9-3 思い出してごらん
9-3 思い出してごらん
三弥栄、サトル、みちゅえる、The book、消滅した世界から来た面々。
虎太郎、龍美、ハリー堀田、これから消滅する世界を知る面々。
「これからどうする?」
みちゅえるの問いに、それぞれの胸に思いがよぎる。
虎太郎は「これからのこと、観測情報の解析や明日の三弥栄さんの検査の結果も踏まえて考えて行かなきゃでごぜます。やるべきは消滅の回避。こちらから探すことなく、みちゅえるさんと合流できたのも事態の好転と捉えます」と前を向く。どうするかは、この場この場所で出る答えではない。
「じゃ、とりあえず解散?」
ここまで、何が起こっているのかよく分からないが、みちゅえるのパワーに圧倒されていた弁護士ハリー堀田は、そう言ってまた車のるのは誰か確かめはじめる。近くの駅まで送ってくれるそうだ。彼女は根が優しく、人権問題に強い。
そうして、三弥栄とサトルはしばらく研究所の宿泊設備を寝床として生活することになった。
翌日、三弥栄の健康診断と精密検査と遺伝子検査が行われ、三弥栄の体内から諸々採られて撮られる。
数日後、検査の結果、三弥栄とサトルの遺伝子が100%一致する結果が送付されて来た。サトルは三弥栄で、三弥栄はサトルである。三弥栄の健康状態は良好で、体重は三弥栄の記憶する体重よりかなり減っており、中年太り気味だった本人はほくそ笑んだが、それとは別、容姿が全く違う、ぬいぐるみ質の物体を「これはあなたです」と報告され、目を丸くして「どういうことですか?」と虎太郎に問う。生体時間転移したら現れた別の形した自分。当然の疑問である。
虎太郎は「三弥栄とサトルの検体を検査依頼に掛けた自分の読み(勘)が当たった」と三弥栄に答え、「どういうことかはここから先、我々が導き出す必要がある」と言った。
サトルは自分に「名前」が付いて以降、検査結果が出るまでの数日で徐々に安定して来ている。忘れていたことを少しずつ思い出すかのよう。遺伝子が同一と言うことだが、三弥栄とは明らかに別の意識を持っており、なにか「自分」の記録や記憶を思い出そうとしている節があるが、行ったり来たり、分かっているのか、分かっていないのか、まだ頓珍漢ではある。そして、「兄貴、そういやおいら、なんか、ずっと閉じ込められてた気がするよ。名前は付けたんじゃなくて、思い出したんだ」と結果を受けた後、名前は元々の自分の名前だと、このタイミングではっきり思い出したようだ。
診断の結果報告書を一緒に確認した虎太郎は、合わせて自分の名前をだと思い出したサトルを見て「やはり、サトルは…」と疑念から確信を得たように呟き、サトルを両手で掴み「サトル、思い出してごらん、あんなこと、こんなこと、あったでしょ!!」と強めに揺らし始めた。
三弥栄は温和な虎太郎が急に取り乱したように見えて驚き、「博士、博士、ちょ、ちょ、落ち着いて」と肩に手を置く。
虎太郎は「博士はサトルだ、サトル、サトル博士でしょ、ねえ、サトル博士、あんなこと、こんなこと、あったでしょ、思い出してごらん!!」と更に強めにサトルを揺らし、頚椎にダメージが出そうな勢いで首を上下される。
「サトル博士、俺です、智川です、智川虎太郎です!娘は無事に産まれました、博士のおかげです!思い出して下さい!」
「おまえ、虎太郎か?」
サトルは首をガクガクさせながら虎太郎を叔父貴ではなく虎太郎と呼んだ。




