8-8 固有名詞
8-8 固有名詞
「えっ?名前?そんな、名前だなんて…。まだ無いって、俺にはまだ早いって、そんな贅沢…」ぬいぐるみは、何かに遠慮している。「遠慮」する場面ではない。
ここまでふざけて来ると、逆に面白い。いや、最初から面白いので、実は全部「理解って(わかって)」言っているんじゃないかと三弥栄は疑う。「おまえ、分かって言ってねえか?あえて」
「何言ってんだ三弥栄、ただのポンコツポンコツぅー」ハリー堀田が笑う。騙し合いのシノギを渡ってきた、心理戦に長ける弁護士、ハリー堀田が言うのだから、ぬいぐるみは根がポンコツなのであろう。
「そっか、じゃあ、名前をつけないとだね。でないと私が不便。」と龍美が提案する。
「ポンコツ、なんか希望あるか?こっちで決めると変な名前になるぞ、ポンコツ」ハリー堀田は言い方はきついが本人の意向を尊重して確認する。彼女は人権問題に強い。
「そしたら、兄貴、サトルがいいな」
ものすごく普通の固有名詞が来た。
「はっはーっ!!したらサトルに決まりだ、あだ名はポンコツね」ハリー堀田があだ名を付けた。
「よろしくね、サトポン」龍美が折衷応用で呼ぶ。
「いい名前じゃないか、兄弟」三弥栄は任侠のノリを引き継ぐようだ。
「サトル…。ふーん、そう、サトルね」虎太郎が呟く。
結果、全員呼び方が違う。
「ありがてぇなぁ、名前が身に染みるぜ。おいらはサトルだ。よろしく頼む」サトルは呼び方が違えど、それぞれが思い思いの名前で呼ぶことを喜んでくれているようだ。
そうしてサトルと名前を付けつつ帰路に着く。
三弥栄とサトルは暫く研究所で寝泊まりすることとなり、とりあえず虎太郎と龍美も一緒にハリー堀田に車で研究所まで送って貰った。
研究所の前で誰かが踊っている。
ダンサーは今、目の前で警備員に注意されてつまみ出されようとしていた。
金曜日。夜はまだ終わらない。




