8-4 悪手
8-4 悪手
取り調べが再開される。
「年齢が2時間ってどう言うことだ?」
新人の取り調べ官が三弥栄に聞く。
元に戻った三弥栄は黙秘する。
「舐めてるのか?正直に話さないと長引くぞ」
年齢が2時間ってどう言うことだ?
黙秘する三弥栄が新人のセリフ丸ごと同じ疑問を持つ。
「服を着たことがないなんて、本気で言ったのか?そんな人間がいるわけないだろ」ベテランが三弥栄の証言を確認する。
「服を着たことがないわけあるかい」と三弥栄は心の中でベテランに突っ込みを入れた。
三弥栄は嫌な予感がしている。このまま完全黙秘は悪手だ。
「刑事さん、智川虎太郎博士が自分の為に弁護士を依頼してくださっています。弁護士と話をしてからお話をします」三弥栄はそう言って、こちらの世界に存在しない、自分の個人情報含め、一切を黙秘した。
取り調べ官は受け答えがまともである事に間を置いた。
既に掃除のおばちゃん及び、カーテンの所持者である研究所施設保有者は被害届を出さないことが警察に伝わっているのだが、如何せん、「三弥栄文楽」と言う人間の証明は出来ないので、三弥栄は言わずを決め込み、弁護士の対応を待っている。
気になるのは、自分がぬいぐるみ化している間、取り調べで何か粗相をしている気がすることである。
年齢が2時間、服を着たことがない、これを自分が警察に言ったとわかるのだが、これは、三弥栄の勘が正しければ、ぬいぐるみ化の最中、ぬいぐるみと「入れ替わって」おり、この頓知気な発言は三弥栄の中にいた「ぬいぐるみ」が行ったと推測される。
やばい能力だと思ったが、リスクもやばかった。簡単に利用できるものではない。
昼11時から始まった取り調べは19時を迎えてこの日は終了した。罪が比較的軽微なため、被害者からの直接の起訴は無いが、勾留請求されるかどうかは、三弥栄の身元をどう引き受けるか、弁護士の手腕に掛かってくる。
生体時間転移初日、様々な出来事に見舞われた、三弥栄の長い1日が終わった。
問題は残ったまま明日に持ち越される。




