8-7 その名
8-7 その名を
「兄貴、お勤めご苦労様です」
警察署を出ると、ぬいぐるみが迎えてくれた。
これ(ぬいぐるみ)に、どういった設定がされているのか教えて欲しいと三弥栄は思った。
釈放帰りの車中にて、三弥栄は全員に感謝する。
「ありがとうございました。事情が事情なのでどうなってしまうものかと…」
「あなたが、三弥栄さん…。はじめまして、私…」
名乗ろうとする龍美に三弥栄が被せる。
「あ、自分、三弥栄と申します、あなたを知っています。2回目のはじめましてです。龍美さん、よろしくお願いします」
そしてぬいぐるみへ「何度か体を使わせて貰ったけど大丈夫?」と「入れ替わり」のことについて声を掛ける。
「兄貴、何言ってんだい兄貴、おいらはいつだって体を張るぜ、心配してんじゃねぇよ、兄貴」と、ぬいぐるみは喜んだが「入れ替わり」の理解はしていなさそうである。
「お、おう、これからもよろしくな」三弥栄は返事を合わせた。
そんな三弥栄をハリー堀田が、運転する車のバックミラー越し、チラ見した後に美味そうな物でも見たような顔をした。ハリー堀田は積極性を持ち、自立した未婚の成人女性。この世界が消えると知って尚、いや消えると知ったからこそ尚、隙あらばと三弥栄を観察する。そんな彼女の行動と表情を大学同期で勝手知ったる助手席の龍美は「だと思ったよ」と、♀︎スピリチュアル(女の勘)を発動して察知した。
そして虎太郎が「ぬいぐるみの正体が分からないんで三弥栄さんの毛とぬいぐるみの毛をDNA鑑定に出したんだけど、三弥栄君の検体が足りないって言われてしまったので、明日検査を受けに行って貰える?」と検査を受けてと申し出る。
「検査、DNAの…やっぱりこれ(ぬいぐるみ)は生きてるんですかね?」
「生きてます。今のところ哺乳類っぽい生命体だってことは分かります。あとは不明でごぜます。私の予想が当たっていれば、おそらく、ぬいぐるみの言うとおり、三弥栄さんの弟みたいなもんだと思うので確かめたいんです。入れ替わりで何が起こっているかも」
科学的に身体を調べられる。実験体だ。
三弥栄は天国への階段へ足を踏み入れて以降、自分をずっと実験体だと理解しており、この期に及んでは、もう好きにしてと、覚悟とはまた別、諦めと受容の狭間の感情を持っている。
「話の筋からすれば、確かに三弥栄とぬいぐるみは血の繋がりがありそうな感じがする」ハリー堀田が感想を述べる。
真空消滅した世界と、今ある世界の違う点は「三弥栄」「ぬいぐるみ」「The book」の存在。これを解析して龍美の観測により確定した情報へどう充てて行くことができるか、突き詰めて行かなくては今後の可能性が見えない。
「わかりました。なるべく痛いことしない方向でお願いします」三弥栄は自身とぬいぐるみの役割を見出すために明日検査(実験込)を受ける。
「兄貴、てことは、虎太郎の叔父貴と兄弟の盃を交わしたのはいつですかい」ここまでの会話からぬいぐるみは虎太郎を叔父貴と認識した。ぬいぐるみは世界をどう認識しているのか、検査でわかるなら確かに知りたい。
「ねえ、そういえば、お名前はなんて言うの?」
龍美がぬいぐるみに聞く。




