2-4 やるっきゃないとして
2-4 やるっきゃないとして
想像していたのと違う。
婆さんみたいに半透明になって超能力的な、なんかすんごい力で、幽霊とか妖怪みたいな化け物を退治していくんだと三弥栄はイメージしていた。「力が欲しい」のだが、そう言うのはやっていないようだ。
三弥栄の様子を察して所長が内容をまとめる。
「まとめると、
1、消滅する別の宇宙を、
2、命懸けで時空を超えて、
3、始まりに戻す
と言うことだ」
三弥栄は気持ちを落ち着かせて質問をする
「こっちの世界になんか影響あ」
「ない」
察した所長が言い切る前に被せて答える。
「それじゃメリットがな」
「ある」
所長は被せて答える。
「任に就くなら三弥栄は国家公務員とされる。特殊(命懸け)なので年金その他、死んだ場合の補償もばっちりだ。お前にとってみれば、死ぬかもしれない以外メリットだらけだ」
三弥栄の顔が強張る。
「死ぬのが大問題です」
三弥栄は強張ったまま正論を言う。
三弥栄の質問は続く。
「俺である理由は何かあるんでしょうか?他じゃダメなんでしょうか?」
「婆さんが言わなかったか?お前は智川さんに触れられ、声を聞き、見えていたんだ。偶然なのか必然なのか選ばれちゃったのよ。そもそもどんな影響が出るかわからんから代理なんて立てたことがない。こっちに影響が無いって言ったのは、なんだかんだ、今までご指名受けた全員があの部屋に入って、戻ってこない場合はあったが、こっちの世界には消滅の波及などの影響が無かったからだ。入らなかったらどうなるとか試せないのよ。下手したらこっちごと消えるかもしれない」
「つまるところ、やってもらうしかないってことだ」
所長が内容をまとめた。
「ここまでが俺の担当だ。次の講習でこの研修は終わる。俺はセンターに戻って手続き書類を揃えなきゃならん。いいか、やってもらうことを前提に手続きを進めるからよろしくな」
所長は講義を締めて会議室を出た。
三弥栄は逃げられないと理解した。
逃げられないことを解らせるのが目的の研修なのだろう。
「解せない」
三弥栄は思考する。
智川と名乗る女性は「13時に地下4階の使節管理部へ来い」と言って消えた。それだけでそこへ行けるものだろうか。三弥栄はこうやって説明説得に言いくるめられてそうなる流れだが、本当にこれまで41回、ちゃんとあの部屋へ入ったのだろうか。そもそも智川との接触をスルーされている回もあるのではなかろうか。だとすれば、放って置いてもループするあちら世界から年一で勝手にやってくるお盆の御先祖さまや織姫彦星的な扱いでよいのではなかろうか。三弥栄は意外と洞察に長ける。
つまり、ゼロケイにはまだ、何かしら隠している事情がある――三弥栄はそう推察した。陰謀論の出来上がりである。
国家の組織である以上、成り立ちや目的、人間関係や資金の流れ、言えない事情はいくらでもあるはずだ。しかし若い三弥栄にはそれは理解できず、「やっぱ裏がある」と勘ぐって知った気になっていた。
三弥栄は洞察に長ける、まあまあの未熟者である。