8-6 FREEDOM
8-6 FREEDOM
警察へ向かう車中、三弥栄は元の世界からどうやってここまで来たのかを、虎太郎は龍美の観測データが「The book」に記された結果事象に繋がることが分かってきたことを、龍美はハリー堀田も大学のサークル合宿の肝試しで仕込んだ別人と入れ替わって大混乱させたことをそれぞれ共有した。
ハリー堀田は、結論として、今、この宇宙も消滅ルートに入ったことを理解した。恐らくこれから消滅が到達するまでの間に、「三弥栄」「ぬいぐるみ」「The book」を龍美の観測した真空消滅の発生とその他の技術情報に噛み合せることが別の可能性(理屈)を展開させると、法律家として予感した。
つまり、早いところ「三弥栄」を自由にしなくてはならない。
「おもろいじゃん」
ハリー堀田は消滅する宇宙を知って、面白がっている。
到着した警察署にて、ハリー堀田は面会の手続きを行い、改めて三弥栄と対話する。取り調べ中の面会は弁護士しかできない。
「改めまして、三弥栄文楽です」
「本当にぬいぐるみだったのね」
「天国への階段を登って来たと言えばわかりますよね」
車中でぬいぐるみの三弥栄が語った内容。間違いない。
ぬいぐるみとの「入れ替わり」これはとんでもない能力。法的に身体の自由を拘束された人物が外部で活動をした。ハリー堀田は法律家として、現実を超越する力と対峙している自分を、法の正義を、天秤に掛けた。
事情を知った今、三弥栄の身元引受けによる釈放は宇宙の命運を掛けた真空消滅への抵抗となる。
何かの導きと受け止め、与えられた仕事を行う。
ハリー堀田は三弥栄に「自身の氏名年齢をきちんと警察に話し、住所はなく、仕事にも就いていないことを説明して、虎太郎に連れられて入った研究所内でトラブルにあって、あのように迷惑を掛けてしまった。反省しており、身元も智川虎太郎博士が引き受けてくれると証言しなさい」と伝える。
この証言に嘘はない。三弥栄は確かに虎太郎(消滅した世界の)に生体時間転移で連れて来られてトラブルに巻き込まれている。
面会を終えたハリー堀田は、警察官に状況を説明し、再度の取調べを要請。
簡単な聴取ののち、智川虎太郎博士が「身元引受人」として署名する。
弁護士立ち会いのもと、身元引受書が作成され、調書は閉じられた。
罪は軽微、被害届なし、引受人あり――条件は揃った。
警察は勾留請求を見送り、三弥栄文楽はその夜、釈放された。
必要条件を整えて行う淡々とした法定手続き。
ハリー堀田は法の専門家である。




