3-2 からの
3-2 からの
「特務零号、ケース42 三弥栄文楽、実施します!」
三弥栄は使節管理部に入り、内側から鍵を回して施錠した。
振り返ると――部屋の壁が消え、代わりに幅いっぱいの階段が現れていた。階段は闇の中を上へとのび、遥か先に北極星のような小さな光が見える。出口なのかどうかは分からない。ただ、上下左右は暗黒。足元の数段だけが視認できる。10畳ほどの閉ざされた室内は、いつの間にか「別世界への道」に変わっていた。
「どえらいことに首を突っ込んでしまったな」
三弥栄は小声で呟き、最初の一段へ足を掛ける。
「こちら三弥栄。階段を確認、登っています」
マイクに報告するが、反応はない。
「だれか聞こえますかーっ!」
大声でも返事はなかった。
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やがて気づく。
「スマートウォッチ!」
表示は13時03分。動作している。
「はぁ、はぁ……とりあえず登るしかないな」
開始3分で既に息切れしつつも、気合いを入れ直し足を運ぶ。
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14時21分。
三弥栄は疲労困憊で膝をついた。
景色は一向に変わらない。登っているはずなのに、進んでいない気がする。出口と思しき光は北極星のように遠いまま、位置を変えず瞬いている。
暗闇の中、ただ一人で光を目指す――このままでは精神が持たない。
「……“死ぬ前に死ぬな”って、そういうことか」
階段に横たわり、三弥栄はそのまま眠りに落ちた。
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14時50分。
およそ30分のうたた寝から目覚める。喉はからから、口内は乾ききっていた。汗で体内の水分も抜けている。
「やっちまったな……」
水も食糧もトイレもない。完全に手ぶらでここに来てしまった。準備不足を悔やんでも遅い。
どうにかしてあの光へ辿り着かなければならない。だが距離は縮まらない。
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三弥栄は研修を思い出す。
1.天国への階段は半霊半物となって通り抜ける道。
2.自殺は禁止。
3.出口を目指すのではなく、限界がゴール。
「……なるほどな。死にたくなるよう追い込むのが狙いか。
死を前にして逃げるか、受け入れるか、それとも最後まで抗って死ぬか。
要は“死ぬこと前提”の場所だから、何も持たされなかったんだ。延命しても地獄が長引くだけ。糞尿まみれになったとしてもなお、受け入れてみっともなく最後まで登り続けるしかない」
三弥栄は「どう生きるか」ではなく「どう死ぬか」を考えながら、再び足を上げた。少し休み回復したかと思っていたが、足はひたすらに「重い」
確実なダメージが三弥栄のライフを削っていた。
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スマートウォッチは15時00分を示す。
天国への階段に入って2時間が経過していた。