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婚約破棄された悪役令嬢ですが、薬草で領地改革します!  作者: しげみち みり


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第8話「裁きの結論、ざまぁの一閃」

 王都の大広間に、再び人々が集められた。昨日の裁きは「証言の聴取」で終わり、今日こそ結論が下される。

 王の席の前には、王太子とわたくし。対照的に並べられ、注がれる視線は熱を帯びていた。


 王がゆるやかに口を開く。

「王弟の証言は重い。彼は命を救われたと語った。それに反し、王太子、お前はどう証明する?」


 王太子は声を荒げた。

「証明など不要です! 薬草に人を救う力などありません! この女はただ運よく病の終息と重なっただけ! 私は……私は正しかったのだ!」


 必死の叫びに、観衆はざわめき、やがて冷たい視線を向ける。

 その中で王妃が、静かに立ち上がった。


「……ならば、私も証言を」


 大広間が息を呑む。王妃は優雅に歩み出て、王太子を見下ろした。

「私は昨夜、薬草師殿の作った補水液を飲んだ。わずかな疲れが和らぎ、喉が楽になった。――実感なくして、どうして否定できましょう?」


「母上まで……!」


 王太子の顔は蒼白に染まる。もはや彼の言葉には、誰も耳を貸していなかった。


 わたくしは深く一礼し、静かに声を放つ。

「殿下。あなたは“薬草は泥臭い”とお笑いになりました。けれど泥にまみれた手が、どれほど多くの命を支えたか――その事実は、ここに集う皆が知っています」


 観衆から、どっと拍手が広がった。誰かが声を上げる。

「薬草令嬢だ! 命を救ったのは彼女だ!」


 ざわめきが波となり、大広間を満たした。


 王は重々しく頷いた。

「……リリアーナ・フォン・グレイス。お前の追放は取り消す。今後は“薬草師”として王家の庇護下に置く。王都に薬草園を築き、病に備えよ」


 その言葉に、胸が熱くなる。だが次に響いた声は、さらに大きな波を呼んだ。


「そして――王太子アレクシス。お前は軽率な判断により、国を危うくした。婚約破棄を口実に令嬢を追放し、病を嘲笑し、結果として王弟の命をも危険に晒した。その罪、重い」


 王の声は冷えきっていた。

 王太子の顔が歪む。

「父上……私は……私はっ……!」


「以後、王位継承権を剥奪する」


 その瞬間、大広間が爆ぜるようにざわめいた。


 わたくしは裾を握り、深く息をついた。

 ――これが、“ざまぁ”の結末。


 追放の屈辱も、泥にまみれた日々も、すべてはこの瞬間のためにあった。

 視線が集まる。羨望も、尊敬も、驚きも。

 かつて笑い、嘲った者たちが、いまはわたくしの前にひれ伏すように見えた。


「薬草は、人を救います。……それは、身分や評判より確かな力ですわ」


 拍手が再び広がり、王都の空気を変えていった。


 その夜。

 わたくしは王弟殿下の側で、静かに鍋をかき回していた。

「……殿下。婚約破棄は、もはや過去の話です。わたくしは薬草師として歩んでゆきます」


 殿下は微笑み、柔らかな声で答えた。

「その歩みを、私も共に見届けたい」


 炎がぱちりと弾ける音が、心の奥まで響いた。

 ――薬草令嬢の新しい人生は、まだ始まったばかりだった。

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