2015-2017
アンケート係の女が機能を停止させると、廃品回収の要請aka働くホームレスたちがツイードスーツや持ち物を剥がし始めた。
しばらくするとジャンク屋がボディを回収しに来るだろう。
後のことは知らない。
シン東京駅修正八重洲口第八高速バス乗り場に並ぶ乗客たちは転がった電気人形に無関心だ。
官営バスをやり過ごし、間も無く闇バスに乗客たちの列は吸い込まれていく。
おれもその一人だ。
立ち乗りになるかな、と危ぶんでみたものの、その時はさっきのアンケート人形から貰った取っ払いで座席を買うって手もアリだと考え直した。
あまり粗暴な真似をするのはよそう。今日だけで何発の弾を使った?ウンザリする。
清掃なんてされた事のないバスの中は、ヤニで茶色くなった天井や、過去の乗客たちが吐き捨てて累々と重なるガムだとか檳榔で汚れている。
ゴミと殺虫剤で踏み場もない通路を進む。
その先に窓側の座席に座った中年の女が見えた。
中年女は窓の外を見ていた。視線の先を追ったが何も見えない。
おれは通路側の座席に置かれたリュックを指差して訊いた。
「この荷物はアンタの荷物かい?」
だが女はこちらを一瞥して鼻を鳴らすと、再び視線を窓の外に移した。
いつもならここで中年女を射殺しているところだが、さっき我慢しようと決めたばかりだ。
おれは愛想笑いを浮かべて再び訊いた。
「マドモアゼル、憐れな紳士を無視しないで欲しい。口の利き方が無礼だったのであれば謝ろう、非礼を許して頂きたい」
中年女が目だけをこちらに動かした。
「こちらの座席に置かれているのはマドモアゼルのお荷物でございましょうか?もしマドモアゼルに一片の慈悲でも御座いましたら、この疲れ果てた憐れな私めにお座席をお譲り頂けませんか?」
すると中年女は唇を剥いて細くなった歯列を見せながら笑うと、指でマルを作って銭を寄越せとサインした。
その顔に腹が立った。
「仕方ないですね」
おれはため息をつくフリをしてポケットに手を遣り、そのまま引き金を引いた。
ポケットと女の眉間に穴が空いた。
粗悪なサイレンサーは相変わらずでら下品な音を漏らして煙まで立てる。
闇バスの運転手が面倒くさそうな顔をこたらに向けた。
「なにを見てんだ、お前は運転をしろ」
おれはバスの非常口を開けてそこから中年女と荷物を放り出した。
働くホームレスやストリートチルドレン達が群がり、荷物も中年女もあっという間に解体されてしまった。
乗客たちは無関心にぼんやりしているか、便乗してゴミを投げ捨てるかのどちらかだった。
おれは中年女がいた窓際の席に座り、寝ても荷物を盗まれないよう身体に縛り付けていると、今度は隣に若い女が座った。
普通は「ここいいですか?」と訊くだろうが、文明に初めて触れたってんなら仕方ない。
それに今日は本当に無駄撃ちをしないと決めたんだ。もう撃たない。
撃たないけれど男だったら殴り飛ばしてから席料を取るところだ。だが文明に初めて触れた猿じゃ金なんて持ってないだろう。
隣に座った女がブーツを脱ごうと前屈みになった。
女が履いた股上の浅いジーンズはケツを何割か露出させていて、黒いレースのTバックを見せつけていた。
アナルウイスキーポンセ、煙草マンコ白いジャム。
闇バスはゆっくりとシン東京駅修正八重洲口第八高速バス乗り場を出た。
何時だろうとおれは眠く、光化学スモッグと闇タバコの煙が満ちた箱の中で、隣に座る女の乳首について考えることにした。




