけ嬉しそうに息を吐いた。
「そういや二人とも、なんだかやけに機嫌がいいな」
「気のせいです」
「そうですね」
また同時だった。
俺は首を傾げたが、すぐに気にするのをやめた。
女の子同士何かあるんだろうと納得することにした。
「まぁ……問題ないならいいか」
その後、寝る場所のことで一悶着があったのだが、無事に話し合いも落ち着き一階にある食堂で晩御飯をいただくのだった。
**********
部屋に戻り明日の予定を一通り確認し終えると、話は自然とそこで切れた。
「……特に問題はなさそうだし、もう寝るか」
俺が地図をしまいながら言うといつもの調子でエミーナは頷いた。
結局、俺が床に寝ようと考えていたのだが、2台あるベッドをくっつけ、間に外套を敷き詰めて3人で川の字で寝ることになった。なぜかリーネに押し切られた形でこうなってしまったのだ。
「そうですね、早い目に寝ましょうか」
そしてエミーナも、そのままの流れで……何の迷いもなく、上着の留め具に手をかけて寝巻きに着替え始めた。
やたらと白い肌が顕になる。
「――っ」
俺は反射的に視線を逸らした。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺、外に出るから」
俺は慌てて外套を掴み、扉のほうへ一歩下がった。
俺のその動きにエミーナがきょとんとした。
「何故です……か……? あ……」
問いが出てから、ようやく自分が何をしようとしているかに思い至ったようだった。
今まで「寝るか」と言われたら、そのまま横になっていた日々。
着替えるという工程は挟む余地はない。旅ではその必要はなかった。
だが、ここは宿屋で、寝間着に着替えるのが当たり前で、一般的にはそれが普通だ。
そして――
その着替えは、本来男女で分ける行為だった。
そう理解が追いついた瞬間、エミーナの動きが止まり、次の瞬間、ばっと胸元を押さえた。
「……っ」
「す、すいません……完全に、忘れていました」
「い、いや……気にするな、ちょっと外に出ておく」
そう言って、俺は少しだけ扉を開け外へ出た。
閉まる直前に部屋の中から声が飛んでくる。
「えー? お姉ちゃん、今さらそんな感じなんですか?」
リーネが明らかに楽しそうな声を出す。
「2週間以上、一緒に寝起きしてたのに?」
「……リーネ」
「山小屋ではそのまま寝てましたよね」
「……今は宿屋です」
「そうですねぇ」
含みのある間。
「でも、お兄ちゃんって律儀ですね」
「……」
俺は何も聞いてないことにし、扉の外で小さく息を吐いた。
廊下は静かで、宿の夜の気配だけがある。
(……忘れてたのは、俺だけじゃないよな)
そう思いながら、俺は少し離れた壁際で待つことにしたのだった。




