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異世界インスペクション~組織で評価されるための考え方~  作者: 宇佐木四郎


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報告書01(補足)-なぜこんな事になったのだろうか

目を覚ましたらとんでもないところに居たことはありますか?

私は冬の戎橋で目を覚ましたことがあります。

 朝、目が覚めたら、見覚えのない天井――ではなかった。


 正確には()()()()()()()

 青空が広がっている。


 石造りの建物の軒下。

 固く、冷たい地面の感触。



 どうやら俺はどこかの建物の外で寝ていたらしい。

 意味が分からない。


 何度でも言おう。

 意味がわからない。


 新人歓迎会のあと、俺は確実に家に帰りベッドで眠ったはずだ。

 だがもっと意味が分からないのは、周囲の状況だ。


 目の前を行き交う人々の服装はどう見ても現代日本のそれではない。

 どこか古い西洋風で統一感はなく、実用性だけを優先したような格好。



 人間だけではない。

 耳の長い人や、肌が明らかにトカゲのような人たちも混じっている。

 四足歩行のほうが自然に見えるような姿の人は、人間と呼んでいいのか。




 ――ああ、そういう世界か。




 最初こそ驚いたが、混乱は長引かなかった。


 理由は単純で、言葉が通じたからだ。

 正確に言うと『通じているように感じる』。

 耳から入ってくる音と、相手の口の動きが微妙に合っていない。


 意味は自然と理解できる。

 仕組みは分からない。


 だが理解できるなら問題はない。

 重要なのはそこではなかった。




 まず確認すべきは、自分の身に何が起きたのか。

 次に自分の身をどう守るか。



 この場合の『身を守る』というのは、物語やゲームで耳にするステータスだとか、剣や魔法の話、スキルなどの話ではない。



 衣食住。

 つまり、今この状況で死なないことだ。


 この状況で元の場所に戻れないとしても、ここで生きていくための最低限の生活基盤をどう確保するかだ。


 悪いが俺は現実主義で小心者なのだ。


 **********


 考えをまとめ、短期目的を脳内で設定し、気を取り直して通りすがる人々に声をかけ、怪訝な視線を向けられること数分。



 ようやく立ち止まってくれた御婦人――実家の猫によく似ていた――に、外国から来た観光客を装い、この街の事情を教えてもらった。



 魔獣や魔族。

 剣と魔法。

 そして、冒険者。



 いかにもな要素が、この世界には普通に存在している。



 冒険者とは、魔物を倒し、荷を運び、危険な仕事を引き受ける代わりに報酬を得る職業らしい。


 よくある異世界ファンタジー作品の構図だ。

 だが、俺には剣の腕も、魔法の才能もない。

 少なくとも、確認するすべもない現時点ではそう判断している。


 この状況下で俺はどう立ち回るのが正解か。


 目を覚まして、話を聞き、頭を整理し、腹が鳴って正気に戻るまで、およそ一時間ほど。


 ふと顔を上げたとき目に入ったのが、俺が軒下で目を覚ましたこの建物だった。


 **********


 冒険者ギルド。


 冒険者に仕事を斡旋し、依頼を管理し、冒険者が怪我をした際の対応や、報酬の精算まで行う組織。


 要するに冒険者を『使う側』だ。


 話を聞くうちに分かったが、このギルドは公共インフラに近い役割を担っているようだ。


 治安維持、物流、討伐。

 国が直接やるには手が足りない部分を、まとめて引き受けている。


 富や名声という点では冒険者が目立つが、実際に生活が安定しているのは、その裏側で働く職員のほうだ。


 命を張らないし報酬は安定している、言葉も通じる。

 悪くない。



 依頼内容を整理し、冒険者の能力や実績を見て仕事を振る。

 簡単な荷運びから、危険な魔物退治まで幅は広い。



 人選を見誤れば怪我人や死人が出る。

 怪我をした冒険者のフォローや、揉め事の調整も仕事のうちだ。


 つまりこれは、人を見て、配置して、発生しうるリスクを管理する仕事だ。




 どこかでやったことがある。

 具体的にはついこの間まで。




 そう思ったとき俺は自然と口に出していた。



「――ここで働かせてください」



 **********


 その日から俺の職場はこの街――ミュンセオンにある冒険者ギルド、ヒルトレア支部になった。


 ここはスラムに近く治安が良くなく、故に職員も定着せず常に人手不足らしい。


 だから新人が突然回されてくるのも珍しくない。

 向こうから見れば、俺もその一人だった。


 なぜこの世界に来たのかは分からない。

 元の世界に戻れるのかも分からない。


 だが言葉は通じる。

 仕事も手に入った。



 一日あたりの賃金は16リル。

 ギルドの食堂で定食が3リル。

 斡旋してもらった宿は一泊朝食付きで5リル。

 相部屋なら3リルらしいが、さすがに個室を選んだ。

 雑貨や飲み物で、1日1〜2リル。休日の食費や日用品代を考え計算すると、貯金に回す余裕はほとんどない。



 それでも明日いきなり死ぬ心配はなくなった。

 それだけで今は十分だった。


 理由が分からないなら割り切るしかない。


 状況が把握できたならあとはその中で動くだけだ。

 組織はどこでも似たような理屈で回っているのだ。


 **********


 店に入ると金属の軽い音がした。

 冒険者ギルドと宿の途中にあるよろず屋のような店。

 朝早くから夜遅くまで開いているので、毎日顔を出してしまっている。

 


 カウンターの奥ではいつもの女性が小さな箱を整理していた。

 黒髪でロップイヤーのような耳がちょこんと乗っかった女の子だ。


 「いらっしゃい」


 彼女は顔を上げていつもの調子でそう言われた。特別な感情は込められていない。ただの挨拶だ。


「どうも」


 3日間連続で通ってしまっているが、あの女性以外の店員を見たことがない。

 もしかしたら若すぎるがあの子が店主なのかもしれない。


 そんな事を考えながら棚を一通り眺め、実用品の並ぶ区画に向かった。


 釘、簡易工具、保存食。

 それから帳簿用の紙と筆記具。


 見たことのあるものに近い形状のものから、何に使うのかもわからない道具がところ狭しと並んでいる。 ホームセンター的な感じがするのだろうか、やはりこの店は落ち着く。




「……3日目、ですね」




 突然背後から何でもないことのように声が飛んできた。


「3日目?」


 思わず聞き返すと、彼女は指を折るような仕草をした。




「お兄さんが()()()()()()日が1日目。次の日、文房具を買いに来たのが2日目。今日で3日目」



 ……きっちり見られていた。

 あの時の俺は光って現れたんだ。



「よく覚えてますね」

「店の前でしたし」



 さらりと言うがそれだけで済ませていい話ではない。

 ただ突っ込むほどのことでもない気がして、俺はそれ以上は聞かなかった。





「……慣れました?」


 彼女は棚から保存食を一つ取り、こちらに差し出してくる。


「この辺の食料は食べやすいですよ。職員さんにも冒険者にも評判いいです」

「助かります」


 俺は店員さんから保存食を受け取りながら、ふと思ったことを口にする。


「……この街、若い人が多いですね。働いてる人も」



 彼女の手がほんの一瞬だけ止まったが、すぐに何事もなかったように動き出す。



「そういう国ですし、そういう街です」


「珍しくはない?」

「珍しくはないですね」


 言い切った。


「働かないと生きられない人が多いですから」


 淡々とした声で同情も誇張もない。


 見た目は高校生ぐらいに見えるのに、達観したような言い回しが気になる。

 彼女の頭にちょこんと乗っかっているような垂れ耳がピクリと動くのが見えた。



「お兄さんは?」


 今度は彼女が問い返してきた。

 

「元居たところでは、何をしていたんですか」

 

 そう聞かれて一瞬、言葉を選んでしまう。



「……人を育てる仕事……みたいなことを」

「”みたいなこと”?」


「直接教えるというより、どう動けば問題にならないかを教える役でした」



 彼女は少し考えるように首を傾げた。



「……変な仕事をしていたんですね」

「よく言われます」


 そう答えると彼女はわずかに口元を緩めた。



「でも冒険者ギルドだとお兄さんみたいな人、役に立ちそうですね」

「そうですか?」


「はい。冒険者ギルドは”正しい人”より”間違えない人”を必要としているはずなので」



 それは妙に刺さる言い方だった。


PDCAとは

P:プラン/計画……言質を取る

D:ドゥ/行動……消耗する

C:チェック/確認……詰められる

A:アクション/改善……次回に回す


引用

『正論が通じない職場でのサバイバル術』

(著:宇佐木九郎)

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