11-2 サトル博士はかく語りき
11-2 サトル博士はかく語りき
ご相伴にあずかりまして光栄に存じマッスル。
私、七 学と申します。
サトルは苗字だった!!
「苗字っ!?」
虎太郎以外が口にした。
「言わなかったっけ?」虎太郎が小首を傾げる。
言葉尻マッスル、苗字サトル、そしてご相伴。ハリー堀田は「こいつ、達者」と判断。ヘビーメタる説教モードはガチで行かなきゃ返り討ちのイメージまで持った。
「まず確認なんだけど、この時点、真空消滅は回避出来てるよね?」サトル博士が確認する。
虎太郎「残念ながら真空消滅は始まっています」
「時間転移しても上手く行かなかったのか…」サトル博士はトーンを下げる。
「本来、」サトルが語る
「本来なら、三弥栄さんが生体時間転移することで、真空消滅の発生は防ぐことが出来たはずなんだ。私はそうなるまで深淵でやり直し続けた。これでダメだと言うのは、変態した三弥栄さんとその本が、真空消滅と同じ作用をしたからだ」
「そう、あなたの目論見通りには行かなかったのよね、今、ここにこうしてるのは、全てあなたが発端。あなたの生み出した技術が引き起こした結果よね。あなたは三弥栄を利用して深淵から脱出したけど、真空消滅の回避に失敗している」ハリー堀田が追求する。
「脱出と消滅回避、両方は賄えない…」龍美が諦めたように言う。
「いや、三弥栄さんとその本は生体時間転移で変態している。さっき本に入って分かった。本の中には閉じ込められていた深淵がある。わかるか?深淵があるんだ。私はそこへ5000億年閉じ込められて出られなかったんだ。出られなかったそこを、今、自由に行き来してるんだよ、三弥栄さんの意思で。三弥栄さんと私の意識は深淵へのパスポートを手に入れたんだ」
「それって、何を意味するの?」龍美が聞く。
「深淵にある真空消滅を観測したことで真空消滅は始まってしまった。真空消滅は観測した深淵から始まってこっち側へ向けて出て行ったんだ。我々は真空消滅のいない深淵側に入ればよい。そこ(The book)を器としてシェルターにする」
「ちょっと観念的すぎるよ、言われてはいそうですかって言える代物じゃない」ハリー堀田が根拠が伴わない内容だと一蹴する。
「けど、それは起こっていて、真空消滅も深淵もその最中に私たちがある」龍美は根拠云々あっても、そうなっている現実を考えている。
「もう、リセマラはしないの?まあ、した所でってのはあるけど」ハリー堀田が確認する。
「三弥栄さんが生体時間転移したので、これ以上のループはない。ループをすれば、元々こちらの世界の人ではない三弥栄さんは普通に死ぬと思う。かと言ってこのまま消える世界を黙って迎えるのであれば、5000億年と言うどうしょうもない無駄な時間を私は過ごしたことになる。ギネス所の話ではない」
「自覚はしてるのね」
「自覚?」
「あなたの招いた結果のことよ」
「すまない、どう思われようと構わないが、まだ私は私の結果に至っていない。やるべきことが残っている」
ハリー堀田とサトルの会話は、サトルがまだ諦めていないことをはっきりとさせた。
「その本を捲って、深淵とこの世界を入れ替える」
サトルの作戦が語られる。
「真空消滅、真の真空をしつこい油汚れと考えて欲しい。そして、この本を捲るって言ったのは、MA1ジャケットのようなリバーシブルをイメージして欲しい。内と外を捲り返す。捲る時に汚れを落とす洗剤が三弥栄さんと私、どちらかの本の中に置かれた意識だ。真空消滅を包んで洗い落とす。その為にその本を捲って深淵と配置を変える。シンポジをチェンジするんだ」
観定団メンバーは、生活感漂う比喩が組み込まれた、宇宙救済作戦のプレゼンに、あれ?本当にこれであってるの?と疑問した。
「The book」の中の三弥栄は「とうとう出たね(完全犠牲死亡フラグ)」と、最初(天国への階段)からそうなるんじゃないかなぁと言う予感が当たったことを半笑いする。
三弥栄はさらに予感する。「あれ、これ、本の中に誰の意識を置くか決めるのは俺?ってことは俺がここにどっちの意識を置くか決めにゃならんってことで、それはつまり、俺以外を入れるっつたら、それはサトルさん確定で、俺がサトルさんを犠牲にするってこと?どうすんだよこれ、なんか、申し訳なくて出来ないだろ。後味が悪すぎる」
そう、結構な選択権を三弥栄は持たされている。善人面して行う白々しい犠牲の譲り合い精神が展開されることが容易に想像される。
「本を捲るってどうやって?」
サトルが「The book」の文字を読み上げて答える。
「良いところに気がついたね三弥栄さん。心配せんでいい、やるのはわしじゃ」サトルがなんかかっこいいことを言った。




