11-3 めくるめく世界
11-3 めくるめく世界
虎太郎はずっとソワソワしている。「The book」はそれはもう、鍵となるアイテムで最重要のマテリアルな訳だが、虎太郎は落ち着けない。
何時、何きっかけでブックカバーが外されやしないかと、ずっとドキドキしている。なるべくならばブックカバーの下は知られたくない。
三弥栄とみちゅえるは既に知っているし、サトルならまあ良いけど、龍美とハリー堀田に表紙を見られるのだけは非常によろしくないと思い続けている。
別線の己はめんどくさい仕込みをしてくれたものだと、此処へ来ての個人的な影響の大きさを噛み締めている。
「本を捲る」
サトル博士がそう言ってから先、その事情から虎太郎は三弥栄やサトルとは違う、別の覚悟を決めていた。
矢先、「本を捲るってどう言うことだよ」と言ってハリー堀田が「The book」を手に取り、ブックカバーを雑に捲り取った。
「あぁぁ……」虎太郎が立ち上がり両手を前に弱々しくかがみ込む。
ハリー堀田は「The book」の表紙を見て「なに、虎太郎日記って」
「The book」の表紙は「虎太郎日記」に改変されていた。
「あ、あぁぁ……」虎太郎は安堵してさらに力が抜けた。
現在の本の中の人、三弥栄が何かしら察して、中からそうしたようである。男性生理に対する共感性が有機的に「The book」へと及んだ、稀有な事例であると言える。「The book」は中の人の感性に順応する可能性がある。
そして三弥栄は、本を捲るってどう言うことだろと疑問して、本の内側、つまり深淵側から本を捲る気持ちで捲ろうとしたら捲れそうになってすぐ止めた。「内側から簡単に捲れちゃうじゃないか」
三弥栄はサトルが「自分がやる」と言って教えなかったやり方を自分で見つけてしまった。
三弥栄が生体時間転移して来た際にみちゅえると行った、時空を掴んで剥がすのと同じ要領であった。
こっから先、どの面でサトル博士が自ら犠牲となって行う、真空消滅の阻止を見ればよいものかと、三弥栄の立場を複雑にした。
そして、三弥栄は複雑なのはもう嫌だった。
もう歪な嘘をつきたくない。
一旦もどした後、深淵を内側から一気に捲った。
捲り上げた三弥栄を介して、深淵と世界の位置が逆転する。深淵と世界は三弥栄を通って、三弥栄は「The book」の中、2つ世界をルーターとして接続して入れ替える。三弥栄は通り抜ける全てを濾過した。そして真空消滅を受けて三弥栄の接続はその意識と共に消えた。
三弥栄は、世界を真空消滅から守り、ついでに虎太郎の個人的な名誉を守った。
そして、ポンコツがしくしくと泣いている。
「兄弟が、兄弟が…俺はずっと忘れていて、俺は忘れていて……」
みちゅえるは何が起こったのかを理解していた。
「あいつ、勢いでやりやがった…」
虎太郎、龍美、ハリー堀田、サトル博士は、一瞬の目眩の後、何が起こったのか分かっていない。
みちゅえるがサトル博士に伝える、「博士が言ってた、捲るっての、あっちで三弥栄がやっちゃったみたいよ」
「三弥栄さんが?」
「そう、三弥栄が自分で」
「そ、そしたら三弥栄さんは……」
「そこで泣いてる」
みちゅえるが泣いているポンコツを指差す。




