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報告書08-責任者が責任を取らない場合どうすれば

「……その後の記憶はありません」


 背嚢を開けようとした瞬間だった。

 ごろつきの一人が切りかかってきたため、俺は反射的に背嚢を前に突き出し防御に使った。



 ――ただ、それだけのつもりだった。



 だがその衝撃で背嚢の中に入っていた何かが反応したのだ。

 次の瞬間、眩い光が溢れ出し部屋をゴロツキごと……建物の半分を貫いた。



 さらにその先――

 都市の外壁の一部にまで穴が穿たれ、連鎖する形で周囲の城壁が次々崩落した。



 結果として街全体を囲っていた外壁のおよそ2割が崩壊した……らしい。

 ()()()というのは、その光を見た直後、俺が意識を失ったからだ。




 査問委員会の部屋に、紙をめくる音だけが、やけに大きく響く。




「遺跡発掘用の地中貫通魔弾(ブンカーブレッヒャー)ですか」

「なぜ、そんなものが街中の商店に……」


「それを誘拐犯に向け、横向きに発射したと……」

「しかも市街地はもちろん、近郊での使用も明確に禁止されています」


「加えて、使用者制限もある」



 一人がそう言いかけたところで、別の委員が資料に目を落としたまま口を挟む。




「シロウ殿は統制官……いえ、資料によれば当日付けで緊急任用により副監督官へ任命されています。従って使用者制限そのものは問題になりません」




 どうやら、俺の知らないところで役職が一段上がっていたらしい。


 副監督官。

 統制官の上位職で、現場において人員の配置や業務の優先順位、判断の最終責任を負う立場――会社組織で例えるなら、統制官が部長職ならば副監督官は管掌役員に近い。



 ギルドの場合は副監督官には三系統がある。

 冒険者統括、職員統括、施設統括。

 いずれもその領域における最終責任を負う役職だ。



「ですがギルドの職員であり衛士ではない……」

「それも問題ありません」



 別の委員が、淡々と否定する。



「人命が関わるような事件や貴族が被害者となっている事件の場合、緊急時特例によりギルド職員のうち副監督官以上の者は役職に応じて衛士団相当の権限が付与されます」


「なるほど……」


地中貫通魔弾(ブンカーブレッヒャー)自体は違法ではない」


「使用資格も満たしている」


「となると――問題は」




 委員の視線が一斉にこちらへ向けられる。




「現場判断で行動した結果、城壁を崩壊させた件は誰の責任か、ですな」




 それがギルド支部長の責任になるのか。

 それとも現場責任者である俺の責任になるのか。

 あるいは両者とも処分されるのか。



 腐りきった組織であれば答えは簡単だ。

 責任者を切る。それだけで済む。



 責任者というのはそのために用意されている立場でもある。



 問題となるのは――

 焦点となるのはその『責任の範囲』をどこまで広げて解釈するかだった。



 **********



 俺はあの後、すぐに意識を失ったのだ。

 地中貫通魔弾(ブンカーブレッヒャー)というのは、使用者の魔力をそのまま破壊力へと変換する魔道具だったらしい。値段は知らない。怖いから聞いていない。




 そして急激に魔力を吸い上げられた俺は――そもそも自分に魔力があるとは思ってもいなかったのだが――魔力欠乏によって気絶したのだろうという見解だった。



 リーナとミレイが崩壊に巻き込まれなかったのは、本当に不幸中の幸いだった。


 不可抗力とはいえ、助けに行った俺の判断が彼女たちをさらに危険に晒していた可能性があったのだから。




「シロウ殿、他に発言はありませんか」

「ありません」



 総じてこういう場で中間管理職の言い訳というのは、聞いてもらえるだけありがたい。それが結論に反映されることなど、ほとんどない。




「お待ち下さい。彼を派遣したのは、私の判断です」



 今まで何も言わず話を座ってたギルド支部長が、突然そう言って立ち上がった。



「つまり、支部長が責任を取る、と?」


 査問委員が確認し、残りの委員たちの視線が一斉に支部長へと向けられた。


 ――正直驚いた。

 ダメ上司だと思っていた。

 だがここぞという場面で部下を庇うことができる上司は、渦中の部下から見れば神様のような存在だ。




「あ、いえ、私にも責任はあると思います……原因は現場判断の結果ですし……はい、そんな感じです」




 ――クソだった。

 クソ上司だった。


 数秒前に神様扱いした自分を今すぐにでも殴り倒したい。


 責任を取るとは言った。

 だが、その取り方が最悪だ。


 曖昧でぼやけていて、誰の首も差し出さない代わりに誰も守らない。



「……」



 妙な沈黙が部屋を満たした。

 査問委員たちは誰も口を開かない。



 書類に視線を落としたままの者、腕を組んで天井を見つめる者。

 全員が、支部長の発言をどう処理すべきか、計っている。



 これだ。

 この空気が、一番まずい。



 明確な責任の所在が示されないとき、組織というものは必ずその責任の所在を自分たちが『扱いやすい所』に着地させる。



 それがどこかは、考えるまでもない。



 今ここで余計なことを言えば、状況はさらに悪化する。

 だが何も言わなければ、この沈黙の先で話が勝手にまとまってしまう。



 支部長は気まずそうに視線を泳がせている。

 自分が何を言ってしまったのか、まだ完全には理解していない顔だ。



 ――違う。

 その言い方じゃない。

 そう喉まで出かかった言葉を、俺は必死に飲み込んだ。



 沈黙は数秒。

 だが体感ではやけに長かった。



 しかしその重たい空気を切り裂くように一人の委員がゆっくりと口を開いた。


「一つ、確認してよろしいでしょうか」


 低い声が横から差し込まれた。

 これまで黙っていた別の委員だった。



「『現場判断』という言葉が出ましたが、その前提を確認したい」



 委員はゆっくりと視線を支部長へ向ける。



()()()殿()()()()()()()()()()()()()()()ですか」


 一瞬、空気が止まる。


「それは……」


 ギルド支部長が言葉に詰まる。


「支部長、あなたですね? 冒険者や衛士団の要請を指示せず、単独での対応を選択させた。その判断はあなたの職権によるものではありませんか」



 委員の声は穏やかだった。

 だが逃げ道を一つずつ塞いでいく口調だ。



「加えて緊急任用により彼は副監督官に任命されています。つまり現場判断を行う権限と同時に、その判断を『させた側』もあなたです」



 支部長の顔色が目に見えて変わる。



「現場責任者が判断した。それは事実でしょう」



 だが、と委員は続けた。


「現場責任者をその状況に立たせたのは誰か。不十分な情報と時間制限の中で選択肢を狭めたのは誰か」


 そうはっきりと言い放った。



「現場だけに責任があるということは起こりえません」



 再び部屋に沈黙が満ちた。

 今度は、さきほどとは質が違う。



 ――なるほど。

 これは俺を救うための発言じゃなく、責任の所在を正しく照らし出すための一手だ。そして『誰か一人を切って終わらせないぞ』という宣言でもあった。


 俺は初めてこの査問委員会が、単なる形式ではないことを理解した。


『責任というのは ”取るため” にあるのではない

 問題を終わらせるためにあるのだ』


引用

ビジネスマンが『もうダメだ』と思ったときに開く本2

~会社はあなたの人生を保証してくれない。今すぐ逃げろ~

(著:宇佐木九郎)

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