無双スキル「全自動最適化」で魔王が部下になりました
「……ここ、どこだ?」
目を開けた瞬間、広がる暗闇。
天井は異常に高く、どこか作り物めいている。冷たい空気が頬をなでた。現実感がまるでない。まるでゲームの世界に入り込んだようだ。
最上ユウセイ――ごく普通の高校生だった俺は、さっきまでスマホの画面を眺めていた。
深夜二時。布団の中で、いつものようにSNSをダラダラと見ていたら、ウザ広告がポップアップした。
『あなたにぴったりの異世界転生キャンペーンはこちら! 期間限定! 今ならスペシャルスキルがもらえる!』
……怪しさ全開だな、こんな広告タップする奴の気が知れないし。
当然キャンセルしようとスワイプした。
なぜか広告が反転しタップしたことになっていた。
「っンだよっ 誤タップかよっ! ウザッ!(怒)」
叫ぶのと同時に画面が眩しく光っ!?て――部屋中が光に包まれ――気がつけば、ここだ。
「マジかよ……異世界転生って、本当にあるのかよ」
トラックに轢かれるよりはだいぶ穏便な転生だけどな。お手軽すぎて逆に笑いが出るわ。
立ち上がり、周囲を見渡す。
見渡す限り、黒い石造りの床と壁、天井には不気味に光る魔法陣のような模様。遠くには巨大な玉座が見え、その奥には暗闇が広がっている。
空気が澱んでいることに気づいた、深呼吸すると何だか胸が重くなって息苦しい。
「でも、これ……夢じゃないよな?」
定番だけど頬をつねってみた。
まぁ、それなりに痛い。現実だよな、これ。
「うわ、マジで異世界転生したんか……」
改めて認識し、半分興奮と不安が八割入り混じる気分になった。
ラノベなんかは気楽に読んでたけど、実際自分の身に降りかかってくるとめっちゃビビる。
ハード系なのか? チートありのイージーモードだったらいいな、少しワクワクな気持ちも湧いてきた。
そうだ、ここはお約束のあれだ、あれを言うしかない。
「ステータス・オープン!」
目の前に、半透明のウィンドウが浮かんで来た。
キターーーーーー!
いかにもゲームのステータス画面だ。
_______________________
【ステータス】
名前:最上ユウセイ
レベル:1
HP:100/100
MP:100/100
スキル:《全自動最適化》
_______________________
予想よりずいぶんあっさりしたデザインのステータス画面だったけど取得しているスキルがひときわ目を引いた。
「スキル……全自動最適化?」
これは、名前からしてチートっぽくないか? 何もしなくても勝手に最適な行動を取ってくれる、ってことか?
「まあ、そのうち試してみればいいか」
巨大な玉座の向こうから、赤い光が漏れているのが見えた。多分そこに何かいるはずだ。
とりあえず光の方向に向かって歩き出す。
歩き出して、三歩。
――ゴゴゴゴゴゴ……
「は?」
空気の振動が伝わってくる。
強大な圧力。イヤな予感全開で振り返り玉座を見上げた瞬間、巨大な影が立ち上がった。
「……マジかよ」
全長三メートルはある漆黒の鎧。禍々しい角、血のように赤い外套、黄金に光る眼。大きく腕を広げたその姿は。
魔王!!
ゲームや映画で見る、まさに伝説のラスボスそのものだった。
「……おいおい、開始一分でラスボス出てくんのかよ」
クソゲーなのか、初戦死亡からスタートする展開なのか?
死に戻りがあるかどうか未確認な状態で死亡するのは超危険フラグだ。不可抗力で死ぬまでは断固回避の方向で行こう。
魔王が低く、重々しい声で語りかけてきた。
「人間よ……よくぞ我が城の奥深くまで辿り着いた。勇者か? それとも愚かな冒険者か?」
冗談じゃない。こんなの、どうにかなるわけがない。
そして、巨大な漆黒の剣が、真上から振り下ろされた。
「うおっ!?」
反射的に腕を上げて防御姿勢を――取った、その瞬間。
――ガキィィィィン!!
耳元で金属がぶつかり合うような轟音。
世界が揺れた。
魔王が吹き飛んだ。
いや、正確には、俺の拳が魔王の剣に触れた瞬間、魔王の巨体が玉座に叩きつけられ、剣が砕け散ったのだ。
床が波打つ。衝撃波で玉座にヒビが入る。空気が震えている。
「……え?」
俺の拳は、軽く震えていた。痛みは、まったくない。むしろ、何も感じなかった。
「ワンパン……マジで?」
玉座から立ち上がろうとする魔王。その動きは明らかに鈍い。ダメージを受けている。
呆然としていると、ステータスウィンドウが光った。
_______________________
【スキル発動】
《全自動最適化》:敵対存在を検知。最適な対処を実行しました。
結果:魔王ゼルガディス(Lv.999)に大ダメージ
【通知】
推奨行動:交渉による配下化
成功率:98.7%
備考:力の差を見せつけることで、魔王の服従を得られます。殺害は非推奨。
_______________________
「配下化……?」
魔王が膝をついている。圧倒的な力の差を見せつけられ、その黄金の瞳には驚愕と――畏怖の色が浮かんでいた。
「ば、馬鹿な……この私が、一撃で……! 貴様、何者だ!」
俺自身も何が起きたのかよくわからない。でも、このチャンスを逃す手はない。
「俺は最上ユウセイ。異世界から来た者だ。魔王ゼルガディス、お前を殺すつもりはない。だが、お前の力が必要だ」
「何……?」
「俺に従え。お前と眷族たちの命は保証する」
魔王の顔に困惑が浮かぶ。当然だろう、突然現れた謎の人間に一撃で叩きのめされ、配下になれと言われているのだから。
「ふざけるな……! この私が、人間如きに……!」
魔王が再び立ち上がろうとする。だが、俺は一歩踏み出した。
――ドンッ
足を踏み出しただけで、空気が震える。
魔王の動きが止まった。
「もう一度言う。俺に従え。これは命令だ」
「く……っ」
魔王が歯ぎしりをする。プライドが許さないのだろう。拳を握りしめ、全身が震えている。
千年の時を生きた魔王が、今、たった一人の人間の前で屈しようとしている。
だが――圧倒的な力の差は、否定しようがなかった。
長い、長い沈黙。
やがて魔王は、ゆっくりと息を吐き、頭を下げた。
「……わかった。貴様の力、認めよう。我が名に誓い、貴様に従おう……最上ユウセイよ」
魔王が片膝をつき、忠誠を誓う。その姿は、敗北者というより、新たな主を得た戦士のようだった。
――ピコン
_______________________
【通知】
魔王ゼルガディスが配下になりました。
称号獲得:《魔王の主》
_______________________
「マジで配下になったのか……」
俺は呆然と、跪く魔王を見下ろした。
転生して一分で魔王を配下にするなんて、チートってレベルじゃないぞ、これ。
ふと、自分の手を見る。
さっき、何の躊躇もなく魔王を殴り飛ばした拳。
もし、あの時スキルが「殺害」を選んでいたら――
ゾクッ
背筋に寒気が走る。
「……使い方だけは、間違えないようにしないとな」
小さく呟いた。
魔王が顔を上げ、不思議そうにこちらを見ている。
「何か申されましたか、我が主」
「いや、独り言だ」
俺は魔王に手を差し伸べた。
「立てよ、ゼルガディス。これから、よろしく頼む」
魔王――いや、もう部下になったゼルガディスは、一瞬驚いた顔をした後、その手を取った。
異世界転生、開始一分。
俺の新しい生活は、予想外の形で幕を開けた。




