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2-2 半霊半物

2-2 半霊半物


臨時の研修を行うために借りた会議室へ向かう。

移動を始めると、婆さまを四人の警護が取り巻いた。

おあつらえ向けに黒いスーツにサングラス。婆さまは相当な要人らしい。



8階 第一会議室


「公安異局、零号警備教育官の人見瞳と申しますでよろしくな。イニシャルにHが二つのH2と呼んでおくんなまし」


到着して席につくなり、婆さんの自己紹介が始まる。

ホワイトボードには「人見瞳」と、イニシャル「H」が二つ、そして「H2」の文字。


部屋の四隅に配置された四人の黒服SPの圧力と、H2さんの醸す独特のオーラで、三弥栄は食傷気味だ。

心の中で人見 瞳を「H2B(Hitomi Hitomi Babaaの頭文字)」と呼ぶことにした。


よく見ると、SPの一人はAED(自動体外式除細動器)を抱えている。


「生理2日目でめちゃ気分悪いんでお手柔らかに」


H2B(82歳)なりの大人女性ユーモアなのだろうか。笑うのもなんなので、軽く頷いて流す。

おかげで緊張は少しほぐれた。



人の話を聞く前に、聞きたいことが山ほどある。

三弥栄が手を上げて質問する。


「いったい何が起きているのですか?」


細かいツッコミどころが多すぎて、出てきたのはざっくりとした質問だった。



質問を受け、H2Bが話し始める。


「この研修でな、あんたがあっちとこっちを行き来する“使節”として相応しいか、資質を見極めるだわよ。まあ、資質も何も、智川の声が聞こえて見えて、もう選ばれちまった訳だ。こっから先は、選ばれたあんたにどうするか選んでもらわにゃいかん。見極めと言うより、覚悟を求める説得ぢゃ」


さらに続ける。


「お聞きなさいよ。この研修は国家公安委員会の異局が管轄しておるんですわ。ここエキナで指名受けた選ばれし者を教育して別世界へ送り込み、世界間相互の安定と均衡を保つことを目的とする。この任務は公安異局で定められた特務、零号警備、通称ゼロケイにあたるのぢゃ」



H2Bの研修が始まる。


「まずは、これを見ておくんなまし」


モニターに映し出されたのは映画『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』のワンシーン。

ベイダー対オビワン。ベイダーのライトセイバーの攻撃に、オビワンの姿が消える。


「次にこれですわ」


次に映ったのは漫画『AKIRA』のコマ。

アキラに取り込まれた金田の精神が、ケイの前に現れる場面。


そのまま説明が入る。


「三弥栄にはこうなってもらう」



「こうなってもらう?」

よく分からない。ダース・ベイダーになればいいのだろうか。

ただでさえ食傷気味なのに、この説明は完全に消化不能。胡散臭い。

この後ネットワークビジネスにでも誘われるのではなかろうかと、三弥栄は混乱する。



H2Bは話を進める。


「今見たオビワンと金田、これは半霊半物の状態。三弥栄には、この研修が終わって13時からこれに挑戦してもらいたい」


幽霊にさせられる――。

三弥栄は「早い段階で逃げよう」と判断した。



「やってみるから見ててよ」


唐突にH2Bがそう言うと、SPが用意していたマットを床に敷き、H2Bは横になって白目を剥いた。


目の前に横たわるH2Bの肉体。その直角に、半透明のH2Bが佇む。

しかも服を着ている!服も幽霊ってことか!?


「ぎゃーっ!!」


三弥栄は「ぎゃーっ!!」と叫んだ。成人男性のそれは相当な「ぎゃーっ!!」である。



半透明でも服を着たH2Bが、声ではなく何か別の方法で語りかけてくる。

耳に聞こえるのか、頭に響くのか――智川に声をかけられた時と酷似する違和感。


「ということでですね、こんな感じに半霊半物になってるんですが、13時にあの部屋通った先に行けば、これができるようになって戻ってくるなんてことも出来るわけですわ」


傍らではSP達が、倒れているH2BにAEDで心肺蘇生を試みている。



「まあ、ワタシも歳をとってしまって、戻るのに電気ショックが必要になってしまったけど、もうちょい若けりゃバリバリよ」


何がバリバリなのかは分からない。

H2BはSPの後ろで浣腸のポーズをしつつ、二度目の電気ショックでも肉体に戻れない。



少し間を置き、H2Bは続ける。


「で、ここにいる連中には、ワタシが横になって心肺停止したのしか見えていないんよ。ようは透明人間だけど、心臓止まって死ぬのよ。私らがあっちとこっちの行来するにはこの状態にならなきゃいかんのよ。使節管理部を見に行ったでしょ?あそこは向こうと繋がると同時に、残された身体(死体)を置いておく場所(死体安置所)なのよ。あの中は保存が効くから放っておいても腐りゃせん。まあ冷蔵庫みたいなもんよ。時空間的なアレなんで、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』あるでしょ?あんな感じで、上手くいけば人によってはすぐ戻ってくるから。そのへんの仕組みはややこしいらしいわ。しらんけど」



儀式めいた研修を黙って見せられた三弥栄は、自分が非日常の得体の知れない世界に足を踏み入れたことを自覚する。


H2Bは自分の正体を明かす。


「ワタシが研修担当なのは、42年前の最初の使節だったからなのよ。その名残りでこれ(半霊半物)ができるんだけど、初っ端に見せると見せないとじゃ説得力が大違いなもんで、誰かが使節に選ばれる度、やってくれって呼び出されておる。宴会芸よね」


これ以上ない説得力だが、肉体には戻れないまま。



「これでいっかな」


そう言ってH2Bは、近くにあった廃棄予定のPepper君に半霊状態で潜り込んだ。

するとPepper君が起動。


「ちゅうことでワタシの研修はここまで。智川が見えていたってことは、あんたには間違いなくその資格がある。この後、こうなって何するんだか、二人目の講師が説明にくるから待っててよ。それまでちょいと休憩するがよろし。お大事にね」


そう言い、Pepper君(H2Bらしき)はSPにAED処置の中止を指示し、肉体を持たせて退室した。



H2Bの研修は迫力と説得力に満ちていた。

つかみどころ(実体)のない婆さまだったし、そもそもセキュリティセンターでのあのイカれた喚きは何だったのか。

本当に実体を持たないまま帰ったが、大丈夫なのだろうか。


※しばらくして、あの喚き散らしは、H2Bが病院で見かけた別の婆さんのモノマネだったと判明した。

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