12 天国への階段降り
12 天国への階段降り
3年が経過した。
真空消滅は辿り着くことなく、安定した日々が過ぎる。
三弥栄は自身の身体に戻って生活している。
これまでに観測された内容や「The book」に書かれたことを基に、虎太郎と龍美は三弥栄を元の世界へ戻す方法の研究と技術開発を進めていて、既に完成状態にあるが、当事者である三弥栄の技量が足りないらしい。
サトル博士は自身の役割を終えたことが区切りとなったのか、真空消滅を阻止してから暫くして、入院していた身体が息を引き取るのと一緒に、意識も消えて行ってしまった。入院から29年。年齢としては82歳だったが、深淵でのリセマラを考えると、本当にお疲れ様でした、安らかにお眠り下さいとしか言いようがない。
ハリー堀田は日本を離れ、母方の母国であるイギリスに拠点を置き、国際弁護士として活躍の幅を広げている。
三弥栄の弟分を型どった、ν臓器と呼ばれるそれは、宿す意識を失ってから、ずっと眠っている。動かないのでぬいぐるみでしかない。時折三弥栄が入って遊ぶが、それはあまり良くない。
今日も技量を上げるため、みちゅえるとダンスの練習をこなす。35歳の中年だが、自力で元の世界へ戻るための練習は三弥栄の身体を鍛えていた。
観定団。たった1回の会議で真空消滅から世界を救ったメンバーは、亡くなられたサトル博士以外、それぞれ進んでいる。
「天国への階段降り」
三弥栄の世界へ繋げる時空間接続の発生と、そこを降り切るためのダンス。虎太郎と龍美が安全性を担保した状態での運用を目指し、みちゅえるのダンスとコラボして完成させた応用技術。真空消滅を期限とする研究開発の時間的な制約がなくなったのは大きい。三弥栄がこちら側へ来た時のような命懸けのリスクの心配はなく、上手に踊れれば安全に三弥栄のいた元の世界へ戻れるはずである。
レッスンを終えた三弥栄は、今日も弟分を背負って踊る。
目指すは三弥栄が天国への階段を登った日から3日後の使節管理室。
「いつでもこっちに戻って来れるように準備しておくからね」龍美は三弥栄に伝えて手を握り「天国への階段登り」の技術についての論文を持たせる。
三弥栄は小さく頷き「では、行きます」と言って接続室に入り、現れた階段を踊りながら降って行く。
暗闇を抜けて反転。光に包まれる。
どうやらダンスの練習がようやく身を結んだようだ。
眩しさに慣れて見渡すと外にいて、
三弥栄は足下にうんこを踏んでいた。
~完~




