表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/56

3-2 からの

3-2 からの


「特務零号、ケース42 三弥栄文楽、実施します!」


三弥栄は使節管理部に入り、内側から鍵を回して施錠した。


振り返ると――部屋の壁が消え、代わりに幅いっぱいの階段が現れていた。階段は闇の中を上へとのび、遥か先に北極星のような小さな光が見える。出口なのかどうかは分からない。ただ、上下左右は暗黒。足元の数段だけが視認できる。10畳ほどの閉ざされた室内は、いつの間にか「別世界への道」に変わっていた。


「どえらいことに首を突っ込んでしまったな」

三弥栄は小声で呟き、最初の一段へ足を掛ける。


「こちら三弥栄。階段を確認、登っています」

マイクに報告するが、反応はない。

「だれか聞こえますかーっ!」

大声でも返事はなかった。



やがて気づく。

「スマートウォッチ!」

表示は13時03分。動作している。


「はぁ、はぁ……とりあえず登るしかないな」

開始3分で既に息切れしつつも、気合いを入れ直し足を運ぶ。



14時21分。

三弥栄は疲労困憊で膝をついた。


景色は一向に変わらない。登っているはずなのに、進んでいない気がする。出口と思しき光は北極星のように遠いまま、位置を変えず瞬いている。


暗闇の中、ただ一人で光を目指す――このままでは精神が持たない。

「……“死ぬ前に死ぬな”って、そういうことか」

階段に横たわり、三弥栄はそのまま眠りに落ちた。



14時50分。

およそ30分のうたた寝から目覚める。喉はからから、口内は乾ききっていた。汗で体内の水分も抜けている。


「やっちまったな……」

水も食糧もトイレもない。完全に手ぶらでここに来てしまった。準備不足を悔やんでも遅い。


どうにかしてあの光へ辿り着かなければならない。だが距離は縮まらない。



三弥栄は研修を思い出す。

1.天国への階段は半霊半物となって通り抜ける道。

2.自殺は禁止。

3.出口を目指すのではなく、限界がゴール。


「……なるほどな。死にたくなるよう追い込むのが狙いか。

死を前にして逃げるか、受け入れるか、それとも最後まで抗って死ぬか。

要は“死ぬこと前提”の場所だから、何も持たされなかったんだ。延命しても地獄が長引くだけ。糞尿まみれになったとしてもなお、受け入れてみっともなく最後まで登り続けるしかない」


三弥栄は「どう生きるか」ではなく「どう死ぬか」を考えながら、再び足を上げた。少し休み回復したかと思っていたが、足はひたすらに「重い」

確実なダメージが三弥栄のライフを削っていた。



スマートウォッチは15時00分を示す。

天国への階段に入って2時間が経過していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ